渋谷 岳造

Takazo Shibuya Ph.D.
専任研究員
独立行政法人海洋研究開発機構 (JAMSTEC)

  • プレカンブリアンエコシステムラボラトリー
  • 渋谷専任研究員はワイルドで行動派、そしてバイクが大好きな研究者。そんな彼の研究テーマは、大いなる自然を相手にした壮大なものです。どのようにして渋谷さんがハンマーを持って世界の岩石を調査して歩くようになられたのか、聞いてみましょう!(左写真:地質調査中の渋谷さん)

    ★ 渋谷さんは現在、どのようなテーマで研究をされていますか?

      最近は主に二つのことをやっています。一つ目は昔の石から当時の海水組成を読み取ることです。地球に海ができてからどうやって今のような組成の海になったのかを研究しています。もう一つは昔の海水と石を圧力釜に入れて350度くらいの温度で煮込んで人工的に熱水を作ることです。こちらは昔の海底から噴いていた熱水がどんな組成だったのかを明らかにする研究です。生命の初期進化は海水と熱水の組成に大きく依存したはずなので、これら二つの研究から昔の熱水系にいた生物がどのような種類だったのか、そしてそれらがどのように進化してきたのかということに迫りたいと考えています。

    ★ 専門分野について教えて下さい。

      学生時代に所属していた研究室の専門分野は、地質・岩石学でした。ちなみに地質学・岩石学といえば、石・岩石収集ですが、僕は昔からフィールドワークが大好きでした。最近はフィールドで採って来た様々な時代の石から当時の環境を復元するために、新しい分析法の開発や地球化学的な研究もしています。

    ★ それでは学生時代から山や川や海の近くで石集めをなさっていたのですね?

      その通りです。特に、修士論文を書くために岩石収集のフィールドワークを多く行いました。そこで「岩石収集欲」はさらに煽られましたね。オーストラリアの砂漠(ピルバラ)では干からびた自然環境の中、ハンマーを片手に岩石収集を堪能し、チリ南部(タイタオ半島)の山の斜面を駆けずり回って岩石収集、さらに船に乗ってフィヨルドの中まで探し回って岩石収集をしました。これがかなり大変でした。ずっと雨で寒く、船酔いはするし、しかもタイタオは山の斜面に豊かな植生が存在していて、岩石集めが大変なのです。植物が生えていると地面が見えず、石も岩も見つけにくく、よって採集もしにくいというのが理由です。この修士論文のテーマは、古い地層であるピルバラと、新しい地層であるタイタオの比較を行い、さらに昔と今の間をつなぐというものだったのですが、フィールドワークに数ヶ月、帰って来てデータまとめと論文執筆に1年半かけても、あまりにスケールが大きいテーマなので、修士課程の2年間ではとても終えられませんでした。結局、比較を修士論文で、間を結ぶという作業を博士論文で、何とかまとめました。しかし間を結ぶ作業は現在も続行中です。何しろ、何十億年間というスケールの岩石を扱って、太古の地球、いわゆる先カンブリア紀(プレカンブリアン)を読み解くわけですから、気長に取り組まなければならないのです!

    ★ 研究者になることを決断されたのはいつ頃だったのでしょうか?

      修士1年目にして、自分の研究が長期戦になりそうだと悟りました。修士2年目でもまだまだ研究結果をまとめ切れそうになく、博士課程に進むことを決めた時には既に研究者として生きていこうと覚悟を決めていましたね。なりたくてしょうがなくて研究者になったというよりは、そもそも自分がやり始めた研究テーマがスケールの大きいものだったので、より多くの時間を要した、そしてそれが今も続いている、ということですね。とにかく、フィールドワークも楽しいし、調べること、論文を書くことも仕事の一環として楽しめているので、研究者で良かったなあと思いますよ!

    ★ 渋谷さんは小さい頃から自然の中で遊んだり、岩石を集めたりするのがお好きだったのでしょうか?

      はい。外で遊ぶのが大好きでしたね。相模川のそばで育ったこともあり、よく川で遊んでいました。虫も好きで、探したり捕まえたり、本で調べたり。星空を眺めて宇宙に思いを馳せ、宇宙図鑑で調べてさらに興味を持ったり・・・。そのうち、火山やマグマにも心惹かれるようになりました。岩石は・・・そうですねえ、それほど小さい頃から「石マニア」だったということはないです(笑)。岩石は、あくまでも研究する際の「道具」「材料」のひとつといった感じでしょうか。ずっと昔の地球のことを調べるには、岩石がとても多くを物語ってくれる貴重な材料になります。その点では、今は岩石が商売道具ですね。それプラス、岩石を調べるために自分で発明(!)した装置ですかね。主にこれらで僕は研究を行っています。

    ★ 研究していて楽しい時と、辛い時はどんな時ですか。

      楽しい時・・・以前、フィールドワークをしていた時は、歩いて調査すること自体が楽しかったです。最初は真っ白な地形図にちょっとずつ地質データを書き込んでいって一週間後に地質図ができたときはかなりの達成感です。もちろんキャンプに帰って来てから飲むビールは最高ですよ!それから、研究者はみんなそうだと思いますが、実験や分析をしていて自分が予想していた通りの結果が出た時は最高に嬉しいです。あと、最近やっている煮込み実験は無事終了するだけでうれしいですね。何ヶ月も煮込むのでその間にわずかに煮込み汁が漏れてたり、釜のヒーターの故障があったりと、失敗することも結構ありますから。
      辛い時・・・気合を入れて書いた論文を投稿しても何度もリジェクトされてなかなか受理されないこともあるのですが、そういう時はガックリしますね。気を取り直して何度もチャレンジしますが。それと、船に乗っている時は結構辛いです。JAMSTECにいるくせに実は船酔いがひどくて航海調査の時は慣れるまでは結構しんどいんです。京急の電車でも酔うくらいですから。

    ★ JAMSTECで研究をしていて、思うことは?

      最初にJAMSTECに来たときはなんといっても研究設備が整っていることにびっくりしました。プレカン研究はいろいろな実験装置や分析機器を駆使する必要がありますし、やはり設備が揃っていると思いついたアイデアもすぐに試せますからね。その点、JAMSTECには世界でもトップレベルの設備が整っているので、まさにプレカン研究にうってつけだと思います!あと、いろんな分野の研究者がすぐ近くにいるのにはとっても助けられます。プレカン研究はいろんな分野の人が集まってやっていますが、自分の専門外のことでちょっと聞きたいことをすぐに聞けるというのは大学時代ではあまりありませんでした。こういった環境は面白い研究をする上でとっても大事なことだと思っています。JAMSTECは設備的にも人的にも研究に適した環境なので有り難く思っています。研究大好きなので、これからも成果を出せるよう頑張ります!

    ★ インタヴュー後の感想 by 館洞

      フレンドリーでバイク好きなカジュアルお兄さん・・・。しかし、渋谷さんはそれプラス「生粋の行動派サイエンティスト」です。彼の行っている研究のテーマや経験の豊富さ、さらに新たな知識を楽々吸収して自分で応用してしまう手際の鮮やかさを目の当たりにすると、彼の頭の中の引き出しの多さと容量を賞賛することになります。どのくらい行動派かといいますと・・・飛行機で船で、海へ山へ砂漠といった、文字通り地の果て海の果てまでもぶっ飛んで行ってしまう、正真正銘の「フットワーク軽い系ワイルド・サイエンティスト」なのです。そこには、幼い頃から大自然の中で大いに遊び、「自然はすごい!」という事実を体感したことが深く関わっているのでしょう。だって、子供の頃から彼のライフスタイルはあまり変わっていないのですから・・・!子供時代は虫や星を外で見ては、家に帰っては本で調べて胸を高鳴らせていた渋谷さんですが、大人になった今も同じ。海や山で岩石を拾い(今はかなり行動半径は拡がっていますが)、おうちに帰って(現在はJAMSTECに持ち帰って)、自分で考えて作った真空システムに石を入れて砕き、石に閉じ込められていた大昔の空気を取り出して、「きっと昔の地球はこういう世界だったに違いない!」と予測してときめいているのですから。しかも大人になった渋谷さんはこの「胸の高鳴り」を論文にして世界に発表するので、子供の頃に比べると世に対する貢献度も飛躍的に大きくなっています。

      ところで、地質学の研究と微生物学の研究が結婚し、この二者の間に生まれたのが「プレカンラボ」という名の美しい赤ちゃん(!)です。この子は渋谷さんを含む優秀なプレカンラボのメンバーのたゆまぬ努力によって育てられ、すくすくと成長中です。地質学分野ご出身の渋谷さんは、プレカンラボに来て、「水」や「微生物活動による水や岩石の変化」などに触れて大いに感動し、さらに多くを学び、プレカンラボを育ててきた方々のうちのお一人です。おおらかでご機嫌、そしてじーっと考えては一気にフィールドへ繰り出し、さっと戻って来て論文にまとめる、スマートな渋谷さん。これからも、重大な研究結果を世に送り出し続けることでしょう。高井ULの著書「生命はなぜ生まれたのか 地球生物の起源の謎に迫る」に、中村謙太郎研究員と西澤学研究員と共に渋谷さんも登場します。興味のある方はぜひご一読を。
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