海をたずねて -地球とわたしたち-

第14回 国境越え流れる汚染物質

化学天気予報

人間の活動などによって空気がよごれる大気汚染。これを解決するためには、世界的な目で、空気をよごす物質(大気汚染物質)を追いかける必要があります。そこでJAMSTECは、大気汚染物質の移動を予測する「化学天気予報」を実現させました。

世界中の大気汚染の様子 1週間先まで予測可能に

産業や交通などでできる工場の煙や自動車の排ガスなどの物質で大気がよごされると、人間の体や生態系に悪い影響をおよぼします。1970年代以降、ぜんそくなどで苦しむ患者が工場などをうったえた大気汚染公害訴訟(裁判)が、日本各地でありました。

この大気汚染は以前、たとえば大きな工場があるなど、その地域に根ざした問題だと考えられていました。しかし、大規模な工業化が進んだこと、航空機や自動車が世界中に広がっていったことなどで、汚染物質もとどまることなく大量にあふれ出ることになりました。

そのため90年代から、汚染物質が国境をこえて長い距離を運ばれるのが問題になってきました。

地表からの放出データ

一酸化炭素の放出量のデータを原因別にまとめました。(年平均、EDGAR(エドガー)プロジェクトから)。白→青→緑→赤の順にたくさん放出されています(白がゼロ)。各国によって事情がちがうことがうかがえます。(図を拡大



人の健康や生活を守るための環境基準が国ごとにあり、大気汚染では、オゾンや二酸化窒素などの汚染物質について、これ以下がのぞましいという数値が決まっています。ただこの基準をいくらきびしくしても、外国から流れこんでくる汚染物質をふせぐことはできません。たとえばオゾンができる源となる炭化水素の仲間の一酸化炭素は、日本で生まれたものよりも外国から運ばれてきたものの方が多く日本上空にあると考えられています。

汚染物質輸送

2002年1月の汚染物質(黄:一酸化炭素、緑:窒素酸化物、青:硫黄酸化物、地表はオゾン濃度)が地球を移動するようです。西から東へ、偏西風に乗って運ばれます。(図を拡大

オゾンも大気汚染物質?

工場や自動車から出される窒素酸化物と炭化水素から、太陽の紫外線によってオゾンがつくられます。
オゾンは成層圏(高度約10キロ〜50キロ)では、紫外線をふせいでくれ、わたしたちの体を守ります。その一方で、高度約10キロ以下の地表に近い地点では、病気になるなど人体に悪影響をあたえます。


そのため汚染物質が地球を移動するようすをつかむことが重要だと考えられるようになってきました。JAMSTECは2002年、世界中の大気汚染のようすを1週間先まで予報できる「化学天気予報システム」を完成させました。現在、インターネットでだれでも見られるようになっています。汚染物質がどこから出て、どこへ運ばれ、運ばれている間にどう変化するか。データを集めたり、汚染物質の研究を進めたりすることで、予報が可能になりました。


化学天気予報

インターネットで見られます=画像左。物質、場所、高度、日付をえらぶと化学天気図が表示されます=画像右。 アドレスは、http://www.jamstec.go.jp/frcgc/gcwm/index_j.html


この化学天気予報をもとに、世界で環境基準を統一できるよう話し合うなど、外国に迷惑をかけない取り組みが期待されます。また「本日の○○地方は、汚染物質がたくさんとんでいます。外での運動はひかえるようにしましょう」とアナウンスされる日が、やってくるかもしれませんね。

海底に二酸化炭素の「プール」発見

JAMSTECは、沖縄県与那国島沖の水深1380メートルの海底で、液体になった二酸化炭素がとじこめられた「プール」を見つけました。その場所に、二酸化炭素を分解する微生物がいることも確かめられました。現在、地球温暖化の対策として、温室効果ガスとなる二酸化炭素を海底へふうじこめる方法が考えられています。今回の発見は、その技術を開発するための参考にもなりそうです。
 調査は、有人潜水調査船「しんかい6500」で行い、約300度の熱水が海底下からふき出す場所のそばでプールを発見。面積約200平方メートル、深さ約20センチで、液体になった二酸化炭素とメタンでみたされ、二酸化炭素が海水と反応してできた厚さ約10センチの結晶(ハイドレート)が「ふた」のようにおおっていました。
 地下のマグマにふくまれる二酸化炭素とメタンが、熱水とともにわきだし、冷やされて液体になったようです。二酸化炭素は水深2400メートルより深くでは、液体になって海底へしずみます。そのため、深海底へふうじこめる技術が研究されていますが、実際の海でこうしたプールが見つかったのは初めてです。
水の結晶の中にほかの物質が入りこんで、氷のようになるハイドレート。写真は日本海新潟沖でとれたメタンハイドレートです  プールの中の遺伝子を調べたところ、メタンや硫黄をエネルギー源とし、二酸化炭素を分解する微生物がいることがわかりました。この微生物の性質を利用して、二酸化炭素を処理する方法も考えられそうです。
 また、火星の南極や北極部分は、固体の二酸化炭素と氷でできていることが明らかになっており、地下には生命のいる可能性が考えられています。深海の二酸化炭素について研究することは、火星の生命を考えるうえでも重要になってきます。

※このページの内容は、2006年10月5日に朝日小学生新聞に掲載された記事の抜粋です。内容は、掲載当時のものであり、現在の状況とは異なる場合もありますので、あらかじめご了承ください。