
海洋には,黒潮や湾流など表層大循環とは別
に,海洋表層と深層の間を循環する流れがあります。熱帯赤道域から北上した海流は,熱を放出しながら冷えていきます。また,河川からの淡水の流入や結氷に伴う塩分濃度の増加により海水が重くなります。高緯度海域の重い海水は深層へ沈みこんでいきます。これは熱塩循環であり,深層大循環の始まりです。
北大西洋のグリーンランド沖で深層へと潜り込んだ海水は,海底地形にそって低緯度へとゆっくり流れていきます。この流れはさらに南下して,南極大陸周辺海域で沈み込んだ海水と合流し,時計回りに循環します。循環する海水の一部はインド洋および南太平洋から北上するようになり,赤道を越えて北太平洋で上昇した後,北太平洋表層循環に合流し,表層循環と一緒になります。表層に戻った海水は,その一部がインドネシア通
過流としてインド洋に入り,インド洋で海洋表層に戻った海水を加えて,アフリカ大陸の南端を通
って,再び大西洋の表層循環に乗って北上することになります。
この深層を含む海洋大循環を1980年代に発表したのがアメリカのウォーレス。S。ブロッカー(Wallence
S。Broeker)博士でした。その後,WOCE(世界海洋循環実験)と呼ばれる国際共同研究計画により,この深層大循環の存在が証明されるとともに,気候変動に及ぼす影響が小さくないことなどが理解されてきました。
ブロッカー博士は,コロンビア大学で海水中や深海底の物質に含まれる放射性炭素同位
体を測定する技術の開発や海洋中の二酸化炭素の挙動について研究をしてきました。そして,1950年代にC14同位
体の年代測定による海底堆積物中の有孔虫分布から,現在からさかのぼって最後の氷河期が約1万1千年前であることを最初に指摘しました。
ブロッカー博士は,1980年代に入ると,世界の海洋全域にわたって放射性C14同位
体の国際的調査を実施し,この結果から地球的規模で海水の大循環があることを発見しました。これが,最近,一般
にも知られるようになったブロッカーのコンベヤーベルトといわれる海洋大循環理論です。博士は,海洋を中心とする物質の年代測定を通
じて,物質の地球規模での循環,表層水と深層水の千年単位での交換,大気と海洋の相互作用など,近年の地球規模の気候変動予測に係る重要なメカニズムを次々に明らかにしてきました。