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話題の研究 謎解き解説

最新スーパーコンピュータ技術を駆使して暑さから人々を守る!
ヒートアイランド対策に「地球シミュレータ」による予測結果を活用

【目次】
ヒートアイランド現象とは?
暑熱環境シミュレーション
樹木モデルと都市3次元放射モデルを実装したMSSG
結果に基づき、実際に整備へ
難題こそおもしろそう

樹木モデルと都市3次元放射モデルを実装したMSSG

熊谷というと、夏にニュースなどで出てきますね。

熊谷は猛暑で知られているかもしれませんね。埼玉県北部に位置し、地形的に暑くなりやすい条件になっています(図3)。2018年7月23日には41.1°Cを記録し、日本最高気温を更新しました。埼玉県では、こうした暑い街をクールダウンし快適に過ごせる街を目指そうとヒートアイランド対策を推進しています。


図3 あついぞ!熊谷

特に今回注目した熊谷スポーツ文化公園(写真2)では2019年にラグビーワールドカップの試合が開催され多くの観客が集まる見込みですので、埼玉県もヒートアイランド対策に力を入れています。


写真2 熊谷スポーツ文化公園

どのような流れで研究を進めたのですか?

まずは暑熱環境シミュレーションをするための情報収集をしました。熊谷スポーツ文化公園を中心とした5㎞エリアについて(図4)、実際の地形、建物、土地利用状況(図5)などがわかる地図データを集めました。


図4 対象エリア

図5 土地利用状況のデータ

園内については図面を提供していただき、どこにどのような建物があるのか、どのような高さの樹木があるのかなども調べました。集めた情報をすべて総合して3次元データ(図6)を構築し、シミュレーションで使えるデータ形式に変換しました。


図6 収集した情報に基づいて構成した3次元データ(対策前)

暑熱環境シミュレーションに設定する日にちを典型的な猛暑日だった2010年8月26日に決めて、シミュレーションの初期値や境界値に使うための気象データを気象庁などから入手しました。

ここから暑熱環境シミュレーションです。「地球シミュレータ」(動画2)と大気海洋結合モデルMSSG(Multi-Scale Simulator for the Geoenvironment;通称メッセージ)を使います。


動画2 地球シミュレータ

MSSGはJAMSTECが開発を進めるモデルですね。

その通りです。一般的な気象・海洋モデルでは、全球スケール、メソスケール(特定の地域)、都市スケールについてそれぞれに異なるモデルが使われます。MSSGはこれらのスケールを1つのモデルで取り扱うことで、異なるスケール間の相互作用を再現することを可能にしました(図7、動画3)。地球全体から都市や街区など様々なスケールの大気現象と海洋現象を計算することができます。


図7 様々なスケールを1つのモデルで扱えるMSSG

動画3 MSSG

私は2012年からMSSGの開発に携わり、都市スケールの計算で放射と樹木の効果を取り込めるようにMSSGを改良するところを担当しました。

放射と樹木の効果とは、どういうことでしょうか。

建物の形が1つ1つ見えるような都市スケールのシミュレーションでは、風の流れや建物の形が3次元で考慮されていることが重要になってきますが、そこに加えて、放射も重要になります。

放射とは、光が離れたものに熱を伝える現象です。たとえば太陽の表面からは眼に感じる光のほか、赤外線、紫外線などが出ていて、それらが地球を暖めています。これが放射です。ただし、その光は建物の壁で反射してから地面に当たって、上へ反射するなど3次元的に伝わります。こうした3次元の放射を考慮すると計算量が莫大になるので、大きなスケールのときは上下方向1次元でしか考慮しません(図8左)。しかし、都市スケールになってくると、この放射を“3次元” で考慮することが非常に重要になってくるのです(図8右)。

図8 大きなスケールでは上下方向の放射だけが考慮されているが、都市スケールになると放射は3次元で考慮することが重要になってくる。

そして放射という面から見た時、樹木は複雑な効果をもたらします(図9)。樹木の葉は日射などを遮るわけですが、木漏れ日のように一部を透過しますし、散乱させもします。また、樹木の葉には風を弱める効果もあります。さらに、葉の表面にある気孔からは水分が水蒸気として大気に放出される「蒸散」という現象が起きていて、これによって葉の温度の上昇が抑えられます。


図9 樹木の効果

こうした放射と樹木の効果を計算するモデル(図10)を開発してMSSGに実装することで、建物や植物の表面での加熱・冷却を考慮して、時々刻々変化する風の流れを3次元的に計算できるようにしました。


図10 MSSGに組み込んだ樹木モデルと都市3次元放射モデルのイメージ

今回使ったMSSGは、放射と樹木の効果が実装されていることがカギなのですね。

このMSSGを使った暑熱環境シミュレーションを「地球シミュレータ」で実行して、駐車場からラグビー場に向かうルートへの高木の植栽、その並木道に接する小森のオアシスの整備、観客ルートへの遮熱舗装、といったヒートアイランド対策を行うとどのような効果があるか検証しました(図11)。


図11 ヒートアイランド対策の効果はいかに?