7年目の3月11日を迎え、M9クラス地震そして海域の地震にともなう津波のおそろしさを改めてかみしめた方も多いと思います。地震の被害は、巨大地震のみならず、兵庫県南部地震、新潟県中越地震、熊本地震のようにM6-7クラスの地震でも震度7の揺れが人の住む街を襲って生じることがあります。最近台湾花蓮市に震度7の揺れと死者17名、建物倒壊の被害を及ぼした台湾地震の特徴や概要などについて、台湾の地震に詳しい研究者からコラムに今回投稿してくださることになりました。フィリピン海プレートの沈み込みは、北端で伊豆半島の衝突があり、南東端では台湾に衝突しています。同じフィリピン海プレートに対峙している私たちには、この地震と被害から、テクトニクスの理解にも耐震対策のあり方にも、学ぶべきことがあります。
2018年2月の始め、とくに4日以降マグニチュード5を越える数十個もの地震が台湾島東沖に群発しました。その2日後の2月6日午後11時50分(現地時間)には、ローカルマグニチュードML6.26(直後にML6.0と発表、MW6.4(モーメントマグニチュード))の地震が台湾東部を襲いました。台湾の中央気象局(Central Weather Bureau, CWB) によると、この大地震は、花蓮市のおよそ北方15km深さ10kmの海底下から南東に破壊が進み、花蓮市のそばでは地面まで破壊しました。このため不幸にも17人の死者、289人の負傷者を出し、数棟の高層(7〜10階)建物に甚大な被害をもたらしました。はじまりの群発地震群は沈み込みプレートの西端にあたる海域の逆断層帯で発生しました。しかし、最大地震となったMW6.4の地震は東方沖の海底の沈み込み帯に始まったようですが、花蓮市を横切って破壊した米崙(Milun)断層帯の横ずれすべりを引き起こしました。図1に一連の2月4日の群発地震から2月6日ML6.26の直後までの地震活動を示します。
2月6日の地震の位置、規模、発震機構を表すセントロイド・モーメント・テンソル(CMT)を求めた台湾中央気象局(CWB)と、台湾広帯域地震観測網(Broadband Array in Taiwan for Seismology, BATS)による台湾地球科学研究所のgCAP解から、地震断層は横ずれ成分が主で、逆断層成分は小さかったことがわかります(図2)。
この地震の気象局強震観測網とP-アラート(国立台湾大学運営の早期警報システム)による震度分布(図3)は東部台湾の内陸部を震度7すなわち最大地動加速度(PGA)が400galを超えたことを示しています。近くの強震観測点では、パルス状の最大地動速度(PGV)が1 秒周期のあたりで100 cm/sを超えました。このパルス状の速度変化が花蓮市での大規模な被害の元凶であった可能性があります。地震の波形解析とGPSデータ(台湾地震科学中心、Taiwan Earthquake research Center, TEC)によると地表近傍のすべりが大きかった場所(アスペリティ)が米崙断層に沿って花蓮市の直下に位置したと今のところ示唆されています。
地震直後に複数の研究者グループがこの地震の地表断層を調査しました。報告された地表地震断層は、主に米崙断層に沿っていました(図4、5)。高層建築物の破壊はほとんど米崙断層の南側に位置し、大きなパルス状の速度変化(PGV)を記録した強震計のあるそばでした。高層建造物の倒壊の暫定的な調査結果によると、これらの建物が米崙断層から200m以内の距離に建てられ、最大加速度、速度パルス異常の観測点のそばにあったことに加えて、1−2階が商用のために耐震壁が設けられず上部階からの重量に対して強度的に弱かったとの示唆もあります。被害を受けたほとんどの高層建造物は、築30年を超え、1999年の台湾集集(Chi-Chi)地震によって改訂された耐震基準以前のものでした。政府は、このような古い高層建造物の検査、改築を進める規制について動きを見せています。
Shyuら(2016)は地震トモグラフィーと地震活動から地震発生構造を求めていますが、それによると2月4日の群発活動と2月6日のML6.26地震に続く活動は沈み込み板(スラブ)と台湾島との衝突境界の西端に始まりました(図6)。米崙断層は、図6にMFと記してあります。
この地域の歴史地震の研究から群発性の特徴が示されます(図7)。顕著な被害地震であった1951年10月22日の群発地震は、M7級の地震が12時間内に3回発生しました。2018年2月6日の米崙断層に沿った地表地震断層跡は、この1951年10月22日の地震群と類似性が認められました。
台湾地震モデル委員会(TEM、科技部のまとめ)は2015年12月に、内陸の地震発生構造を38件認定し、その向こう50年間の発生確率を示した台湾地震被害予想地図を出版しました(Wangら、2016)。図8に米崙断層が示されており(#32)、向こう50年間(2015/1/1基準)でMW6.4の地震の確率が42%と最高に近い確率が推定されていました。台湾地震モデル(TEM; Wangら、2016)は内陸の地質データから米崙断層の地震再来期間が全体の地震発生断層中でも最も短くおよそ70年でした。不幸なことに、この高い地震被害予想値は、十分な注目を集めず、大変残念な被害を呼んでしまいました。
2018年2月4日の群発地震と6日のML6.26の花蓮地震の一連の活動は、台湾東部沖の沈み込みフィリピン海プレートに関連する断層帯に起きました。6日のML6.26の花蓮地震は、破壊が、直前の群発活動の近傍から始まりましたが、南東方向の内陸に認知されていた米崙断層に沿って向かい、花蓮市内に達しました。フィリピン海プレートの西端境界部では沈み込みと衝突と複雑なテクトニクスを示しており、地震発生断層の判定は困難でした。歴史的には1951年に3回のM7級地震が12時間以内に連発して顕著な被害がありました。米崙断層の高い地震発生確率の場所で実際に発生したことに鑑み、ハザードマップにある高い確率の他の断層に特別な注意を向けるべきです。2018年2月6日の花蓮地震と1951年10月22日の米崙断層に沿った地震の破壊の類似性とパルス状の速度変化を伴う最大地動加速度の検知から、断層近傍の建造物の耐震規制がまだ必要であり、パルス状の速度変化生成の地震学的解明が必要です。
この報告は、主に台湾地震科学中心(Taiwan Earthquake Research Center, TEC)による2018年2月6日花蓮(Hualien, Hualianとも)地震活動報告を参考にしました。