海洋研究開発機構

4)人工衛星によって観測されたスマトラ島沖地震津波と地震断層モデル

1 .はじめに

人工衛星に搭載されたレーザー海面高度計がインド洋を伝播するスマトラ島沖地震津波を捉えた(JPL/NASA,2005; Gower, 2005)。本稿では,NASA/French Space Agencyの共同ミッション衛星Jason-1とTOPEX/POSEIDONの海面高度データを解析し、スマトラ島沖地震の第1近似的な地震断層モデルを推定した。Jason-1とTOPEX/POSEIDONは、地震発生から1時間56分後と2時間3分後にそれぞれ赤道を北北東へ通過している(図1A)。人工衛星の海面高度データは、スマトラ島沖超巨大地震によって発生したインド洋津波が、南緯4度付近の約5000mの深海域でさえ、60-70cmの高さであったことを明らかにした(JPL/NASA,2005; Gower, 2005)。NOAAの研究者Titov博士(Titov, 2005)がいち早くこの衛星海面高度データのモデリングを行っているが、彼のモデリングでは赤道から北緯15度までのJason-1海面高度がうまく説明できていない。なお、本稿は、気象庁、気象研究所、産業総合技術研究所、北海道大学と共同で行った結果である。

2.地震断層モデルの設定と解析手法

今回の解析に用いた地震断層モデルを図1Bに示す。幅100km、奥行き150kmの副断層14枚を海溝軸に平行に並べた。信頼のおける震源カタログから震源分布断面を7枚作成し、スンダ海溝のプレート境界を推定した結果、その傾斜角は10度と見積もられた。

津波は球面座標系上で線形長波(浅水)理論を差分法で解いて計算した(Satake,1995)。計算された3次元的な津波場から、人工衛星の緯度、経度、その地点の通過時刻を基に、衛星軌道の直下の海面高度だけをサンプリングし、各副断層に対するグリーン関数とした(本稿では、これを衛星軌道グリーン関数と呼ぶ)。すなわち、衛星軌道グリーン関数は、人工衛星の緯度、経度、通過時刻、そして地震断層の破壊伝播速度の関数として定義することができる。

今回は、断層の破壊伝播速度を一定(各副断層の破壊開始時間を既知とする)とし、破壊速度を様々に変化させた上で副断層上の滑り量のみを推定する、非負の拘束条件付きの線形インヴァージョン解析を行った。(非負の拘束条件付きの解析なので、各副断層の滑り量は必ず零以上の正の値を取る)。

3.解析結果と解釈

線形インヴァージョン解析の結果,破壊伝播速度が異様に遅い地震断層モデルでなければ,観測された衛星海面高度データを説明できないことがわかった。図2に、0.7km/secというとても遅い破壊伝播速度を持つ、最適な地震断層モデルから計算された理論値(紫の丸)と、観測データ(赤丸)を比較した。最適モデルは観測データをとても良く説明している。観測データと理論値の一致度を表す正規化残差二乗和は0.28となった。ちなみに、破壊伝播効果を考慮しない断層モデルの場合(すなわち、断層面が無限大の速度で割れた場合)の最も良いモデルでも、正規化残差二乗和は0.4程度までしか小さくならず、人間の目で見て観測データをあまり良く説明できない程度にしかならない。

また、14枚の副断層のうち最も北側の副断層E14は地震によって破壊されていないという結果になった。0.7km/secという異様に遅い破壊伝播速度を信じると、全体破壊の継続時間は、全長1300km/0.7km/秒=1900秒、約30分と推定される。この値は、短周期地震波の継続時間から推定された180-500秒(IRIS,2005)の約5倍から10倍も大きい。但し、副断層E13に対する衛星軌道グリーン関数の振幅が一番大きな部分が、ちょうどJason-1の海面高度測定値が欠損している区間に一致しており、やや信頼度が低い。

断層面上の平均的な剛性率を3.5x1010N/m2と仮定すると、地震モーメントは、9.86x1022Nmになる。米国地質調査書/国立地震情報センターやハーバード大学の推定値(4.0x1022Nm)のおよそ2.5倍も大きい。モーメントマグニチュードは、今までの推定値Mw9.0ではなくてMw9.3と大きく見積もられる。昨夜(日本時間2月12日早朝)、IRISのwebサイトに地球自由振動の解析結果がアップロードされた(Stein & Okal, 2005)。それによれば、自由振動の最も長周期モードの観測値から推定された地震モーメントは、最大で13x1022Nmで、Mw9.3と見積もられた。本稿のMwの見積もりと同じ値である。

最も大きく滑った領域は、スマトラ島北西端に最も近接した断層部分(副断層E4)であり、平均的な滑り量は約30mと推定される。スマトラ島北西端は今回の大津波で最も被害が大きく、 1月になされた現地調査の結果(日本津波調査団,2005)、最大で35mの津波波高が測定された場所である。

4.まとめ

スマトラ島沖地震が起きてから2時間後に、偶然、インド洋を通過した人工衛星によって歴史上初めて外洋を伝播する津波が捉えられた。その海面高度データを解析した結果、スマトラ島沖地震は異様に破壊伝播速度が遅い(約0.7km/sec)地震であることがわかった。「津波地震*1」の典型的な破壊伝播速度は1km/secかそれ以下である(Pelayo & Wiens, 1992)ので、スマトラ島沖地震は超巨大な津波地震に分類される。

震央付近の平均的滑り量は約16mと推定され、今回の超巨大地震の全体の大きさに比較すれば小さいとは言え、それでもM8.6もある。1800年代には、スマトラ島沖地震の震央に隣接する南側で2つのM9クラスの巨大地震が発生している(Newcomb and MacCann,1987)。すなわち、この南縁領域は巨大地震の発生域である。 Stein&Okal(2005)も心配しているように、この南縁領域は今後要注意地域と考えた方が良い。

用語解説
*1 地震波の大きさから予想されるよりも大きな津波を励起する地震のこと。Kanamori(1972)が初めてこの概念を提唱した。英語ではtsunami earthquakeと呼ばれる。これに対して、普通の地震で、津波を起こした地震は、tsunamigenic earthquakeと呼ばれる。より定量的には、Abe(1989)による津波地震の定義がある。

参考資料
Abe, K., J. Geophys.Res., 84, 1561-1568 (1989).
C.Ji,http://neic.usgs.gov/neis/eq_depot/2004/eq_041226/neic_slav_ff.html.
Gower, J., EOS, transactions, AGU, 86, 4, 37-38 (2005).
Kanamori, H., Phys. Earth Planet Inter., 6, 246-259 (1972).
IRIS, http://www.iris.iris.edu/sumatra/.
JPL/NASA,http://sealevel.jpl.nasa.gov/mission/jason-1.html & http://sealevel.jpl.nasa.gov/mission/topex.html.
日本津波調査団(団長:都司よしのぶ東大地震研究所助教授),http://www.eri.utokyo.ac.jp/namegaya/sumatera/surveylog/eindex.htm.
Newcomb, K.R., and W.R.McCann,J.Geophys.Res., 92, 421-439(1987).
Pelayo,A.M., and D.A.Wiens, J.Geophys.Res., 97, 15321-15337 (1992).
Satake, K., Pure Appl. Geophys., 144, 455-470 (1995).
Stein, S., and E. Okal, Extended abstract, http://www.iris.iris.edu/sumatra/.
Titov,V.,http://www.noaanews.noaa.gov/stories2005/s2365.htm.
Yagi,Y., http://iisee.kenken.go.jp/staff/yagi/eq/Sumatra2004/Sumatra2004.html.
山中佳子,2004.EIC地震学ノートNo.161,http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/index-j.html.

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