「みらい」北極航海レポート

2008年8月31日(日) アラスカ夏時間

係留系による定点観測

昨日「みらい」は本航海においてはじめて海氷に遭遇した。北極海の海氷といえば、白と青のコントラストが美しいブルーアイスをイメージするかもしれないが、このアラスカ・バロー沖のものは明らかに違う。土色をした汚い氷が目に付くのだ。その理由を島田首席に尋ねたところ、北極海の気候システムとアラスカの地形が関連しているとのことだった。バロー岬の東側は俗に「氷の墓場」と呼ばれていて、北極海を移動してきた氷の一部がこの沿岸にぶつかり消滅する場所とされている。ところが、衝突で壊れたり、汚れたりするだけでなく、板状の氷が回転して縦長になったり、薄い氷が重なり合って分厚くなることもあるそうだ。我々が見た氷はまさにその墓場から流れてきた残骸だったというわけである。またここは、北極海へ流入する2種類の水が交錯する場所でもある。2種類の水とは、ベーリング海峡から入ってきた太平洋の水とフラム海峡から流れ込む大西洋の水を指す。この二大洋の水が北極海で初めて出遭う場所、それがこのバロー沖なのである。つまり太平洋と大西洋の海水を一度に観測できるというわけだ。
ここで行われている調査のひとつに係留系による定点観測という方法がある。これは観測機器を海底のシンカーにつなぎとめた状態で放置して、この地点の流向や流速をはじめ、流量および熱流量など、一定期間の時系列データを得ることができる自動観測システムだ。係留系観測が開始された1996年、北極海はまだ氷に覆われた閉ざされた海であり、特筆すべき変化は見られなかった。しかし翌97年から98年にかけて最初の大変動が起こり、北極海の海氷は著しく減少した。この瞬間をバロー沖の係留系はしっかり捉えていたのだ。96年には0度だった太平洋の海水温が98年には4度に上昇していたことを証明したのは、この係留系観測による成果である。それから12年、ほぼ断続的にこの地点での観測が続けられ、貴重なデータを今なお蓄積している。
 今日は、1年間計測を続けてきた係留系を回収し、代わりとなる係留系を設置する作業が行われた。この作業で驚いたのは、シンカー投入時の卓越した操船技術である。先にも述べたが、このバロー沖では海氷が回転するため、巨大な板氷が回転し海底を削り取るケースも珍しくない。このような強大な氷塊との衝突を避けるため、係留系の設置場所はバローキャニオンと呼ばれる海溝部に設定してある。つまり、係留系を溝の中に設置できれば、氷塊との衝突を回避できることになる。しかし、実際に行うとなると簡単ではない。水深282mの海底へ垂直落下させるには、ポイントの真上にシンカーを投入する船尾の中央部分を導き、投入の瞬間までこの位置を保持しなくてはならないからだ。 以前、赤嶺船長は、「みらい」のポテンシャルを最大限にいかして観測研究に貢献したいと語ってくれたが、能力を引き出すための技術がどういうものか、まざまざと見せつけられた一日になった。


(「みらい」北極航海取材チーム)




他船との遭遇

朝の9時に甲板から双眼鏡で海を眺めていたところ、遠くに船らしきものを発見した。非常に遠いのでよく見えない。操舵室へ行って高倍率の双眼鏡を借りたところ、確かに船だった。カナダの商船かとも思ったがわざわざ北極海を通るものなのかと、船長に尋ねたところ、カナダのGILAVARという船だそうだ。地質調査の船で大陸棚を調べているらしい。船と船が遭遇すると無線で互いの情報を確認しあうのだ。

他船 北極海で初めて他船と出会ったので、記念に撮影した。距離が遠いので双眼鏡越しにデジタルカメラで撮影という荒業で、何とか撮れたというレベルだ。今後も他の船と会うことがあるかはわからないが、念のため望遠レンズのついたカメラも常備するようにしよう。


(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)