クライマックスに向けて

2013/05/20

張 勁(富山大学 理学部)

「よこすか」に乗船するのは12年ぶりです。長いブランクをまったく感じないくらい,運航チームも乗組員の皆さんも暖かく迎えてくれました。初乗船の92年から"船乗り"を職業(研究業務)と決めたのは,陸上ではなかなか出会えない“濃厚な”空気です。同じ釜の飯,同じ湯船の風呂に入って,1ヶ月以上も狭い空間で一緒に過ごせば,家族同然になるでしょう。今回も初対面者が多いのですが,日伯両調査チームのメンバー達はすぐに打ち解けました。二世,三世の日系ブラジリアンもいれば,日本で学位取得された研究者もいます。朝に"ボンジア"(おはようございます)と挨拶を交わし,舌鼓をうつ毎日のランチと夕食を欠かさずカメラに納め,"ごちそうさまでした"と片言の日本語が飛び交います。Pre-dive/Post-dive meetingでの議論はもちろん,採取された岩石や堆積物,海水や各種生物試料をお互いに助けながら船上処理をこなすことも,日々"輪"を育んでいます。

さて,長い航海には荒天は付きもの(ちなみに,船用語には,同音のため"好天"は使いません)。まして, "嵐を呼ぶ男"と名高い主席殿がいらっしゃるとなおさらです。今回の中日まで晴天続きで"汚名返上"かと思ったら,いきなり波高4〜5メートル,容赦なく潜航中止となりました。前日に祭ったブラジルの海の女神「イヤマンジャ様」と,日本の安航の守り神「金比羅様」とが喧嘩でもなさったかと思うくらいです。幸い"整備日"は一日で済みました。この頃から,潜航ごとに「しんかい6500」の観察窓に縁起物として折り鶴の特等席を作ることになりました。

昨日の潜航は「しんかい6500」初デビューの長野由梨子さんでしたが,お土産は彼女の性格そのもので「試料の嵐」でした。嬉しい悲鳴です。ただいま北側の最終潜航の真っ最中で,いよいよクライマックス。明日,再び南側に戻って化学合成生物群集を探索します。第9交響曲を聴きながらダイヴしたい気分です。


写真1:「しんかい6500」の観察窓から覗く折り鶴達


写真2:今日の献立
(鍋ちゃんぽん,チキンワイン蒸し,鮭塩焼き,蛸酢物,マンゴ)