沖縄トラフ熱水活動域「ちきゅう」掘削孔を利用した潜航調査計画 in NT10-17

航海レポート

2010年9月16日

謎の物質X発見!

川口 慎介(JAMSTEC・プレカンブリアンエコシステムラボ)

9/16も伊是名海穴JADE熱水サイトで潜航調査を行いました。今回の潜航のターゲットは、硫黄クラスト近傍で湧出する液体CO2の確認と高温熱水の大量採取でしたが、いずれもうまくいきました。高温熱水の温度計測では、これまでに観測された最高温度である319℃を、今回の潜航でも記録しました。この温度は、JADEサイトの水深における沸点に相当します。気圧の低い(標高の高い)富士山では100℃未満でも水が沸騰しますが、水圧の高い(水深の深い)海底熱水では300℃を超えてようやく水が沸騰するという特徴があるのです。

熱水が噴出している近傍で、ハイパードルフィンの手で持った筒を使い、海底堆積物をくりぬき、採取しました。こういったものを柱状試料(コアサンプル)と言います。NT10-17行動で使っているコアサンプラーは、直径10センチ、深さ35センチ程度ですが、「ちきゅう」では、直径数十センチ、深さ数百メートルのコアサンプルを採ることができます。すごいですね。


慎重にコアサンプルを処理する三好さんと野次馬(写真提供:横山由佳)

今回得たコアサンプルの、海底下15センチ付近に相当する場所に、謎の物質が入っていました。10~20センチの範囲全体は、ねばっとした泥が詰まっていたのですが、謎の物質はそれを横断貫通するように挟まっていました。これをコアサンプルの泥の中から慎重に取りだし、広島大学と九州大学の共同チームが熟練の手つきで分割したところ、中から黄色い鉱物が出てきました。これが何者であるかは、特殊な封入処理をした上で陸上に持ち帰り、国内の複数の研究者に分配し、精密な化学分析や顕微鏡下での構造観察など様々な手法を駆使して解析することで、明らかにすることができます。成果が出ることが今から楽しみです。

「俺は今、猛烈に感動している!」
今のボクの気持ちは、かつて星飛雄馬が猛々しく語ったそれによく似ています。今回採取した謎の物質Xが、(ココには書けないですが)ボクが今予想しているような成因のモノであったなら、海水が海底へと染み込み熱され熱水として噴出するまでの流路、つまりは「海底下の大河」の実態に大きく近づく一歩になると考えています。