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話題の研究 謎解き解説

「しんかい6500」、改修工事で操作性向上へ

「しんかい6500」(写真1)は、水深6,500mまで潜航できる有人潜水調査船です。1990年の運航開始以来、その潜航回数は1,500回を超えます。このたび、大規模な改修工事が行われました。その工事に前線で携わった飯嶋一樹さんにお話を聞きます。

  • 耐圧殻内を中心に、「しんかい6500」の大規模な改修を行った。
  • 耐圧殻内にある各種機器の配置を全体的に見直し、無線LANを使用して潜航情報等をタブレット型端末で確認できるようにするなど、パイロットの作業をサポートするようにした。
  • 改修によって、これまで以上に効率の良い潜航調査が期待できる。

写真1 有人潜水調査船「しんかい6500」

【目次】
操作性向上へ
パイロットの訓練は、難しい海域で

操作性向上へ

「しんかい6500」を改修したそうですね。どんな改修をしたのですか?

写真2 飯嶋 一樹 グループリーダー代理 1990年にJAMSTEC入所、「しんかい6500」運航チーム配属。1991年にコパイロット、1999年にパイロットに。2017年6月現在は、次世代探査システム等に関連する基礎技術にかかわる研究開発に従事している。

2016年11月から2017年3月にかけて実施された検査工事期間中に、搭乗者が乗り込む耐圧殻内の改修工事を行いました。耐圧殻内の大規模な改修は、「しんかい6500」が建造された1989年以降初めてです。耐圧殻内の改修前後はこちらです。


360度写真1 改修前

360度写真2 改修後

耐圧殻内の機器配置を全体的に見直し、潜航中に頻繁に使用するスイッチ等をパイロットの座る正面中央に集中するように入れ替えました。これにより、パイロットは座ったままでも手を伸ばせばスイッチ操作ができるようになりました。同時に左右の覗き窓周辺に設けられていた機器を移設して、研究者が観察しやすいように環境も改善しました。

写真3 よく使うスイッチはパイロットの座る正面中央に集中。左右の覗き窓周りもすっきりして観察しやすく改善。

随分変わりましたね。失礼ですが、改修後の方が無造作に見えます。

改修前は前面パネルを取り付けた完成されたコンソールになっていましたが、現状ではまだ使いながら配置を見直す可能性があるのでこのような状態になっています。そのため少々不格好に見えるかもしれませんね。

そうなのですね。

今回の改修で、これまで大きなスペースをしめていた総合情報表示装置(ADS;Automatic Data Display and Logging System)を小型化したことに伴い、無線LANを使用してタブレット型端末で潜航情報(図1)などを確認できるようにしました。
従来のADS表示部はバードゲージにモニターを固定した状態で使用していましたが、狭い船内で作業や観察に集中している時に体勢を変えずに手元で潜航情報等を確認できるようになり、とても便利です。


図1 タブレットに表示された、ADSによる潜航情報

このタブレット型端末では潜航情報の他に、「Shinkai Track」というナビ機能により「しんかい6500」の現在位置や航跡を確認する事ができます(図2)。

これまで海中では電波が届かずGPS等は使えないため、現在地を知るには支援母船「よこすか」に水中通話機で連絡をとり、紙の海底地形図に座標を書き込んで確認していました(写真4)。


図2 「Shinkai Track」の表示画面。黒マークが現在地、オレンジ線が航跡。

写真4 改修前は、海底地形図に手書きで現在位置を書き込んでいた。

「Shinkai Track」を導入したことで、現在位置や航跡がすぐにわかるようになったのですね。その「Shinkai Track」は、どうやって現在位置を調べるのでしょうか。

今回、船尾に対地速度計(DVL: Doppler Velocity Logs;地面に対する「しんかい6500」の速度を測る装置、写真5)を新設。さらに耐圧殻内に設置していたジャイロコンパスをリングファイバージャイロからリングレーザージャイロを搭載した慣性航法装置(INS: Inertial Navigation System;「しんかい6500」が進んだ方向と加速度を測る装置、写真6)へ換装しました。これらの機器が計測した値を「Shinkai Track」へ自動入力する設定としたことで、基準点から「しんかい6500」が移動した方向と距離を割り出し、いつでも「しんかい6500」の現在位置や航跡を確認できるようになりました。


写真5 DVL対地速度計

写真6 管制航法装置(INS)

「Shinkai Track」は、計測値を使って自ら現在位置を表示してくれるのですね!

タブレット型端末では、電源システムや推進器操縦システムなどの情報も確認できます。万が一異常が起きれば、警報アラームを鳴らせ知らせてくれます。

タブレット型端末は、まるでもう1人のパイロットですね。

耐圧殻内の改修には居住空間の改善の目的もあります。耐圧殻の内径は2mありますが、ここに必要な機器を取り付けて残ったスペースが居住空間になります。そこは大人3人が入るには狭いスペースです。限られたスペースを最大限効率的に利用できるように、これまでも耐圧殻内の機器を小型化してきました。とりわけ今回は、耐圧殻の中で大きなスペースをしめていた総合情報表示装置(ADS)を小型化できました。さらに応急用酸素ボンベを材質から見直し、軽量でこれまで以上に高い充填圧力で使用できるボンベに換装したことで搭載本数を減らすことができました。

以前より居住空間が改善されたのですね。

居住空間の改善を実施した背景には、今後予定されているワンマンパイロットでのオペレーションがあります。研究者が2名乗船した場合は左右にある覗き窓を同様の割合で使用することになります。これまで右舷側の覗き窓は、主にコパイロットの割り当てになっていた関係もあり、覗き窓の周囲にも機器が取り付けられ観察しにくかったのですが、耐圧殻内の改修によって必要な機器を耐圧殻の上半球へ移設したので、機器との干渉が解消され観察等を行う居住空間として下半球の使用できるスペースを確保する事ができました(写真7)。

写真7 耐圧殻内の様子。
左:改修前。足を折り曲げて座っても、3人の膝がぶつかる。
右:改修後。3人が胡坐をかいて座っても、中央にはタブレット端末を置く余裕がある。

パイロットが操作しやすいようにすると同時に、居住空間も改善したのですね。

毎回検査工事の後には、「しんかい6500」が水深6,500mの深海でもトラブルなく運用でき、安全に作業を行えることを確認するために試験潜航を実施します。「しんかい6500」はこの航海での試験に合格することで、今後の調査潜航を実施できる状態になったと言えるようになります。
例年同様に今回も2017年3月下旬に相模湾、駿河湾、小笠原諸島東方海域で試験潜航を実施しました。今回は大きな改修工事があったので、正直なところ色々とトラブルが起きることを覚悟していました。ですが実際は、特に大きな問題もなく試験に合格する事ができました。これは現場で検査工事に携わった関係者の作業に対する責任ある対応があったからこそだと思います。

色々改修したのにトラブル無しとはさすがです。おめでとうございます!