海をたずねて -地球とわたしたち-

第12回 ふき出す水を栄養源に

深海生物(3)

深海には水がふき出している場所があり、そこには変わった生き物たちがすんでいます。地球内部からふき出す水にふくまれるガスなどを、生きるための栄養の源としているのです。

厳しい環境の中で生きる姿 誕生と進化を探る手がかり

深海の底には、海水が地下のマグマの熱にふれて最高で300度にもなる熱水がふき出したり(熱水噴出孔(ねっすいふんしゅつこう))、まわりの海水温度とかわらないつめたい水がわき出したりする(湧水域(ゆうすいいき))場所があります。

1976年、深海曳航式カメラが太平洋のガラパゴス沖水深2500メートルの熱水噴出孔に生き物たちがむらがっているのをはじめて見つけました。そこでは、まわりの海底よりも、はるかにたくさんの生き物たちがくらしていました(その後、湧水域でも、同じような群れを発見)。そこにすむ生き物たちは、わき出す水にふくまれるガス(硫化水素やメタン)を栄養源にして、生態系をつくっている(化学合成生態系(かがくごうせいせいたいけい))ことがわかりました。

ウロコフネタマガイ

硫化鉄のよろいを持つ巻き貝で、4センチほどの大きさです。インド洋の海底の熱水噴出孔で発見しました=写真上=、水深2450メートルで撮影。足をおおううろこが鉄をふくむ物質でできています=写真右



そのような環境にすむ生き物は、どういった特徴があるのでしょうか。

シロウリガイ類やハオリムシ類は、硫化水素を利用して栄養物をつくり出す細菌を体内に飼っています。硫化水素を取りこんでその細菌にあたえ、かわりに栄養をもらって生きているのです。こういった関係を共生といいます。共生する細菌から機能をぬすむなど、共生は、生き物の進化を決めているのでは、ともいわれています。

ハオリムシの群がり

体内に飼っている細菌から栄養をもらっています。赤い部分がエラで、赤い血液を持っていることがわかります。体長70センチ。水深1200メートルで撮影

シマイシロウリガイ

シロウリガイ類はアサリと同じ二枚貝(2枚の殻で体を左右からはさんでいるもの)の仲間で、水深200〜6800メートルの間でくらしています



オハラエビ類は、硫化水素と酸素をエネルギー源にするバクテリアをねらって、熱水噴出孔付近でくらしています。噴出孔の近くほどバクテリアがたくさんいますが、オハラエビ類自体が熱にやられてしまうので、ぎりぎりの場所をもとめて密集しています。

ツノナシオハラエビの仲間

熱水噴出孔にむらがるツノナシオハラエビやイソギンチャク=写真上=水深2450メートルで撮影。
ツノナシオハラエビ=写真右=は、目が退化しているかわりに熱を感じ取るセンサーが背中にあります



環境汚染物質である硫化水素やメタンを好む生き物たちを研究することで、汚染物質を取りのぞく方法がわかるかもしれません。また高温でも大丈夫な生き物の調査は、きびしい環境のもとで起こった生命の誕生と進化のようすを解明する手がかりとしても期待されています。

生命をやしなうクジラの骨

くさった鯨の骨から硫化水素がしみ出し、それを利用できる生き物たちが骨のまわりでくらします。相模湾初島沖、水深927メートルで撮影


ホネクイハナムシの仲間

クジラの骨だけに住む動物です=写真左、相模湾で見つかったホネクイムシの仲間。骨の中に植物のように根をはりめぐらし、その中に共生する特別な細菌に栄養をもらって生きています=写真 中央、黄緑色の部分がすべて「根」。大きな固体(約三センチ)はすべてメスで、オスはメスにくっついてくらしています

ゲイコツナメクジウオ

きれいな浅瀬にすむほかのナメクジウオとちがい、クジラの骨の周辺のもっともくさい部分で発見されました。鹿児島県野間岬沖の水深246メートルで採取。大きさは4〜5センチ


地球のタイムカプセル 有孔虫

 世界各地の記録的な猛暑が報じられ、南極の巨大な氷の落下や北極海の氷の減少、赤道付近の海面の上昇など、温暖化が加速しているかのようなニュースが目につきます。これからの地球の環境はどうなってしまうのでしょうか。その予測のためには、地球が経験してきた過去の環境の歴史から学ぶことが必要です。それを調べるには、どうすればいいと思いますか?
 それには、有孔虫という海の生き物が大切な役割をはたしています。5億年以上も前に地球に誕生し、現在も生きつづけているアメーバに近い動物の一種です。
 有孔虫はカルシウムをふくむ硬い殻をつくり、そのほとんどはとても小さいのですが、顕微鏡だと細かい形までわかります。あたたかい海からつめたい海まで、それぞれの環境でちがう種類がすんでおり、死後、殻は海底にしずみ、化石となって地層に保存されます。調査船を使い、深い海底から採取した死骸の化石の種類を調べることで、それらが生きていたころの海の環境を知ることができるのです。殻の化学分析から、当時の海の化学成分を知ることもできます。有孔虫は、過去の地球環境の情報を閉じこめるタイムカプセルのような役目をしているといえるでしょう。
 有孔虫たちは、とても魅力的な生き物です。体の表面に細いとげをつくり、海流に乗って移動できるものや、せっかくつくった自分の殻をとかすものなど、その行動と形は実にさまざまでユニークです。また、クモの巣のような細い糸状の網を体のまわりにはりめぐらせて餌をとったり、体の中にとても小さな藻を飼って栄養をもらっていたり、生きてゆくためのいろいろな工夫をしています。
 JAMSTECの研究者は、有孔虫の生きているようすをきれいな映像におさめました。美しさやかわいらしさ、生き生きとした生活のようすが紹介されています。有孔虫の映像をご覧になってはいかがですか?

DVD「浮遊性有孔虫の生態」

※このページの内容は、2006年9月7日に朝日小学生新聞に掲載された記事の抜粋です。内容は、掲載当時のものであり、現在の状況とは異なる場合もありますので、あらかじめご了承ください。