HOMEへ戻る      1.研究成果の概要2.研究成果の詳細報告3.成果発表

人・自然・地球共生プロジェクト  高精度・高分解能気候モデルの開発
研究成果
1.研究成果の概要

1.総括

20kmメッシュ全球気候モデルの開発に関して、共生プロジェクト課題間の連携研究として、他課題の大気海洋結合モデルによる海面水温の変化を用いた温暖化予測実験を行った。一方、モデル自体の性能を向上するために、様々な開発と改良も引き続き行った。時間積分のより一層の高速化、各種物理過程の改良などを行った。

数kmメッシュ雲解像大気モデルの開発に関して、平成17年度は、得られた成果を論文にまとめて、IPCC第4次報告書に報告した。また、昨年度、日本列島の現在気候の降水量について5km-NHMの計算結果を解析結果と比較した結果、定量的に少ないことが分かったので、今年度は、より定量的な降水量を得るために、これまでの水平解像度5kmを1kmとする雲解像大気モデルの約2ヶ月間の長期積分を実行することにした。それと並行して、雲解像大気モデルの開発・最適化は引き続き継続した。また数kmメッシュ雲解像大気モデルの検証に必要な実測データを得るために、梅雨期の擾乱を対象に機動観測と無人小型気象観測機の飛行実験を実施した。


2.サブテーマの概要

(1)20kmメッシュ全球気候モデルの開発

20kmメッシュ全球気候モデルを使用し、タイムスライス法による地球温暖化予測実験を行った。

まず気象研究所大気海洋結合モデルMRI-CGCM2.3.2によりIPCCの排出シナリオA1Bを与え、海面水温(SST)を2100年まで予測した。SSTの年々変動の無い実験としては、現在気候の気候値SST(1982-1993年平均)を20km格子全球モデルに与え、現在気候の10年間の再現実験を行った(AJ実験)。MRI-CGCM2.3.2で予測した将来(2080-2099年平均)のSSTと20世紀再現実験(1979-1998年平均)のSSTの差を、現在気候の気候値SSTに加え、温暖化時のSST(年々変動なし)とした。これを20km格子全球モデルに与え、2090年頃に相当する温暖化時の10年間の予測を行った(AK実験)。同様の将来予測を、温暖化時昇温が大きい他の大気海洋結合モデルMIROCを用いて行った(AS実験)。

SSTの年々変動がある現在気候実験としては、MRI-CGCM2.3.2による20世紀再現実験のSSTを20km格子全球モデルに1979-1998年の20年間与えた(AM実験)。将来予測は、MRI-CGCM2.3.2によるA1Bシナリオによる温暖化実験のSSTを20km格子全球モデルに2080-2099年の20年間与えた(AN実験)。

AKとAN実験のSSTの違いは小さいが、AS実験のSSTの全球平均昇温量は、AK,AN実験の約2倍である。20km格子全球モデルによる予測結果が、与えるSSTにどう依存するか調べた。

熱帯低気圧は、AK,AN,ASのいずれの温暖化実験でも全球的な発生数が減少した。一方、北西太平洋・北大西洋など海域別での熱帯低気圧発生数については、実験間に違いが見られ、下部境界条件として与えた温暖化SSTの地域的な分布の違いに依存することが示された。熱帯低気圧を強度別に解析したところ、海上/地上での最大風速が45 m/sを超えるような強い熱帯低気圧は、AK,AN,ASのいずれの温暖化実験でも増加していた。この傾向は、全球的な昇温の大きいAS実験の方がより顕著であった。これらの結果は、地球温暖化の進行により、強い熱帯低気圧による自然災害が深刻化する可能性があるというこれまでの研究結果を支持している。

梅雨については、AK,AM,ASのいずれの実験も中国大陸の揚子江付近、東シナ海、日本の南海上で降水量が増加する。一方、朝鮮半島、日本海、北日本では降水量の変化傾向が実験によって異なった。梅雨明けが8月にまで遅れる傾向は、どの実験でも顕著であった。

IPCCで推奨されている極端な現象に関する様々な指標の変化をすべて計算した。AK実験では、日本では夏日(日最高気温が30℃以上)は本州では30日以上増加し、冬日または霜日(日最低気温が0℃以下)は本州を中心に20日以上減る。AN実験でも同じ傾向が見られたが、AS実験ではSSTの昇温がAK,AN実験より大きいため、夏日の増加と冬日の減少がAK,AN実験より著しかった。

一方、プロトタイプモデルの改良にも努め、放射過程の改善、鉛直高解像度化、雲過程の開発を行い、モデルの改善が見られた。

(2)数kmメッシュ雲解像大気モデルの開発

20km メッシュ全球気候モデルの結果を側面境界値として与えることにより、水平解像度5kmの非静力学雲解像モデルを用いたタイムスライス法による地球温暖化予測実験を、現在気候、温暖化実験それぞれについて10年間の実験行ってきた。その実験結果を用いて、地球温暖化による梅雨前線活動の変化について調査した。その結果、西日本を中心に梅雨前線の活動が活発となり降水量が増加、特に集中豪雨については九州地方で約7割も増加することがわかった。これらの結果はIPCC第4次報告に貢献するように成果を発表した。また、極端現象の降水頻度について調査したところ、統計的におよそガンベル分布に従うことがわかった。そして、より観測に近い降水量を得るために、水平解像度を1kmとする雲解像モデルを開発した。水平解像度5kmの実験では、現在気候実験の降水量は実際に観測されているものより降水量が少ないバイアスが見られたが、水平解像度1kmの実験では弱い雨の表現が改善され、より現実に近い予備的な結果を得た。今後さらに計算例を増やしてより詳細な解析を行う予定である。

また雲解像大気モデルの検証に必要な実測データを得るために、梅雨期の擾乱を対象に機動観測と無人小型気象観測機の飛行実験を実施した。この観測データを用いて、機動観測データのモデルへのインパクトを調べた。その結果、観測データを用いることにより、初期値が改善され、予報も観測に近づいていること、したがって降水過程を含めた予報スキームが正しく働いていることが検証できた。


3.波及効果、発展方向、改善点等

(1)20kmメッシュ全球気候モデルの開発

平成18年度は、課題間の連携研究として行ったAS実験、およびMRI-CGCM2.3.2による年々変動がある海面水温を与えたAM,AN実験をさらに詳細に解析する。また、観測された年々変動のある海面水温を与えた現在気候の再現実験(AT実験)も詳細に解析し、大気現象の年々変動の再現性を含めたモデルの最も基本的な性能を評価する。さらに、AJ, AK実験の積分期間をさらに10年延長して、20年とし温暖化実験の統計的有意性を高めたい。

(2)数kmメッシュ雲解像大気モデルの開発に関する研究

1km-NHMで本格的に長時間シミュレーションができるようにモデルを完成させ、7月の現在気候と温暖化時の二つの気候における計算を実施する。主に日本域の梅雨前線帯の活動(降水分布、降水強度等)に関して、二つの気候における物理量(例えば、降水量)の差ないしは変動の統計量を作る。また機動観測に関してはこれまでの観測データの整理を行い、観測データのインパクトについてNHMを使って確かめる。


4.国際共同(協力)研究の状況

(1)

平成18年2月23日から25日に米国アルバカーキにて、文部科学省(MEXT)の人・自然・地球共生プロジェクト(RR2002)・研究課題1「高分解能大気モデルを用いた地球温暖化予測に関する研究」、研究課題2「地球環境変化予測のための地球システム統合モデルの開発」、研究課題4「高精度・高分解能気候モデルの開発」、財団法人高度情報科学研究機構(RIST)が共催で、第3回共生プロジェクト国際ワークショップ(The 3rd International Workshop on the Kyosei(共生) Project)を開催した。

当研究課題4からは、以下のような発表を行った。

  1. 野田 彰(気象研究所): The SST dependence found in time-slice experiments with a 20km-mesh AGCM.
    20km格子全球大気大循環モデルを用いたタイムスライス実験における海面水温依存性
  2. 荒川 理 (AESTO/気象研究所): Tropical rainfall diurnal variation in a 20km-mesh atmospheric GCM.
    20km格子全球大気大循環モデルにおける熱帯降水量日変化
  3. 室井ちあし (気象研究所): High resolution regional climate modeling using non-hydrostatic cloud-resolving model.
    雲解像モデルによる高解像度領域気候モデリング
  4. 宮本健吾 (AESTO/気象庁): A New Dynamical Core for the JMA/MRI High-Resolution Global Spectral Atmospheric Model.
    JMA/MRI全球スペクトル大気モデルへのリデュースドガウス格子の導入
  5. 山田和孝(気象庁): Orographic gravity wave drag parameterization for high-resolution global model.
    地形性重力波抵抗パラメタリゼーションの全球高解像度モデルへの対応と改良
  6. 長澤亮二 (気象庁) :Improvement of a radiation process for the non-hydrostatic regional climate model.
    領域気候モデルのための放射スキームの改良

(2) 20kmメッシュ全球モデルのデータ公開

本研究で用いた全球20kmメッシュ全球モデルの結果を、地域気候変化予測を行っている世界の研究者に利用してもらうために、データを公開した(MRI/JMA TL959L60 data available; http://www.jamstec.go.jp/kakushin21/kyousei/k041open/data/)。次期IPCCのスケジュール(5月1日までに論文投稿)等を考慮して、今回は、地域気候変化予測のモデル相互比較を行っている研究者をデータ公開の対象とした。その後も、地域気候変化予測研究者からのデータ提供の要請があり、継続している。ヨーロッパの地域気候変化予測に関するプロジェクト(PRUDENCE; http://prudence.dmi.dk/)にデータ提供を行った。

表1 PRUDENCE参加モデル

(3) 世界銀行の基金による国際研究協力プロジェクト

中南米諸国の地球温暖化影響評価の研究者の研修と地域的気候変化予測を行うために、世界銀行の支援を受けて、国際研究協力プロジェクトが実施されている。平成17年度にカリブ海諸国(バルバドス、ベリーズ)及びコロンビアからの研究者計4名、平成18年度にアンデス諸国(ペルー、エクアドル、ボリビア)及びメキシコからの研究者計5名が気象研究所を訪れ地域的気候変化の研究を行った。


HOMEへ戻る      1.研究成果の概要2.研究成果の詳細報告3.成果発表
Copyright©2004-2007 AESTO/JMA/MRI/JAXA All Rights Reserved
Last Updated on 11 May, 2006