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ピカソ、沖縄の海にもぐる!〜生物調査の空白域にチャレンジ〜

2010年9月20〜30日に、深海生物追跡調査ロボットシステム「PICASSO(ピカソ)」が初めて沖縄の海で生物調査を行いました。調査を行ったのは石垣島周辺の深さ100〜200mの海域です。この深さはダイバーが特殊な装備無しで潜れる40mよりも深く、またJAMSTEC所有の有人潜水船や無人探査機で調査するには浅いため、調査の空白域となっていました。ピカソの1000mまでの潜航能力と高い機動性により今回の調査が実現しました。

沖縄の海は、浅いところにはサンゴ礁があり、また深いところでは海底下からメタンなどを含む海水が湧き出す冷水域や熱水が噴出す熱水域などの特殊な生態系が存在しています。

100〜200mの深さはサンゴ礁と深海の生態系の間にあり、一体そこにどのくらいの生物多様性があるのか研究者は非常に興味を持っています。

今回の調査では、ピカソに搭載されたハイビジョンカメラを使って、サンゴ礁よりも深い層に生息するさまざま生物の様子を鮮明な映像で撮影することに成功しました。

調査の様子と成果をご紹介します。

深海生物追跡調査ロボットシステム「PICASSO(ピカソ)」

ピカソは深海の生物調査を目的に開発された小型の無人探査機で、ハイビジョンカメラや深海現場調査用実体顕微鏡(ビジュアル・プランクトンレコーダー:VPR)、高輝度ライトを搭載することができ、プランクトンなどの深海生物を高解像度で撮影します。小型船にも搭載できるので、機動性に優れています。

空中重量
200kg
大きさ
2m(L)×0.8m (W)×0.8m (H)
最大潜航深度
1,000 m
電源
リチウムイオン電池
運航モード
UROV

石垣島と西表島の間に挟まれた石西礁湖と呼ばれるサンゴ礁で調査が行われました。四角で囲まれたところが調査海域。

調査に使われたシーガル号。普段はダイビング支援船として使われています。

ピカソのシステム1式を1つのコンテナに収めて現地に輸送することができました。

潜航前の整備。ピカソは海洋生物と工学の研究者が共同で開発しています。

ピカソの着水揚収の試験。今回初めてクレーンを持っていない船を使って、ピカソの着水揚収を行いました。昇降台を傾けてロープで引っ張りながら少しずつ海面に降ろしていきます。 この運用方法の確立により、世界中どこでも現地の船に昇降台を設置することでピカソの調査ができるようになりました。 来年はオーストラリアのグレートバリアリーフでの調査を計画しています。

調査海域に到着すると、潜航前に141項目の作動確認を行います。

みんなで力を合わせてピカソを海に降ろします。


潜航開始。

3つの画面を確認しながらピカソを操作していきます。 左から、ピカソが撮影している映像をリアルタイムで映す画面、ピカソの向きや動きを表示する画面、ピカソの位置を確認する画面。

水中カメラマン撮影によるピカソの活動風景

「いいね、いいね!」とピカソから送られてくる映像を見て歓声を上げる研究者。左が本調査のリーダー、ドゥーグル・リンズィー研究員と右が東京大学大気海洋研究所の西川淳助教。

ハイビジョンカメラが捕らえた鮮明な映像。
ピカソは照明の当て方を工夫し、対象物の輪郭をくっきりと映し出すことができます。

水深50mを越える海底においてテーブルサンゴや熱帯魚の姿を鮮明に見ることができました。

本調査は11日間の調査日程のうち、前半で着水揚収と潜航の試験を行い、後半で生物調査の潜航を3回行いました。生物調査で撮影された映像の解析から、水温が急激に変化する「水温躍層」より深い層に栄養となりうる粒子マリンスノーが薄い層ではありながら高密度で出現していたことがわかりました。また、熱帯魚の分布に関しては、深度、水温、塩分濃度などのデータと映像による出現記録を合わせて解析すると、熱帯魚各種の好む環境がわかりそうです。

調査の参加メンバー。JAMSTEC、東京大学大気海洋研究所、大阪大学、広和株式会社、瀧澤鋳機製作所が共同で行いました。

テレビ番組の撮影も行われました。
11月7日放送のテレビ朝日「奇跡の地球物語」で調査の様子が紹介されます。