2007.10.10(水)「メタンハイドレート浮上」

海底に露出していたメタンハイドレートの塊。

海面の白っぽいところが、ハイドレートが浮上した地点。
天候も回復したので、ようやく潜航調査を行うことができます。今日の潜航は10月6日に調査した地点の北側で行いました。ここで海底の割れ目に、透明感のあるハイドレート結晶の大きな塊(80cm程度)を発見。みんな大興奮です。マニピュレーター(ロボットアーム)で採取しようと努力しましたが、海底に埋もれていてうまくいきません。そのうちグラグラと動き出したので、やむなく、塊全体をなんとか動かして浮上させました。海面で分解しながらパチパチと激しく破裂しながら溶けましたが、ボートを出して溶け残った破片を10個ほど回収できました。

回収されたハイドレートに群がる人々。
メタンハイドレートは、温度が低く高い圧力でないと安定して存在しません。水深900mの海底は低い温度と高い水圧ですが、船上へ持ってくる前に分解して溶けはじめます。そのため、大きな塊を採取するのは容易ではないのです。採取したハイドレートのかけらは、分析のために分解させてガスや水を採取し、残りは液体窒素に入れて保管しました。
また、メタンハイドレートの塊を浮上させている最中に、魚群探知機の音波を使って、浮上速度などを調べる実験もできました。
2008年 10月10日〜10月15日/posted by Machiyama
2007.10.11(木)「夜の調査」
「ハイパードルフィン」などの無人探査機や有人潜水調査船「しんかい6500」の潜航調査は、通常は日中に行われます。これは、夜になると周囲の安全確保が難しくなるなど、主に安全上の理由からです。もちろん、中層や深層の生物をターゲットにした研究を行うなど必要な場合は、安全が確保されたうえで、夜間の潜航調査を行う場合もあります。夜の海は真っ暗闇の世界で、星明かりの下、ライトだけが光を発し、あるいは波に反射され、それは何とも幻想的な世界です。もっとも、深海は日中でも光が届きませんから、潜航中は関係ないのですけれど。

圧縮空気を放出すると(花火の爆発音に近い音)海面が泡だちます。

さて、今回の調査ですが、日中は「ハイパードルフィン」を使用した潜航調査を行っています。では、夜間はどうしているかというと、前にも書きましたが、SEABATを使用して海底地形の調査を行い、また海底下の地質構造を調査するためにシングルチャネル音波探査を行っています。シングルチャネル音波探査(あるいは反射法探査)とは、エアガンと呼ばれる発振器から圧縮空気を放出して弾性波(人工的な地震波)を発生させ、それが海底下の地層面など境界に当たって反射した波を、海面のストリーマーケーブル(その中の受振器)で受けます。そのデータを処理・解析すると、地質構造や断層などの海底下の構造を調べることができます。要は地下の断面をイメージングする調査だと言えます。シングルチャネルとは、その名の通り1チャネルの受振器で構成されているシステムです。なお、複数チャネルで構成されているのはマルチチャネルと呼ばれ、地震断層や資源調査などで一般的に使用されています。

調査結果をラボ(研究室)の壁に貼って、断面図を前にして検討しています。
この探査によって、メタンハイドレートやガスが噴出している海底の下には、柱状のガスだまりが存在していることがわかりました。
2007.10.12(金)「最後は体力です」

ラボにて

「ハイパードルフィン」コントロール室
今日で潜航調査も最後となりました。皆さん、だいぶ疲れがたまってきているようです。ハイパードルフィンによる調査で堆積物・岩石・水や生物などのサンプルを採取した後は、夜遅くまでサンプル処理やデータの解析に追われ、午前様になることもしばしば。朝も早いので寝不足になります。ついついうとうとと・・・。調査に限りませんが、最後は体力勝負だと思います。正直、日記を書くのも辛くなってきました・・・。(^^ゞ
「ハイパードルフィン」のコントロール室は、「なつしま」の屋上に設置されたコンテナの中にあります。波に揺られると、それはまるでゆりかごのようでもあり・・・。おまけに、深海の暗い海底の調査映像をテレビ画面で見るために、照明を落としてありますから、なおさらです。期間の長い調査の後半になると、睡魔との戦いは日夜続くのです。

海底にぽっかりとあいた凹地と、周辺にたまった海底の土砂(堆積物)。奥の壁に白いメタンハイドレートが露出していた。
ところで、最後の潜航調査で、新たな崩壊地形(凹地)を発見し、その壁にメタンハイドレートの露出を確認しました。首席研究員を務めた東京大学の松本教授は、これまでの調査結果から、メタンハイドレートの崩壊がこれらの地形を形成したという、これまでにないモデルをつくりました。眠い目をこすりながらもみんなでがんばった末の画期的な成果です。
2007.10.13(土)「プロフェッショナル」
調査が終了し、現在は横須賀へ帰る途中です。来た時と同じく、津軽海峡を通って横須賀へ帰港します。無事に調査を終え、しかも成果があがった時は、調査に向かう時とは別の意味で楽しい帰路でもあります。今回の調査が成功に終えたのは、「なつしま」乗組員・「ハイパードルフィン」運航チーム・観測技術員の皆様のおかげです。

「ハイパードルフィン」のコックピット。左手前から、パイロット、運航長、カメラマン、コ・パイロット。
海上は陸上と違い障害物がありませんから、風も強く波も立ちます。また潮の流れもあります。通常の航行と違い、「ハイパードルフィン」で海底を観察しながら、あるいは途中で着底し作業しながらの調査ですから、非常にゆっくりとしたスピードで進みます。しかも、無人探査機はケーブルを介して母船とつながっています。このため、お互いの位置関係と風向・潮の変化を考えつつ操船しなくてなりません。したがって、どちらも操るのが難しいのです。
「ハイパードルフィン」の操作は、指揮をとる運航長、ビークル(探査機本体)を操るパイロット、作業を行うマニピュレーターを操作するコ・パイロット、観察するカメラを操作する担当の4名で行われます。一定高度でビークルを航走させて指示された位置に着底させる、マニピュレーターでバルブを操作する、割らずに貝を採取するなど、いずれも熟練しなくてはできない作業です。特に運航長は、研究者の要望に応えつつ作業の指示をし、母船との相対位置・距離などからケーブルの巻き出し・巻き上げも適宜指示するなど、調査計画を完遂させてくれます。

潜航前に、マニピュレーターでのペイロード取り回しを入念にチェックする運航長。
研究者はわがままで欲張りなことが多く、ペイロード(調査で使用する観測機材)を多数持っていこうとしたり、新しい機器を持ち込んできたりします。運航チームは工夫を施して、あるいは船上で工作して、それらを搭載できるようにしてくれるのです。これを通常の保守・チェック作業と並行して行いますから、並大抵のことではありません。深海の水圧は小さな針の穴でさえ見逃してはくれません。夜遅くまで作業をしている姿には、ただただ頭が下がる思いです。反射法探査のオペレーションをする観測技術員、地形探査の処理をして頂いた電子部の方々なども同様です。
我々はついハードウェア(新型マシンなど)に目を奪われがちですが、ソフト面、特に人的資源にこそ目を向けるべきではないでしょうか。海洋調査は職人なくしてはできないのです。
2007.10.14(日)「ごはんです」

ある日の献立

ある日の夕食
調査は終了しているのですが、データの整理とクルーズレポート(航海報告書)の作成、観測機材の後片付けなど、結構忙しいのです。今日は小ネタでご勘弁を。
昔から「同じ釜の飯を食う」と言われますが、船上ではまさにこれと同じことになります。初対面でもかなり親しくなれます。・・・で、ご飯です(つながりませんか?)。
調査が始まるとかなり忙しくなります。以前に娯楽室を取り上げましたが、そこで休息を取るヒマもなくなります。船は禁酒ではありませんが、居酒屋などとは違いますから、それほどにはストレスを発散できません。私の場合、必然的に楽しみが食事となります。今は翌日の献立が夜に食堂前に掲示されるので、「明日は○○がでるよ!」という話が飛び交うこともあります。カレーライスは人気があるメニューの一つで、人目を気にしつつもお代わりしてしまいます。
ビュッフェスタイルではありませんので、好き嫌いを考えてかどうかわかりませんが、夕食にはメインの料理として、魚と肉の両方が出ます。また、朝食は洋食(パン)と和食が前もって選択できるようになっています(ちなみに、実家が米屋を営む私は和食党です)。なお、パンですが、これは自家製なのです。昔のことですが、夜中に食堂でコトコトと音がしていたので、何だろうと思いのぞきに行ったところ、炊飯器のようなものが動いていた振動音でした。パン作り器がこの世にあるなんて知らなかったので、一つ勉強になりました。
船や期間によって司厨長が変わりますので、料理も味付けも様々です。これも楽しみの一つです。4年前の話ですが、見た目から想像していたものと一口食べた味が違っていました。ふと厨房を見たら司厨長がにやりとしているではありませんか。「やられた!」。こんなお茶目な司厨長もいらっしゃいます。ちなみに、夕食は17時からなので、夜中にお腹がすくこともあります。カップラーメンを持ち込む人も多いのです。逆に、船の時間帯に慣れてしまうと、陸に上がってから夕方にお腹がすいてたまりません。
2007.10.15(月)「帰ってきました。しかし・・・」
今日の夕方、予定より半日早く、横須賀市の沖に到着しました。・・・が、日没近くとなり安全上の問題もあるため、岸壁に接岸せずに沖泊まりです。街並みが目の前なのに下船できません。街の灯りが恨めしい・・・。

街の灯がオレを呼んでいる・・・。
昨日に引き続き、下船準備で忙しいので小ネタですが。調査船に自動販売機があると言ったら驚かれるでしょうか? 昔は自販機がなかったので、子供の遠足ではありませんが、様々なペットボトルを買い込んで持ち込んだものでした。自販機が設置されたおかげで、以前よりは飲み物を持ち込む数が減って、助かっています。
写真の隣はごついですが、缶つぶし器です。ゴミは海に捨てられませんし、船上で燃やすこともできません。陸上と同じく、ゴミのダイエットが必要です。また、分別も徹底されています(缶つぶし器の奥がゴミ箱群です)。

2007.10.16(火)「下船しました」
下船しました。今回の調査航海では、塊状のメタンハイドレートの露出を4カ所で確認し、海底表層のイメージング調査や潜航調査から、メタンハイドレートの崩壊がこれらの地形を形成したという新しいモデルが構築できました。メタン噴出に伴う生物に関しても様々な知見を得ることができましたし、地下構造の探査からはガスチムニーも明瞭に検出できました。大成功の調査であったと言えるでしょう。今後は各データの解析や、採取したサンプルの分析などが行われ、各分野の成果が発表されることと思います。
乗船日記ということで、調査中の様子や船での生活をご紹介しました。拙い文章でしたが、少しでも調査の雰囲気が伝えられたらと思います。ここまでお読みくださりありがとうございました。


