現在からおよそ1万年前までの気候は他のどの時期にもないほど特異で温暖な時期が続き,文明が発達しました。グリーンランド各地から採取した氷の記録から,この暖かい時期の直前に1000年以上続く温暖期と寒冷期が不規則に現れ,北ヨーロッパの冬の平均温度は10年程度の短い間に10℃も上下したことがわかりました。最後の寒冷期は新ドライアス期と呼ばれ,およそ1万1000年前に終わりました。これらの痕跡は北大西洋の海洋堆積物,スカンジナビア半島やアイスランドの氷河から,さらに北ヨーロッパやカナダ沿岸の沼や湖の堆積物にもみられ,世界中に及んでいることがわかりました。
 このような急激に変化する気候の原因については,確かなことはまだわかっていませんが,有力な手がかりがあります。今までの気候モデルによる研究によると,海水の密度を決める温度と塩分の循環(これを「海洋熱塩循環」といいます。)が地球の気候の大きな変化に伴い突然変化することがわかりました。北ヨーロッパ沿岸では北方に流れる暖かい表層水の影響によって温暖な気候ですが,一方北大西洋に大量 の真水が流れ込むことで簡単に壊れてしまい,急速に温度低下がみられ寒冷化することがわかっています。今まで北大西洋では,少なくとも8回の真水が侵入した証拠があり,北大西洋の堆積物の分析からこれらの大量 の真水の犯人は,カナダを起源とする膨大な氷山が融けたことによって生じたものと説明されています。残念ながら,この氷山を融かした原因についてはまだはっきりとはわかっていませんが,おそらく海洋大循環と大気側からの気候変動が相互に関係し地球規模の環境変動を引き起こしているものと考えられています。