海洋研究開発機構(JAMSTEC)では、1993年以来沖ノ鳥島において気象・海象観測を行ってきました。このWeb Pageではこれまで取得した観測データを提供しています。
なお、リアルタイムでのデータ提供は2003年2月で終了し、毎年4月頃に過去1年分の新データが追加・提供されます。


1. 沖ノ鳥島の地理

沖ノ鳥島は東京都小笠原村に属する日本最南端の小島で、都心からは1,700km 以上離れています。他の島々からも数 100km 以上離れている絶海の孤島であるため、わが国の排他的経済水域の設定に重要な位置を占める島となっています。また、ここで観測されたデータは人為的な影響をほとんど受けておらず、大気や海洋の変動を知る上で貴重なものとなります。

2. JAMSTECによる沖ノ鳥島観測

JAMSTECでは沖ノ鳥島に気象、海象自動観測システムを設置し、 1993年以来観測データを取得しています。2003年2月までは通信衛星システムを利用して準リアルタイムで観測データを得ていましたが、現在では年1回(2月頃)定期的に観測機器のメンテナンスとデータの回収を行っています。(観測システムについての詳細

-月平均海面水温の経年変化-

上図は1987年〜2000年に沖ノ鳥島で観測された水温の変化を示しています。JAMSTEC による観測データは1996年以降であり、それ以前は海上保安庁水路部(現;海洋情報部)のデータ( gray line ) によるものです。またCOADS データから、沖ノ鳥島周辺の 2 度格子に含まれる値を抽出、平均した値( blue line )と、1995,1996 年の建設省(現;国土交通省)による観測データ( red line )も表示しています。(図の拡大)

3. 日本の気候と沖ノ鳥島

3.1 年によって違う海面水温の季節変化

この図では各年の水温季節変化を比較しています。沖ノ鳥島における水温の昇温期は 3 月〜 6 月ですが、年によって昇温の時期にずれがあります。これは水温の変化をもたらすものとして、最も基本的で規則的な太陽高度の季節変化の外に、南太平洋の表層に拡がる高温水の移動や、海上を吹く風が影響しているためと考えられます。これらは結果として、その年において日本が暑い夏を迎えるか、あるいは冷夏のおそれがあるかにも関連が深いと考えられます。

1993年は他の年に比べて水温上昇が遅く、高温水の北上が遅かったことを伺わせます。この年、日本は記録的な冷夏となっ ています。 (図の拡大)


3.2 冬の終りと昇温の開始

沖ノ鳥島の冬は、北東の季節風によって気温が下がります。この季節風は 3 月ころに収まり徐々に昇温期を迎えますが、年によって非常にはっきりとした交代を示すことがあります。下図の気温変化だけを見ても、1994年には 4月1 日、1998年には 3月18日を境に明らかな違いが現われており、季節風の終息を示してると考えられます。このような年による違いも、その年の日本の気候との関連が注目される所です。

4. 特徴的な気象と海象

4.1 台風

沖ノ鳥島は日本や日本近海に接近する台風の通り道にあるとも言えます。左図は 1993 年から 1998 年の 6 年間に発生した台風の移動経路を示したものです ( 気象庁のデータより作成 )。
この間に 157 の台風が記録されていますが、その内 46 件の台風は沖ノ鳥島から 500km 以内の距離を通過しています。図の赤い線で示された経路がこれに相当します。一般に北緯 10 度付近の太平洋で発生した台風は北西方向に移動し、一部は途中で進路を北東方向に変えて日本付近を通過します。 図によれば、沖ノ鳥島は多くの場合で日本付近に接近する台風の通り道にあることがわかります。台風の性質を調べる意味で沖ノ鳥島の存在と位置は重要です。


このように台風の通り道にある沖ノ鳥島では、台風の眼が通過するようなことも観測されています。台風9713号(1997年8月)や台風9725号(1997年11月)の接近では、台風の眼に伴なう風速低下がデータとして捉えられています。9725号では 49.2m/秒の最大瞬間風速が観測され、1993年以降の記録となっています。また 非常に大型の9713号の場合、最接近時でも中心までの距離が 200km 以上あり、沖ノ鳥島で観測された風の静穏と、台風の二重眼との関連が注目されます。


沖ノ鳥島に接近した主な台風
2005年には幾つかの台風が沖ノ鳥島に最接近しています。9月6日に九州に上陸し日本各地に大きな被害をもたらした台風0514号は、9月3日に沖ノ鳥島を通過した際、最大風速72m/秒を記録しました。観測開始以来例のない強風で、直後に風速計が破損しました。

4.2 大気潮汐

沖ノ鳥島で測定された大気圧の変動には、大気潮汐が明瞭に表われています。 都市化による人為的な影響を受けないデータは、大気潮汐や大気潮汐と海洋潮 汐の関係について、貴重な情報を与えるものと考えられます。(図の拡大)

5. 観測データの取得

JAMSTEC による観測データは本サイトから取得することが可能です。以下に現在取得可能な沖ノ鳥島のデータセットを示します。

種別 観測項目 データ期間 測定間隔
気象観測 平均,最大風速、風向、気温、湿度、気圧、日射量、放射量 1993.4〜1994.2 1時間
1994.2〜2003.2 30分
平均,最大風速、風向、気温 2003.1〜 30分
海象観測 水温、潮位、(クロロフィル量) 1996.2〜2002.2 1時間
水温、潮位 2002.2〜2003.1 1時間
水温 2003.1〜 20分

5.1 JAMSTEC による気象観測

1993年4月から、気象計を用いた自動観測によって 8 項目のデータの取得を開始し、 1997年3月からはアルゴスシステムあるいは通信衛星を経由した準リアルタイムのデータ伝送を行ってきました。2003年からは観測項目を減ずると共に、リアルタイム伝送を中止しました。現在では、風向、風速、気温について観測を続けています。取得データは記録装置に蓄えられ、毎年春季に実施する観測装置のメンテナンス時に回収されます。

5.2 JAMSTEC による海象観測

1996年2月から、水温、潮位、クロロフィル量の自動観測を開始しましたが、2003年からは水温のみの観測となっています。取得データは気象データと同様に毎年のメンテナンス時に回収されます。

5.3 JAMSTEC による船舶海象観測

1995年から2000年の観測装置メンテナンスのための横須賀〜沖ノ鳥島間航海においては、 XCTD、XBT を用いた水温、塩分の定線観測を実施しました。観測データから作成した断面分布図を以下に示しています。

-1997〜2000年に実施した定線観測結果 (断面分布図)-
御蔵島−沖ノ鳥島間XCTD観測データグラフ集(pdf)

5.4 データディレクトリ

テキストファイルの数値がずれて表示される場合は、表示フォントをMSPゴシックに変更してみてください。

  1. 沖ノ鳥島観測データの統計処理結果の経時変化(1993年4月〜2000年2月)
  2. 沖ノ鳥島観測データファイルへのアクセス

参考文献:

1) 中埜岩男, 木邑純一, 藤森英俊, 山本浩文:沖ノ鳥島における海上象観測, 天気,
49, 569-575 (2002)
http://221.243.18.148/tenki/pdf/49_07/p041_047.pdf

2) 中埜岩男,藤森英俊,木邑純一: 沖ノ鳥島における気象・海象観測,
JAMSTECTR, 43, 143-152 (2001)
http://docsrv.godac.jp/MSV2_DATA/23/shiken43_14.pdf

3) 中埜岩男,藤森英俊,木邑純一:沖ノ鳥島で観測した台風9713 号の眼,
JAMSTECTR, 41, 89-94 (2000)
http://docsrv.godac.jp/MSV2_DATA/23/shiken41_09.pdf

4) 鷲尾幸久,宮崎武晃,堀田平,中川賢一郎: 沖ノ鳥島におけるエネルギー自給型自動観測装置の開発,
JAMSTECTR, 27, 101-124(1992)
http://docsrv.godac.jp/MSV2_DATA/23/shiken27_07.pdf

5) 宮崎武晃,堀田平,鷲尾幸久,中川賢一郎: 沖ノ鳥島における海洋自動観測機器の設置について,
JAMSTECTR, 21, 317-337 (1989)
http://docsrv.godac.jp/MSV2_DATA/23/shiken21_20.pdf

問い合わせ先 : rstriton@jamstec.go.jp