乗船日記 - 研究所の人々SPコンテンツ

実際に調査船に乗船した高知コア研究所スタッフが航海中の生活や調査の様子を日記形式で紹介するコンテンツ。

町山研究員の「なつしま」乗船日記 前半

2007.9.28(金)「航海スタート!」

本日は予定通り、午前10時に海洋研究開発機構横須賀本部前の岸壁を出港しました。
平日ということで、職員の皆さんが見送りに来てくれました。土・日・祝日だと関係者数人しかいないので淋しい気持ちになりますが、今回は大勢の方に見送られて明るく楽しい出港です。
今回の航海は、10月16日までの19日間にわたり日本海上越沖において海底メタンハイドレートを伴う上越沖メタン湧水域の総合的学術調査を行うためです。メタンの起源の解明、音響を利用した湧出量の調査、メタンハイドレートとそれに関連する現象の地球環境への影響の解明などを目的としています。
「なつしま」日本海航海のスタート! 今回はどんな成果が得られるか楽しみです。

2007.9.29(土)「安全祈願」

本日は海の神様に航海の安全と調査の成功を祈願しました。いつもは航海初日に祈願しますが、昨日は海況が荒れていたため今日に変更になりました。

安全祈願した後は御神酒を棒げて、そのまま夕食となりました。

2007.9.30(日)「健康管理」

風邪をひいたみたいです。
乗船前は、研究と乗船の準備でどうしても忙しくなります。無理をすると乗船時に体調を崩すなんてことになりかねません。そのため、日頃からの安全対策と健康管理が重要となります。そういう意味では私は失格でしょうね。

海洋研究開発機構の調査船には、医師は乗船していません。短期の航海であることが多い事もあります。その代わりに、衛生管理者の資格をもった乗組員が2名いて処置をしてくれます(酔い止めや風邪薬などの薬も常備してます)。もちろん、緊急時には調査を中止し近くの港に入港するなどしますし、ヘリコプターを要請することもあります。しかし、陸上のようにすぐに救急車が来てくれるなんて事はありませんから時間がかかります。

写真の金魚ですが、とある先生が研究室(船内)に持ってきた電子風鈴です。船という閉鎖空間に長期間乗船しているとストレスがたまってピリピリしてくることがあります。そんな時、こんなおちゃめなもので場が和むということがあります。ちなみに、電気じかけの風鈴シリーズ「音ピカ金魚」という商品名でした。先生曰く,アキバで人気沸騰中だそうです。動作モードが2種類あり、Aモードでは揺れるとチーンと音が鳴り、Bモードでは揺れなくてもプログラムで適度に音が鳴ります。あえて難癖をつけるとすれば,音が少し仏壇のアレに似ているということでしょうか・・・。

2007.10.1(月)「調査開始」

横須賀を出港して4日目。北回りで津軽海峡を通って日本海に入り、ようやく調査海域の新潟県沖に到着しました。
現在、海底地形探査をしています。海中では音波しか伝わりません。この音波を海底にビーム状に発信して、その反射から水深の計測をします。一度に何本もの音波を発信しますから、側方にある幅をもった範囲の水深を一度に計測できます。

「なつしま」にはSEABAT(シーバット) 8160という機器を搭載しています。写真はSEABATのディスプレイ表示の1つで、船の前後方向からの断面を示しています。病院で妊婦さんが検診する時に受けるお腹の超音波エコーと同じです。
分かりにくいかもしれませんが、海底面がドット(点)で表示されています。このデータに混入しているノイズの除去作業(通称”ゴミ取り”)を行う電子士の方がいます。この作業はブリッジの後方の部屋で行われていますが、船の最上階に位置しているのでかなり揺れます。揺れるなかひたすらディスプレイを見ながらゴミ取り作業をしているのを見ると頭が下がる思いです。私は一発で酔います・・・!

2007.10.2(火)「ハイパードルフィン登場」

この調査で最初の「ハイパードルフィン」の潜航調査となりました。
潜航開始前、ある先生の発案で首席研究者と運航長が「ハイパードルフィン」のマニピュレーター(ロボットアーム)に御神酒をかけて、調査の成功と新たな成果を祈念しました。その甲斐があってか、なんと大量にメタンガスを吹き出す新たな噴出口が発見されました。験(げん)を担ぐではありませんが、調査船ではこの手の話は多いのです。

2007.10.3(水)「カニがいっぱい」

今日は産業技術総合研究所が保有するDAI-PACK(デイパック)という音響探査機器を「ハイパードルフィン」に取り付けて調査を行いました。この機器は海底表面と表層地下構造の探査をすることができます。調査を行っている上越沖の深海底(水深約1000m)には、メタンハイドレートが存在しています。このため、メタンガスに富んだ堆積物が分布しており、海底下からメタンガスが気泡として海中に吹き出している所が多く、海底は数mの起伏に富んだ、山あり谷ありのデコボコ地形です。「ハイパードルフィン」の映像からは観察できる範囲が限られるため、音響を利用して海底面や地下構造をイメージすることが必要です。

本日は、調査が順調に進んだので、終了までに少し時間的な余裕ができました。それでは試料採取をしましょうということになりました。

2007年4月に、この周辺海域のカニ(ベニズワイガニ)の生息密度に関する新聞記事等を目にされた方も多いかもしれませんが、メタンガスが湧出する場所のカニの生息密度は、通常の海底の場所より4倍以上も高いという調査結果が出ています。これだけ多くのカニが生息するのには大量のえさが必要ですが、現在のところカニが何を食べているのか分かっていません。この辺りにメタンを好む大量のバクテリアがいることが分かっているので、もしかしたらカニがバクテリアを食べている可能性があります。その検証のためには、カニの胃の内容物を調べる必要があります。
ということでカニのサンプリングをすることに・・・。
そこで登場するのが「スラープガン」。

これは皆さんが家庭で使っている掃除機の深海版のようなものです。モーターで水を吸い込みながら生物や小石などを採取します。本来は、中層にいるクラゲや海底付近のエビなどの生物を、簡単に、しかも傷つけずに採取をするために作られたものです。これをカニの採取に使いました。

カニには大迷惑かもしれませんが、おもしろいほどたくさんのカニ試料の採取できました。

このような調査機器の多くは、ちょっとしたひらめきやアイデアで作られるものもの少なくありません。深海には水圧という大きなハードルがありますが、世界中の技術者や研究者が開発に挑んでいるのです。

2007.10.4(木)「花吹雪」

写真はメタンハイドレートで覆われたガスの気泡です。桜吹雪のようにも見える”ハイドレートの花吹雪”は一瞬調査を忘れてしまうほどの美しさです。 今回調査をしているあたりの海域(日本海)の底層水温は0.2度程の極低温です。水圧の影響もあって、ガスの気泡がすぐに氷のようなハイドレートの皮膜で覆われ、雪のような白い気泡になるのです。

今日は、(本航海中に設置・回収して、)環境を観測する機器を「ハイパードルフィン」で設置する予定でした。2日に発見したメタンガス噴出口に設置しようとしたら、ナントほとんどガスが出ていませんでした。辺りを探索しましたがガスが出ている場所がありません。初日に観察を行った時の「ハイパードルフィン」の着底跡もあるので位置的には間違いないのですが,さてどうしたことでしょうか・・・?

ふわふわとしたガスを含む堆積物なので、おそらく間欠的にある範囲内の任意の地点からガスが噴出しているのではないかという考えになりました。ひょっとして嫌われたかもしれません・・・。今回はその後、別の地点からガスが噴出しているのを発見することができました。一同、ホッと一安心です。

2007.10.5(金)「嵐を呼ぶ男」

台風15号の動きが気になります。船のスピードは車のように早くありません。 したがって、台風や低気圧などの時化(しけ)が予想される時などは、早め早めに行動しないと逃げられなくなるのです。特にこの船は最速12ノット(時速約22km)と比較的足(船速)が遅いので、遅れは命取りになってしまいます。場合によっては、天気が良く調査できる海況にいても、離脱しなくてはならなりません。
航海はこれまで順調に進んできましたが、後半はどうなることか。少し調査がつぶれてしまうかもしれません。

ところで、晴れ男、雨男。みなさんの周りにも思い当たる方がいると思います。海の調査をしていると、似たような呼ばれ方をする人が必ず出てきます。その名も台風男。その人が乗船する調査は、必ずと言っていいほど台風に遭遇し、日程がつぶれたりしてしまう・・・。日本周辺のみならず、南半球へ行ってさえ大当たり!
実は日曜日にその方がこの調査に乗船してくるのです。おもしろいことに、今、その人は台湾に行っているのですが、ものの見事に台風が台湾へ向かっています。また、予想では、向きを東に変えてくるようです。やっぱり・・・。どうなることやら!?

2007.10.6(土)「燃える氷」

今日の潜航調査では、海底の凹地の壁面に塊状のメタンハイドレートが露出しているのが発見されました。一同大感激。ある計測機器の槍で突いてみましたが、固くて歯が立ちません。当たり前のことですが、メタンハイドレートは氷のような固体です。
「ハイパードルフィン」のアームで壁をプッシュコアラー(※海底や壁面に筒状の器具を押しつけて堆積物を採取する装置。)を使って突いて堆積物を採取して持ち帰ったところ、メタンハイドレートが解けずに残っておりました。

サンプルを採取した後、注射器にハイドレートを入れて火をつけたら、しっかりした炎を出して燃えました。まさに”燃える氷”なのです。

2007.10.7(日)「航海、前半終了」

今日は前半の航海を終えたので、研究者の乗下船を直江津港で行いました。前半で下りる人、後半に乗る人、全員が集まるのはこの機会しかないということで、研究者やROV「ハイパードルフィン」運航チームの方々で記念写真を撮りました。

ところで、今回は特別に直江津港に着岸しました(それも3時間だけ。)。目的は水の補給です。船には造水機が装備されているので、海水から淡水を生成し、飲用水や雑水に利用します。ただ、沿岸では海水が汚れている事も多いので、陸から離れたところでないと動かせません。今回の調査海域は陸地に近いので、研究者の交代のタイミングに合わせて水の補給となりました。船にとって清水(淡水)は貴重です。自分の身の回りを考えてみるとわかりますが、飲み水は言うに及ばず、その他いろいろな用途で使用されます。

洗濯も例外ではありません。なるべく水を無駄にしないように注意書きが貼ってあります。「なつしま」にある洗濯機は、以前は二槽式でしたが、今は2台ほど全自動洗濯機が設置されています。洗濯コースはスピーディなお急ぎコースのみ。節水なのです。

2007.10.8(月)「海水風呂」

低気圧の影響による海況の悪化が予想された事から、7日の午後に潜航を行い、海底に設置した観測機器を回収しました。本来は10日に回収を予定していましたが、もしも潜航できないとなると設置した機器が回収できず、そのまま放置という状態になりかねません。本日と明日は調査ができない見込みなので、佐渡の北側に避泊しました。
昨日、節水のお話しをしましたが、お風呂(湯船)も通常は海水です。そう、海水風呂です! 意外にも乗船研究者には結構人気なのです。家庭ではめったに体験できないからでしょうか? 実は私も大好きです。

2007.10.9(火)「娯楽室」

今日も荒天のため日中の調査はできませんが、夜から回復するとのことなので、朝、調査海域へ向け発航しました。夕方から、海底地形探査とシングルチャネル音波探査を行います。先日、台風男の話題をしましたが、どうやら台風の影響はなさそうです。実は首席研究者が絶好調の晴れ男だそうで、両者の激突の結果、台風男の負けという事になりました。めでたしめでたし・・・!

「なつしま」に限らず調査船には娯楽室があり、乗組員や研究者の休息などに使用されます。畳の部屋で、漫画本・文庫等の書籍や映画などのDVDなどが用意されています。ゲーム機もあり乗組員の方々と一緒に楽しむこともあります。
写真は帰りの回航中,休憩時間(夜)にWiiでボーリングを楽しむ首席研究員です。

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