20201105
トップページ > トピックス > コラム > 【コラム】トルコ沿岸での地震の背景 ~防災意識向上への取り組み~

トピックス:コラム

トルコ沿岸での地震の背景 ~防災意識向上への取り組み~

2020年11月5日
海域地震火山部門 地震津波予測研究開発センター
山本 揚二朗 研究員

トルコ沿岸で地震・津波が発生

2020年10月30日、ギリシャ・トルコ国境付近のエーゲ海にて、マグニチュード7.0(1)の地震が発生し、日本のニュースでも大きく取り上げられています。

この地震と、その後の津波により被災されました方々に心よりお見舞い申し上げます。また、救護・復旧活動に携わる皆様に敬意を表しますとともに、より一人でも多くの方が救われ、一刻も早く平穏な日常を取り戻されるよう、お祈り申し上げます。

どんな地震だったか?

アメリカ地質調査所(USGS)の発表によると、この震源の深さは21km、エーゲ海プレート内で発生したと推定されています。

図1

図1.2020年10月30日の震源位置(黄色の星)(1)と、その周囲のプレート分布(2, 3)

このプレートの周囲には、アナトリアプレート、ユーラシアプレート、アフリカプレートが存在します(2)図1)。

また、今回の地震は、南北方向に引張軸を持つ正断層型 (図2)と推定されています(1)。これは、エーゲ海プレートが南北方向に引っ張られる応力場 (地層にかかる力)であること (4)を反映したものと考えられます。

図2

図2.断層にかかる力と断層の種類との関係(5)。今回の地震は正断層で、青矢印が南北方向に向いている場合に対応する。(出典)地震調査研究推進本部ホームページより

今回のマグニチュード7.0の地震波形は、面積が40km×20km程度で、最大5m程度の地震時滑りをもつ断層モデルによって説明することができます (1)

被害拡大の一因は建物の耐震性

震源の近くにはトルコ第3の都市イズミル市があり、地震とそれに伴う津波によって建物の倒壊や浸水、船舶の流出など甚大な被害が出ています。

今回の地震で計測された最大震度は国際メルカリ震度階でⅧであり、計算方法が異なるために一概には比較できませんが、日本の気象庁による震度に換算すると5強程度です。しかし、建物の耐震性の低さが原因 で、日本と比較した場合に、地震規模に比べて被害が大きくなる傾向があり、今回の地震でもその実態が改めて浮き彫りとなってしまいました。

トルコは地震大国

ユーラシアプレートを固定して、プレートの相互運動 をみてみると、西からエーゲ海プレートが南向き、アナトリア断層は西向き、東側でアラビアプレートが北向きに運動している様子がわかります(6)図3)。

図3

図3.ユーラシアプレートに対する、エーゲ海プレート、アナトリアプレート、アラビアプレート、およびアフリカプレートの相対運動の向きと大きさ (6)

この動きの大きさは、エーゲ海プレートの南向き成分が最も大きく、大局的には、エーゲ海プレートが南に動くために、動いた箇所を穴埋めするために、アナトリアプレートが西向きに動いているという解釈ができます。

ちなみに、アナトリアプレートの西向きの動きを担う北アナトリア断層では、M7級の地震が東から西へドミノのように順番に多数発生してきたことが知られています(3, 7)。そして、トルコ第1の都市イスタンブールに近いマルマラ海直下の部分が、現在、地震空白域となっていて、今後の発生が危惧されています(図4)。このように、トルコも日本と同様の地震大国なのです。

図4

図4.今回の地震の位置と北アナトリア断層との関係。北アナトリア断層における1900年以降のマグニチュード7以上の地震発生域を拡大図で示す(7)。点線部分が200年以上マグニチュード7以上の地震が起きていない地震空白域となっている。

防災・減災に向けた取り組み

JAMSTEC では、マルマラ海沿岸地域の防災意識を高め,地震・津波に強い街作りを促す研究活動を2012年から2018年まで実施してきました。(JICA-JIST によるマルマラ海域の地震・津波災害軽減とトルコの防災教育、研究代表:金田義行)(8)

写真1

現在も、JAMSTEC海域地震火山部門では、トルコ・ボアヂチ大学と共同で、マルマラ海における北アナトリア断層地震調査を実施しています。

これらの共同研究により、これまで不明であったマルマラ海域における北アナトリア断層の形状や固着の強さが明らかになり、イスタンブールを対象とした地震被害予測推定の精度向上に役立てられています。

今後も、トルコにおける地震発生場の理解とそれにもとづく防災意識向上への貢献を目指して、より広い視野で共同研究を進めていく計画です 。

写真2

参考文献

(1) USGS web site: https://earthquake.usgs.gov/earthquakes/eventpage/us7000c7y0/executive
(2) Birds, 2003, Geochemistry Geophysics Geosystems, https://doi.org/10.1029/2001GC000252
(3) Yamamoto et al., 2020, Tectonophysics, https://doi.org/10.1016/j.tecto.2020.228568
(4) Brun et al., 2016, Canadian Journal of Earth Science, https://doi.org/10.1139/cjes-2015-0203
(5) 地震調査研究推進本部: https://www.jishin.go.jp/materials/
(6) Reilinger et al., 2006, Journal of Geophysical Research Solid Earth, https://doi.org/10.1029/2005JB004051
(7) Yamamoto et al.,2017, Journal of Geophysical Research Solid Earth, https://doi.org/10.1002/2016JB013608
(8) SATREPS web site: https://www.jst.go.jp/global/kadai/h2408_turkey.html