| 深海の物理
深海域の探査・観測技術の進歩にともない、「海洋プレートの生成等に伴う海底熱水活動や、海洋プレートの沈み込みにより形成される地形に起因する深層海水の循環が、地球規模の変動とどのように関わっているのか」という新たな疑問が生じてきた。このため、深海研究部では、「海洋底ダイナミクス研究」の一環として、深海域における水圏科学分野に関する研究を実施している。深海底近傍の水圏科学分野は、固体地球科学と海洋水圏科学の双方に関連しており、「海洋底ダイナミクス」と「地球環境変動」の接点に位置する研究分野である。
北西太平洋海溝域の深層流循環に関する研究
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| 地球規模の深層循環はブロッカー博士の提唱するコンベアベルトにより、 北大西洋から北太平洋までを一巡するのに1000年程度を要することが、炭素14による観測により確かめられている。 しかしながら、海溝やトラフのようなより局所的かつ深部には、地形に起因する深層流の循環系が存在し、時には表層同様、 非常に速い流れが存在している。このような速い深層の流動としては、古くから北西大西洋のニューファンドランド沖を南下する深層流が、 深層西岸境界流として知られている。 |
| これに対して、北西太平洋は周囲を海溝に囲まれており、海溝のない北西大西洋とは異なる循環系の存在が明らかになってきた。 日本海溝を例にみると、海溝の陸側斜面上(水深6000から5000m)に南向きの深層流(いわゆる深層西岸境界流)が存在し、 海溝海側斜面上(水深6000から5000m)には反対向きの(北向き)の深層流がほぼ定常的に存在していることが確認されている。 アリューシャン海溝や伊豆小笠原海溝、南西諸島海溝においても同様の傾向が観測されており、海溝に沿う特有の深層循環の存在が示唆されている。 このような循環が、ブロッカーのコンベアベルトのような地球規模の大循環とどのような関係を持っているのかを明らかにすることは、より正確な環境変動モデルの構築に結びつく。 このため、海溝系の深層循環がどのようなスケールで存在し、どのくらいの時間変動を持っているかを把握する必要がある。 |
| このような背景により、室戸沖、釧路沖に設置された「海底地震総合観測ステーション」の先端観測ステーションに搭載された層流別流速プロファイラー等により得られる流動データを基準として、 係留観測、潜水調査船等による潜航時に得られる流動等の観測を実施し北西太平洋海溝域の深層循環が模式的に示された。 特に室戸沖の先端観測ステーションにより、南海トラフの3000m以深の深層おいては、南西方向の深層流が卓越しており、 黒潮と逆向きの流れがほぼ定常的に存在していることが確認された。 |
| 平成12年度以降は、海水の炭素14による年代測定による循環系の把握や、各ステーションの基準データに加え、係留系による海溝系の深層循環スケールを把握する観測を行う予定である。
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海底熱水活動は、日本の周辺では伊豆・小笠原海域や沖縄トラフにおいて確認されているが、 地球規模で見ると海底に連なる海嶺域やハワイで代表されるホットスポットなど広い範囲に分布している。 これら海底熱水域は海洋中に巨大なエネルギーを放出していると考えられている。東太平洋海膨の熱水起源のヘリウムが約1000km以上西側で観測されており、 海底熱水活動の影響が海洋に広大に拡がっていることが示唆され、海洋環境や地球規模の気候変動のトリガーとなっているのではないかとの仮説も提唱されている。 この海底熱水活動域から湧出する熱水は、湧出量、温度等により様々な形で拡散し、ある程度の規模になると海底上にプルームを形成することが知られている。 これら熱水湧出、熱水プルームに関する観測は、観測機器の制約より、時空間的な変動を把握するために十分なデータが得られているとは言い難い。 このため深海研究部では、熱水活動の時間変動を把握するために自己記録型観測ステーションの開発を行い、 東太平洋海膨等において長期観測を実施してきた。 このシステムに新たに音響計測技術を応用し、熱水の空間分布を把握する「熱水プルームイメージングソナー」の搭載を計画している。 「熱水プルームイメージングソナー」は米国ワシントン大学とルトガース大学により実用試験が行われており、現在、独立行政法人海洋研究開発機構と共同でその長期モニタリング化に取り組んでいる。 |
| 将来、この装置を用いて沖縄トラフやファン・デ・フカ海嶺の熱水活動域において長期観測を実施する予定である。
今まで独立行政法人海洋研究開発機構では、沖縄トラフの熱水活動域の総合的な調査(地質、地球物理、生物、微生物、化学)を実施しており、
これに加え1999年から、自己記録型海底ステーション設置のための海底熱水域の分布調査や機器の試験観測等を実施している。
注)プルーム:周囲流体と異なる密度の流体が、連続的に供給された時に形成される流体の塊、 あるいはその形成に伴う流体運動。 |