深海巡航探査機「うらしま」『今年のロボット』大賞2006優秀賞受賞 トップページへ戻る

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「うらしま」が『今年のロボット』大賞の優秀賞に選ばれました。

JAMSTECが開発している深海巡航探査機「うらしま」が、『今年のロボット』大賞2006の優秀賞に選ばれました。『今年のロボット』大賞は、ロボット産業を、世界をリードする新産業の一つに成長させるべく、経済産業省が今年新たに創設しました。

『今年のロボット』大賞ホームページ:http://www.robotaward.jp/

「うらしま」は1998年からJAMSTECが開発を続けている自律型の深海探査ロボットです。機体に内蔵したコンピュータに予め設定されたシナリオに従って、自分の位置を計算しながら航走することができます。2005年2月28日には、世界で初めて燃料電池を搭載した自律型無人機として世界記録、連続航走距離317kmを達成しました。
「うらしま」は地球温暖化のメカニズムを解明するために必要な塩分濃度、水温等の海洋データを、広範囲にわたって自動で採取することができます。また、船舶では観測が困難であった、北極海や海底火山周辺の調査が可能となります。深海の詳細な探査を行うため、今後の活躍が期待されています。

深海巡航探査機「うらしま」の詳細

自律型無人探査機技術研究グループ ホームページ:
http://www.jamstec.go.jp/jamstec-j/maritec/amtp/autonomous/index.html

開発者にインタビュー

海洋工学センター
自律型無人探査機技術研究グループ
サブリーダー 月岡 哲

「うらしま」が『今年のロボット』大賞の優秀賞に選ばれたご感想は?

海中ロボットには様々な形態がありますが、深海を巡航する無人探査機をロボットとして認めていただきました。「うらしま」の技術課題には海中での慣性航法技術および閉鎖式燃料電池システム等があります。今回の受賞に際しては、技術課題を目標どおりに達成したことと熊野トラフでの計測例などについて高い評価を頂きまして誠に光栄です。評価委員の先生方からも「良くここまで完成させましたね」とのご感想を頂戴しました。
振り返ると、ロボットの各構成要素について陸上試験と海域での実証試験を繰り返しながらロボットを進化させてきたように思います。年毎の目標を達成できなかったこともありますが、着実に上手く形を変えて完成させてきたという気持ちです。今回の受賞によって、ロボットの開発の経緯が正しいと評価されたとも考えられますし、これからの技術開発の励みにもなります。


開発ではどのような苦労がありましたか?

一番の苦労は閉鎖式固体高分子型燃料電池(以下、「閉鎖式燃料電池」と称します)です。なぜ、燃料電池を海中に適用したかと言うと、水素と酸素の反応から得られる電力エネルギーは同じ重さの電池よりも、理論的に大きいからです。言い換えると同じ大きさのロボットでも航行距離が伸びることになります。二酸化炭素排出を抑制する環境問題を解決するために、自動車は固体高分子型燃料電池の開発が進められていますが、閉鎖式燃料電池の目的は新しい海中電力貯蔵技術の開発でした。燃料電池は水素ガスと酸素ガスを触媒で反応させて電気を取り出す発電装置です。自動車の燃料電池では大気を利用できるために構造が簡単になります。このような大気に開放した構造の燃料電池に対して、海中では水素と酸素を開放することができません。従って、海中用の燃料電池を閉鎖式燃料電池と呼ぶようになりました。閉鎖式燃料電池は技術的に確立していない部分も多く面白いのですが、逆に癖があって直さなくてはいけないところがたくさんありました。

 閉鎖式燃料電池では燃料として水素を利用します。当初は高圧ボンベに貯蔵する計画でしたが、安全性や燃料補給を重視して安易な高圧ボンベ方式ではなく、水素吸蔵合金という水素を吸収する合金を利用する方式に切り替えました。水素吸蔵合金は貯蔵した水素を温めることによって放出するので、水素の供給を保つためには暖めなくてはなりません。燃料電池は発電と同時に熱も発生しますから、その熱を温水として蓄熱し水素吸蔵合金に熱を与えました。ところが、深海は冷たく容易に海水に熱を奪われてしまいました。このような赤字の熱収支を黒字にしなくてなりません。断熱に発泡スチロールなどを利用しますが、環境圧の高い海中では潰れてしまいます。高い環境圧に抗する種々の素材を断熱材として試しましたが、最終的には浮力材になりました。硬くて加工が面倒ですが、断熱個所の形状に合わせて加工して隙間無く付けました。その結果、熱収支が黒字になって期待通りの電力量を取得することができました。
※浮力材はガラスの中空の玉を樹脂で固めた物で浮力と合わせて断熱効果がある。

うらしまの燃料電池と
月岡サブリーダー

いまのところ閉鎖式燃料電池で成功した自律型無人探査機(AUV)はまだ他に例がありません。「うらしま」は2005年に閉鎖式燃料電池による海域試験を終了し、今はリチウムイオン電池を搭載しています。海域試験で明らかになった閉鎖式燃料電池の課題を陸上で整理し解決して完成度を高めたいと考えています。将来は再び搭載して、航続距離を更新したいと思っています。

海中で、浮きも沈みもしない状態(中性浮力)になるよう、「うらしま」の機体には浮力材が使われている


「うらしま」のアピールポイントは何ですか?

 閉鎖式燃料電池、慣性航法など海中航法技術、探査技術などの最先端技術を実証したということです。最先端の技術開発というのは一筋縄ではありません。各技術要素を陸上で完成させてから海中で実証する、この繰り返しを継続して完成させたことです。当初はロボットとして社会にも存在を知られていませんでしたが、上述の開発成果を通じてアピールできるようになりました。近年では、深海底や海底下の地層構造探査を試験的に実施しています。各データを取得しながら、メタンハイドレートの海底エネルギー資源や地震活動に起因するような海底の地形変化などを効率良く調査できることもアピールできるようになってきたと考えています。


「うらしま」はこれからどうなっていきますか?

まだまだ進化します。航続距離300km、水深3500mという一つの技術目標を達成しましたが、この過程で発生した課題も多く残っています。閉鎖式燃料電池以外にも制御用コンピュータのハードウェアとソフトウェアなど新しい技術を組み入れていきます。目標を設定してハードやソフトの一部を更新していますから、年毎に進歩しています。毎年の蓄積ですが、独自の技術に育つと期待しています。
ロボットの技術が進化すれば、いろいろな用途に応用することができます。マニピュレータ(マジックハンド)を付けることもできると思います。将来は、理学探査はもちろん、マンガンなどの希少金属の資源探査や海洋牧場での食料生産など、いろいろなところで活躍するようになるでしょう。


最後にひとこと

「うらしま」はJAMSTECだけでなくメーカなど関係した技術者の英知の結集と感じています。途中の結果には成功例だけでなく失敗例も多くありました。いずれの場合も要素技術にフィードバックされると同時に海中機器技術のノウハウとして蓄積してきました。近年の「ものづくり」、その真意は奥深いのでしょう。海中ロボットに関わる「うらしま」チームでは、基礎理論を参照しながら、傍らの品物に図面と工具で立ち向かう実践技術を考えています。