【目次】
▶ 大気と海は常にCO2を交換
▶ 詳細が不明だった北極海のCO2吸収量
▶ カギは、クロロフィルデータの追加
▶ 面積は小さいのに、たくさんCO2を吸収
▶ 安中さんは、できたての制度で走ってきた研究者!
北極海における1997年1月から2014年12月までのCO2吸収量の定量化に成功しました(図7)。北極海全体で積算した吸収量は、1年あたり180±130 テラグラムカーボン、炭素換算で約1.8億トンであるとわかりました。これは、海全体で平均した吸収量の約10%に相当します。北極海は、全海洋の面積の3%に過ぎないのに、約10%ものCO2を吸収しているのです。北極海が重要なCO2吸収域であることを意味します。
図7 北極海のCO2交換量。吸収が大きかったのが、グリーンランド海、バレンツ海、チャクチ海。これらの海域は風が強く海氷が少ないために、吸収が大きくなったと考えられる。
1997年から2014年にかけて北極海全体のCO2吸収量は横ばいでした。吸収量が増加した海域も減少した海域もあったためです。たとえばグリーンランド海やバレンツ海北部では吸収量が増加しており、これは海氷の減少が顕著だったためだと思われます。しかしチュクチ海やバレンツ海南部では吸収量が減少していました。水温が上がって、海に蓄えられるCO2量が減ったためと考えられます。
これから北極海の海氷はさらに減り続けると思われます。海氷減少でCO2を吸収しやすくなる効果と、水温上昇で海が蓄えられるCO2の量が減る効果。どちらの方が大きくなるかはまだわかりません。今後も注意深く監視していくことが重要です。
一方で、北極海のCO2吸収と同時に懸念されるのが「海の酸性化」です。海水のpHはふつう弱アルカリ性ですが、CO2が多く海水にとけ込むと、少し酸性側に近づいてしまいます。これを海の酸性化といいます。
海の酸性化が進むと、炭酸カルシウムの殻や骨格を持つ生き物(写真2)は成長が阻害されてしまいます。炭酸カルシウムの殻や骨格が作りにくくなってしまうのです。
そうですね。そして、これまで間接的な見積もりだった北極海の吸収量を今回“直接”定量化できたことは、地球全体のCO2交換量の見積りの不確かさを減らすことに貢献します。