Precam News

2012

2011

去る4月6日、プレカンブリアンエコシステムラボラトリーのメンバーの多くが乗船したインド洋中央海嶺深海熱水探査航海(YK09-13 Leg1)航海の首席研究者であり、DODO(ドードー)フィールド、Solitaire(ソリティア)フィールドと命名した玉木賢策教授 (東京大学大学院 工学系研究科 エネルギー・資源フロンティアセンター長)が出張中のニューヨークにて帰らぬ人となりました。ご冥福をお祈りします。


YK09-13 Leg1航海(2009年10月)にてしんかい6500に乗り込む故玉木教授


ページ先頭へ戻る
「生命はなぜ生まれたのか 地球生物の起源の謎に迫る」が幻冬舎より出版されました。高井UL率いるプレカンラボとSUGARチームが全力で取り組む研究テーマをぎゅっとまとめた、画期的な内容の最新書です。生命の起源や深海熱水活動についての研究が専門的な内容も交えつつ、臨場感・スリル・ユーモアたっぷりに描かれています。サイエンスファンの方、プレカンラボやSUGARが何をしているのかに興味をお持ちの方、高井ULのファンの皆様はもちろん、ライバル意識や妬み・苦手意識等をお持ちの方々まで、皆様にとって有益な一書となるでしょう。

おすすめ書籍のご案内のページへ →こちらをクリック


高井UL自らPR! 本を片手に「ぜひ読んでみてね♥」


ページ先頭へ戻る

2010

昨年10月に行われたYK09-13 Leg1航海 (首席・玉木賢策 (東京大学))において、インド洋中央海嶺上の南緯18°-20°を「しんかい6500」およびディープ・トゥで調査した結果、2つの熱水サイトを発見しました。我々はこれらのサイトをDODO(ドードー)サイト、Solitaire(ソリティア)サイトと名付けました。
また、ソリティアフィールドでは今までインド洋の「かいれいフィールド」でのみ存在を確認されていたスケーリーフットが存在していました。しかしながら、その容姿は白いうろこそして茶色い貝殻と全く違うものでした。

インド洋中央海嶺の熱水サイトと今回発見されたサイトの位置


ソリティアフィールドで見つかった白いスケーリーフット
写真提供(江ノ島水族館・根本卓)

「プレカン川口によるインド洋で2つの熱水域と白いスケーリーフットを発見、の現場レポート」

動画をご覧になった方は、熱水変質者ケンタロー兄さんの「ヤッター!」とか、自称1031高井研の「スケーリーフットや!」とか、「何を盛りのついた猿のように騒いどるんや」と思われたと思います。そのご意見はごもっとも。今あらためて動画を見直したボクも、彼らの異常なまでの興奮ぶりは、ややサブイ感じがしました。とはいえ、かくいうボクも海底の「しんかい」からの通信を洋上の「よこすか」船内で受けて、同じように「ウホー!」と咆吼しておりましたので、ヒトのことは言えません。この興奮状態はいわゆる「船上ハイ」というやつです。研究船自体は青い海と空が広がる超解放空間なのですが、実際には1つのマニアックな目的の下に集まった30人ほどが閉鎖空間で数週間過ごすという、非常に濃密な生活が繰り広げられていまして、いわゆる「内輪ネタ」的な盛り上がりが横行してしまうのです。この「船内ハイ」状態で陸上の人にメールなどをすると「キモッ!」と罵られるので、注意が必要です。

さて今回の発見についてですが、ぶっちゃけると、シロスケ(白いスケーリーフットのあだ名)については、まったく偶然の発見で、われわれにとっても大きなサプライズでした。そもそも、クロスケ(黒いスケーリーフット)自体が「インド洋かいれい熱水域」でしか見つかっていないわけで、「同じインド洋の熱水やし、もしかしたらクロスケはいるかもねー」ぐらいの淡い期待は抱いていましたが、まさかシロスケなんてものがこの世に存在するなんて夢にも思いませんでした。

一方、2つの熱水域自体は、シロスケ発見のような偶然とは違い、科学的根拠に基づいて、しっかりと「狙って」発見しました。皆さんご存じの通り、地球表面の約7割が海ですから、地球の表面積から海洋底の面積はおよそ360,000,000,000,000平方メートルと見積もられます。広いですね。これに対して1つの熱水域はだいたい100m×100mですから、たとえばその辺の県営陸上競技場ぐらいなものです。比率で言うと、300億ピースのパズルの中から1ピースだけ違うのが混じっているような具合です。なかなか想像も難しいかと思いますが、要するに「やみくもに探しても絶対に見つからない」ものなのです。

熱水探査では、まず海底地形を調べます。熱水活動はほとんどが海底プレートの境界付近に集中しているので、広大な海洋底とはいえ、海底地形を見れば候補になりうる海域はなんとなく絞れます。インド洋の場合は、中央インド洋海嶺が南北に走っているので、これに沿った海域を調査することになります。さらにインド洋の海底地形をよくよく見ると、モーリシャスからロドリゲス島へと連なる東西方向の地形の高まりが見えます(図)。この二つの地形が交差する地点、これはかなり熱水の匂いがしますね。

そこで2006年に、学術研究船「白鳳丸」の航海で、この海域で重点的な海水の観測を行いました。このような海水を調べる熱水探査の学術的な詳細については、師匠である蒲生俊敬・東京大学教授が同じような方法で「かいれい熱水域」を発見した時の様子を紹介しているので、そちらをご覧ください。まず初めは、100,000m×100,000mぐらいの範囲に狙いを設定して観測をしていきます。そして観測値を見ながら、海水中にうっすらと広がる熱水の成分がより濃い方に絞り込みをかけていき、2週間の探査で5,000m×5,000mの範囲まで絞り込むことができました。ちなみに、これはソリティア熱水域の探査の話で、ドードー熱水域では初めに観測した地点で非常に濃い熱水成分が見つかり、いきなり1,000m×1,000mぐらいまで候補地点を絞り込めました。この絞り込み航海の成果について、「海中ロボット界の帝王」こと浦環・東京大学教授が「ワシの作ったロボットが熱水活動を発見しましたでー!」とプレスリリースをしておりますが、熱水噴出を視認していないこの時点ではまだ「熱水発見」とは言えませんので、少し先走りですね。ボクは2006年航海の成果を、ひっそりと「予言の書」としてまとめ、来る潜航調査を心待ちにしていました。

2009年11月、「よこすか」は「しんかい6500」と「ディープ・トゥ」を搭載し、第3の熱水域を見つけるべくインド洋に向かいました。初めのターゲットは、「予言の書」によると「潜ればすぐに見つかりますわー」というぐらい絞り込みができているドードー熱水域です。しかし、首席の玉木、予言者の川口、モーリシャス人のペレ・ダニエルが「しんかい」で潜航したものの、海底に熱水の兆候はまったく見えません。航海開始から1週間が過ぎた頃から、「予言の書はガセ」「このオオカミ少年が!」と川口を糾弾する声が、主として高井さんからあがり、「この航海は空振りに終わりそうよねー」という寒い空気が船内を包んでいました。そんな期待薄な雰囲気の中で、ケンタロー兄さんの潜航が行われ、冒頭の動画にある「ヤッター!」の場面に至り、ついにドードー熱水域を発見することができました。

続いてソリティア熱水域の探査ですが、海況が良くないので「しんかい」は潜航することができず、「よこすか」からケーブルを下ろしカメラを曳航する「ディープ・トゥ」を用いて海底面を観察することになりました。しかし、やはり海況が良くないせいで、「ディープ・トゥ」も制御が難しく、予定していたコースから大きく逸脱してしまいました。なんとか「ディープ・トゥ」を予定のコースに戻した瞬間、突如として大量の底生生物群集がカメラに映り、「これは!」となりました。航海最終日、海況はいぜん不安定で、「しんかい」は潜航できるかできないかの瀬戸際でしが、「これで熱水域見つけたら「しんかい熱水域」って名前にしますよ」という高井さんの空手形に「しんかい」運航チームが乗っかり、「少しでも海況が悪化したら即終了」という安全第一の約束のもと潜航が行われました。そしてこの潜航で、動画の中の「スケーリーフットや!」という世紀の大発見がありました。「しんかい」運航チームの大英断に大感謝ではありますが、玉木首席が「ソリティア熱水域」というネーミングに固執したため、「しんかい熱水域」は幻に終わっています。ごめんなさい。

なぜシロスケとクロスケは白黒に分かれているのか、なぜそれぞれ別々の場所に住んでいるのか、なぜ同じインド洋の「エドモンド熱水域」や「ドードー熱水域」にはスケーリーフットがいないのか、どこかにアカスケやアオスケがいるのではないか。これは生物の進化を考える上での重要な疑問ですが、これを解決するための1つの手段は、やはり、インド洋における第5の熱水域の発見です。特に、三方を陸に囲まれてドン詰まりになっているインド洋の北部における熱水域は、熱水生物の子種の広がりの終着点になりますから、特異な進化を遂げた珍妙な生態系が存在している可能性があります。そこで、次なる熱水探査のターゲットはインド洋北部、通称「ナマステ計画」です。熱水域を発見すれば、次こそは「しんかい熱水域」と命名せねばなりません。

われわれプレカンラボは、先の行政刷新会議において「プレカンラボは研究内容を見直すべし」と単独指名されておりますが、このような研究をしております。激しい逆風の中を行くプレカンラボの大冒険に、今後ともご声援よろしくお願いします。

ページ先頭へ戻る
NASA Astrobiology Instituteの研究者、Felisa Wolfe-SimonらがScience誌に発表した「リンの代わりにヒ素を使って増殖するバクテリア」論文について、その素晴らしさに「感動した!」ので、プレカンブリアンエコシステムラボラトリーを代表して高井研がコメントします。いくつかの新聞社からコメントを求められて答えたのですが、その研究の面白さや意義をもっと「広く一般の方に面白く、興味深く」知ってもらいたいという気持ちだけですので、楽しんでもらえば幸いです。研究者は自分で読んで感動して下さい。

まず、今回の研究者チーム。「NASA Astrobiology Instituteって何?」なんですが、アメリカ全土に拡がるバーチャル宇宙生物学研究所です。実際に、「ある街に大きな建物があって。。。」みたいな、「横須賀の追浜っていう街外れの海辺に白亜の御殿のJAMSTEC」のような研究所ではないんですね。NASAがパトロンになって、全米の大学や研究所に拠点を作り、そこに研究費を渡して、各テーマの研究を進めると。それをバーチャルネットワーク社会で、「一つの研究所」と見なして、あたかも一つの巨大な研究所のように機能させるという新しい試みです。なかなか面白い試みで、我が国でも是非実現したいシステムです。ですから、論文著者の多くは、NASA Astrobiology Institute以外に本職の職場を持ってます。例えば第一著者のFelisa Wolfe-Simonは、カリフォルニアの米国地質調査所の研究者です。しかし、米国地質調査所のおそらく地球微生物学研究チームが主体となったグループが、NASA Astrobiology Instituteの拠点として、認められ研究費を受けているのです。ちなみにラストオーサーのRonald S. Oremlandは、ヒ素に関わる微生物の研究では、まず間違いなく世界トップの研究者です。環境微生物学の分野でも絶大な名声を有する超大物です。しかし、その研究の誠実さ(ちょっとニュアンス的な言い方ですが、センセーショナリズムを追求するNatureやScienceばかりを狙う目立ちたがり屋研究者というのがどの分野にもいるものですが、そういうタイプとは違って、どちらかというとしっかりした研究を続けてきたと言う意味です)には定評があり、それゆえ、今回の驚天動地の研究成果が、「まあ間違いあるまい」とすんなり受け入れられる背景にあるかもしれません。

イントロは美しいですね。たしかに生命に必須の主要元素というのがあって、炭素、水素、窒素、酸素、イオウ、リンは6大主要元素です。もちろん、その他の微量元素も重要です。微量元素は、「事業仕分け」や「看板付け替え」、「入れ替え」が可能な例があり、例えばタングステンとモリブデンの入れ替えなんかは、我々プレカンブリアンエコシステムラボの研究テーマでもあったりします。それでも十分「スゲェーよ」レベルであり、だからこそ研究しているわけですね。しかしですよ、6大元素に手を付けるのはさすがに、「無理でしょ」とみんなある意味「諦めモード」だったんです。だからこそ、今回の「リンとヒ素、正確にはリン酸とヒ酸、の取っ替え」が衝撃なワケ。たしかに、6大元素の中でも理論的に最も可能性が高いのが、リンとヒ素の「We can change!」だったのです。あっ、SFマニアは、ここで突っ込みを入れますよね、「炭素とケイ素の入れ替えがムニャムニャ。。。」。無理です。脳の中の仮想空間で楽しみましょう。余談ですが、イオウとセレンの取り替えはリンーヒ素の次に可能性はあるかもしれません。ヒ素、セレンはどちらも結構、地下水の汚染毒物として有名ですが、なぜ毒かというと、いろいろ理由はあるのですが、やはり「生物がリンやイオウと間違えてしまう」ことに大きな原因があるのです。セレンはタンパク質を構成するアミノ酸に含まれることが分かってきて、それはそれは大きな科学テーマでもあります。しかしそれとて、所詮Jリーグ入れ替え戦程度のものにすぎないわけです。総とっかえは、心情的には無理と思ってたんですね。しかし、イントロには、「そんなセンチな心情に流されてはいけない」とは書いてませんが、的確な理論展開がされています。「ヒ酸の安定性が克服できれば可能である」。そうですか。それなら、「ヒ酸が大量にあって、とっかえひっかえできるような環境だったら....」という論理展開を読者はしますよね。その答えが次にバーンと出てくるわけです。「モノレイクにはヒ素が濃集しておる」と。これを先回りして、ロジックを展開するのが、エ・レ・ガ・ン・トというものなんです。くぅーかなり脚に来ましたよ。この序盤戦のジャブ攻撃は。

さてモノレイク。カリフォルニア州にある塩湖です。流入河川が貧弱ゥになり、水がどんどん蒸発しているわけですね。塩濃度が上昇し、pHもアルカリ性になっていきます。結構、極限環境微生物の宝庫として有名なところです。その水が、ヒ素濃度0.2mMもあるんですね。たしかに濃いわー。これだけヒ素が濃かったら、さぞかしヒ素が使いやすいと想像できます。

その水から、リンを全く含まない培地で、ヒ素(ヒ酸)だけ入れた培地で微生物を培養したということですね。簡単です。シンプルです。誰でも思い付きます。でもこれが「コロンブスの卵」というやつです。

「そんなこと言ったって、一般的な試薬には、微量のリンが混入しているんだよ」。これも予想できる指摘です。ですから、ちゃーんとリンの濃度もチェックします。「たしかに完全に除去できてませんな」というのが著者らの見解。でもかなり何回も、しつこく集積を進めていくわけです。さすがにもうええやろ、というところで、コロニー分離して、さらにしつこく。この辺の言外の意味を読み取ると、「結構簡単に生える」ことがわかります。微生物ハンターの私には。微生物ハンター的には、この段階で「勝利宣言」をしているはずです。Felisa Wolfe-Simonは、実験室で踊り狂っていたはずです。家族や恋人、友人に、喜びの電話、メールなどうるさくしたでしょう。そういうものです。研究者は。それをRonald S. Oremlandは「まだだ。まだ道半ばだ。こっからが勝負なんだよ」と諫めたことでしょう。とりあえず、微生物は、ガンマプロテオバクテリアのハロモナス科のバクテリアでした。このバクテリアは基本的に、地球のあらゆるところに生息しています。ただただ生息しているだけではなくて、むしろ蔓延ってます。めちゃ存在量がおおいです。海洋、超深海、熱水、南極、砂漠などいわゆる極限環境でもブイブイ言わしているバクテリアです。そう言う意味では、適応能力や生存能力には定評があるバクテリアです。そのため、ハロモナス科と聞けば、「うーん有り得るな」と納得してしまうぐらいです。

つぎに本当にリン酸とヒ酸が入れ替わっているかを検証していきます。この辺は、シャーロックホームズの物語を読むようにどきどきしますね。まずICP-MSで細胞内ヒ素とリン酸の量を測定します。次に放射性同位体ラベルしたヒ酸の取り込み実験で、取り込み量をより正確に算出します。リン酸とおなじような取り込み方をしているから、DNA、RNA、タンパク質、脂質、そしてATPなどの補酵素にリン酸の代わりに入っていると。「簡単な技から初めて徐々に難度の高い実験系に移行してますね、解説の八木沼さん?」。「ええそうですね、最初のトリプルアクセルRI実験はきれいに決まりましたネー。得点たかいです。」

「次にはNanoSIMSというパンチの効いた最新テクノロジーを駆使した連続ジャンプが来ますよ−。決まれば、かなり高得点ですね」。そうNanoSIMSをここで使ってくるのだ。別に必要か?と言われれば、絶対必要でもないような気がするが、なんと言ってもNanoSIMSを使うことに潜在的な意味合いがある。NanoSIMSというのは、めちゃくちゃ小さなスケール(ナノメータースケール)の元素・同位体マッピングと定量を可能にする超高級分析家具です。もちろんAstrobiologyには「必要不可欠」と喧伝されているモノである。ここでこれを持ってくることによって、「おう、やはりNanoSIMS、DA・YO・NE」になるのだ。それを使って、電気泳動したDNAを測定するとDNAのリン酸の代わりにヒ酸が入っていることがクリアーになった。NanoSIMSでなくてもできるが、NanoSIMSがあったら、確かに簡単です。誰かNanoSIMSを買ってクレー。ちなみにJAMSTECの高知コア研究所には、導入されます。

もうこれだけでも圧倒されているのに、さらにとどめを刺しにきます。microXANESというエックス線吸収分析で、細胞内ヒ素の存在形態まで調べています。これによって、DNA、RNA、タンパク質、脂質、そしてATPなどの補酵素に、本当にリン酸の代わりに入っている証拠を取りに行ってるわけです。この辺の分析スキームは、美しいのです。まるで、「Astrobiologyとはこういう流れでやるもんなんじゃあぁ!」というお手本を見るようです。微生物培養技術+美しい分析手法の組み合わせとそれをサーブする順序、タイミング。さすが三つ星研究者。すばらしい。そして最後のデザートは、NanoSIMSによる細胞可視化図。パーフェクト。

締めのコーヒーは、ハロモナス科細菌の液胞状器官について。そこにリン酸ならぬヒ酸をストックすると。たしかにある種の細菌は、液胞状の器官にポリリン酸をストックすることが知られています。「不安定なヒ酸を疎水的な液胞に保存するのだ」という考察は、イントロから始まる全体のストーリーをきりりと引き締める。やられた。

というわけで、素晴らしい仕事。素晴らしい論文です。グッドリズム!! グーッドウィドゥム!!ですね。

というわけで皆さん楽しんで頂けたでしょうか。NASAのもったいぶった発表でしたが、もったいぶるだけのことはあった成果でした。しかし、個人的には、一抹の悔しさもあります。「基本的に誰でもできる様な簡単な実験によって、常識を打ち破る」。これは研究者の至福であり、夢ですね。こんなにきれいにそれをやるとは思っても見なかったこと。その隙が悔しい。しかし、この研究は追試によって確認される必要があるでしょう。しかも、ハロモナス科細菌だけの能力なのか、それともある特殊な微生物の能力なのか、あるいは案外多くの微生物ができる能力なのか。その辺も明らかにする必要があります。個人的には、深海や地殻内で、そのような微生物を探してみたいと思ってます。あとリンーヒ素以外の入れ替え実験も面白そうです。

ただ、この成果のインパクトは、かならずしもAstrobiology的なモノとは思えません。この文章は、正式な発表前に書いており、もしかすると記者会見では、別の驚くタマが隠されているかもしれません。なにか新たなタマがわかったら、続報を書くかも?です。

最後に、我々のプレカンブリアンエコシステムラボは、NASA Astrobiology Instituteのような大きな組織ではありませんが、同じように地球と生命と進化や宇宙における生命の存在可能性などについて、燃えるような情熱と様々な分野の融合によって細々としたお金ながら研究をしています。最近、行政刷新会議なる組織から、「プレカンブリアンエコシステムラボの研究内容を見直すこと」という指摘があったようです。「一回、このホームページの中身ぐらいみてから、そういう指摘をして欲しい」ものです。というわけで、この論文の成果には、我々の研究グループはかなり励まされました。やるぜ。まだまだやるぜ。俺たちは。ということで、たまにはホームページに遊びに来てください。

高井研

ページ先頭へ戻る
10月28日
渋谷研究員らが執筆した論文「太古代アルカリ性熱水仮説の提唱」がPrecambrian Researchに掲載されました。
35億年前の地質記録から、現在では酸性のブラックスモーカーとして知られる深海高温熱水が初期太古代ではアルカリ性のホワイトスモーカーだったということが発覚!この新たな仮説の概要については、→こちらをクリック
9月 1日
沖縄トラフ熱水活動域「ちきゅう」掘削孔を利用した潜航調査計画 in NT10-17に関するニュースが発表されました。
この潜航調査計画で主席研究者を務めたのは、プレカンラボの川口慎介ポスドク研究員。いつもの優雅な筆さばきと韻の踏みっぷりで研究の概要や航海レポートを綴っています。リンクは →こちら

長谷寺の大仏像の前で

報国寺の竹林にて

竹林を散策してからみんなでお抹茶をいただきました
ページ先頭へ戻る
1月1日
新年、あけましておめでとうございます

2009


中村謙太郎研究員による受賞講演の様子
Go to TOP
プレカンブリアンエコシステムラボで構築された「実験室内で500°C、600気圧で深海熱水生成反応を再現するシステム」によって、太古代の岩石、コマチアイトから水素が生成されることを示した吉崎もと子研究生の論文がGeochemical Journalに掲載されました。

Yoshizaki, M., Shibuya, T., Suzuki, K., Shimizu, K., Nakamura, K., Takai, K., Omori, S., & Maruyama, S.
H2 generation by experimental hydrothermal alteration of komatiitic glass at 300°C and 500 bars: A preliminary result from on-going experiment Geochem. J. (Express Letter), (2009) 43:e17-e22.
ページ先頭へ戻る
発表件名「初期の地球を暖めた未知の温室効果ガス、硫化カルボニル:安定同位体を用いて解明」

海洋研究開発機構・プレカンブリアンエコシステムラボ・招聘研究員、 上野雄一郎博士(東京工業大学・グローバルエッジ研究院・助教)らの研究グループは、硫黄安定同位体の解析により、地球初期の大気中に硫化カルボニルと呼ばれるガスが現在の1万倍以上含まれていた事が明らかにした。上野雄一郎博士らの研究グループは大気中で起る光化学反応が質量数の異なる硫黄の存在度を変えることに着目し、その過程をコペンハーゲン大と共同で解析した。これをもとに先カンブリア代の地層に記録された同位体組成を数値実験により再現したところ、地球初期大気は一酸化炭素が二酸化炭素よりも多く、且つ硫化カルボニルが含まれていた事が示された。25億年以前の太陽は現在より20%以上暗かったのにも関わらず、当時の気温はむしろ高かったことが知られている。硫化カルボニルは今まで見過ごされてきたが、二酸化炭素やメタンよりも強力な温室効果を持つため、初期地球の気候を温暖に保つのに重要なガスであったことが初めて示された。生物進化と共に劇的に変化してきた地球大気の変動を理解するうえで極めて重要な研究成果である。

Ueno, Y., Johnson, M.S., Danielache, S. O., Eskebjerg, C., Pandey, P., & Yoshida, N.
Geological sulfur isotopes indicate elevated OCS in the Archean atmosphere, solving faint young sun paradox. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (2009) 106:14784-14789.


東京工業大学・グローバルエッジ研究院・助教(海洋研究開発機構・プレカンブリアンエコシステムラボ・招聘研究員)上野雄一郎博士の談話:
「イオウ元素における質量非依存の分別効果は、地球初期大気組成を考える最も重要な鍵として注目を集めてきました。紫外線レーザーによる実験によって、それは酸素のない大気中で紫外線の光分解で起きる現象であると漠然と信じられてきたわけです。しかし、太陽の光はレーザーのような短波長の光ではなく、そんな都合のいい解釈があるはずがないと信じてきました。現実の地層に埋もれた硫黄同位体の分別効果を説明できる大気物質を徹底的に調べたところ、たった一つだけ見つかったと。それが硫化カルボニルでした。あとは、すべてがうまく説明できました。」

海洋研究開発機構・プレカンブリアンエコシステムラボ・高井研ユニットリーダーの談話:
「さすがは世界の上野雄一郎ですね。これだけすばらしい仕事がNature, Scienceに落とされたというのはちょっと信じられません。初期生物進化においても硫化カルボニル(COS)やメチルメルカプタン(CH3SH)といった有機イオウ化合物の重要性が徐々に分かりつつあり、初期地球大気ー海洋ー生態系をつなぐ物質循環を解明する上で、マイルストーンとなる研究だと思います。」

週刊プレカンスポーツ(民明書房):
「微量成分の大気化学、硫黄の同位体地球科学、プレカンブリアン地質学が高いレベルで融合した価値ある研究。まさにシステム地球科学の醍醐味を凝縮した仕事であると言えよう。硫黄の非質量依存同位体異常が、発見されて今年で10年。この間に蓄積した知見を冷静に精査し、情熱を持って新たなストーリーを紡ぎ出した本研究は、上野雄一郎こそが次代を担う煌めく一等星であることを強く印象づけた。」

ページ先頭へ戻る
Copyright (c) 2007 JAMSTEC. All rights reserved.