21世紀気候変動予測革新プログラム

背景

(1)我が国の科学技術政策

平成18年3月に閣議決定された第3期 科学技術基本計画では、第2期と同様に、環境分野は、ライフサイエンス、情報通信、ナノテクノロジー・材料とともに、優先的に資源を配分すべき4重点分野に指定された。総合科学技術会議(議長:総理大臣、メンバー:関係大臣と専門家)では、上記決定に先立ち、各分野に関する、分野別推進戦略が検討された。環境分野においては、環境と経済の両立 − 環境と経済を両立し持続可能な発展―を実現することを目指すこととした。そのための、地球温暖化・エネルギー問題の克服や環境と調和する循環型社会の実現という政策目標にむけ、関係府省の連携による研究推進の枠組みの必要性を指摘するとともに、効率的な資源配分の観点から、選択と集中の必要性も示した。
環境分野は、第2期の成果を基に再編し、気候変動研究領域、水・物質循環と流域圏研究領域、生態系管理研究領域、化学物質リスク・安全管理研究領域、 発生抑制・再利用・リサイクル(3R)技術研究領域、バイオマス利活用研究領域の6つの研究領域が設定された。
気候変動研究領域は、「世界で地球観測に取り組み、正確な気候変動予測及び影響評価を実現し」、また「温室効果ガス排出・大気汚染・海洋汚染の削減を実現する」という政策目標達成をめざす。そのため、具体的には、観測、予測、影響把握、適応策、から政策科学と対策技術へつながる、7つのプログラム(プログラム1〜6は主に科学や政策の研究が、7は技術開発の研究が中心)が設定された:

プログラム1:温暖化総合モニタリング研究
プログラム2:気候変動プロセス研究
プログラム3:温暖化将来予測・温暖化データベース研究
プログラム4:温暖化影響・リスク評価・適応策研究
プログラム5:地球規模水循環変動研究
プログラム6:温暖化抑制政策研究
プログラム7:温暖化対策技術研究

(2)科学的知見の状況

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書(AR4, 2007)では、 ほぼ断定された温暖化の現実化(「気候システムの温暖化には疑う余地がない。」)や、確信を深めた温暖化の原因特定(「20 世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高い。」)などのメッセージを発するとともに、将来予測に関しては、気温や海面上昇などの変化予測にならんで、極端現象に対する予測(「極端な高温や熱波、大雨の頻度は引き続き増加する可能性がかなり高い。」)、台風に関する予測(「将来の熱帯低気圧(台風及びハリケーン)の強度は増大し、最大風速や降水強度は増加する可能性が高い。」)、炭素循環のフィードバックに関する知見と関連予測(「A2 シナリオでは、気候−炭素循環のフィードバックにより、2100 年には世界平均気温がさらに1℃以上上昇する。」) など、より信頼度の深まった、あるいは新たに得られた知見が示されている。

現実化している温暖化のもとで、近年、世界各地で、熱波、豪雨、干ばつ、熱帯低気圧(台風、ハリケーン)などの異常気象・極端現象が多発あるいは激化しており、上記のような評価結果は、政策決定者をはじめ社会の懸念を増大させている。特に地域規模のより詳細な近未来の極端現象の予測とそれによる自然災害への影響評価は、すでに現実化した温暖化の下で災害の激化・頻発の下では、極めて身近な課題となっている。また、長期安定化の問題に関しては、炭素循環の新知見をより進展させた予測が重要度を増している。一方、最大の不確実性とされる雲のフィードバックをはじめ、氷床からの氷流出過程や、上記の炭素循環のフィードバックなど、今後挑戦すべき諸過程の課題もAR4で指摘されており、それら不確実性の定量化・低減の必要性も増大している。