我が潜航に 一片の悔い無し!!!

2013/06/28

宮本 教生(海洋研究開発機構 海洋・極限環境生物圏領域)

(今回は、深海生物を遺伝子レベルまで調べてしまおうという発生進化生物学者の宮本さんによるレポートです。航海終盤に潜航を任された研究者にはいろいろと残り物リクエストが届くようです。それでは「卵は美しい」というタマゴフェチを自認する宮本さんのレポートをどうぞ。)

真夏のカリブ決戦も残すところあと2潜航となりました。これまでの7潜航で様々なサンプルを採取し、研究者の間でも、その分析により大きな成果が得られるという確信が高まっています。

しかし、同時に、まだ足りていないサンプルが顕在化してくるのもこの時期です。チムニーの形状が持ってきた採水口に合わず、うまく採水できなかった熱水。潜航時間の都合上、後回しになったサイト。船上での分析から、もう少し必要になったサンプル。

このような「あった方がいいけど、まぁなくてもなんとかなるな」というサンプルの有無が、あとになってボディブローのように効いてくるのが研究の世界です。取り残しを、いかに少なくするかというが、航海の終盤に非常に重要になります。

8潜航目を任されることになった私のところにも、前日までのミーティングで様々なリクエストが届きました。

「新しい採水口を作ったから、それを使ってあそこの熱水を採ってきてほしい」
「実はまだ採れていない種類のエビがいるんだ」
「あの生物あと数個体必要だからよろしく」
などなど

ふむふむ、残り2潜航あれば十分採れるな。とりあえず自分の潜航で出来る限りのことはしよう。そしてあわよくば、深海エビ、リミカリスたんの卵を採集してやるで!熱水からの微弱な光を感じていると噂されるリミカリスたんの不思議な眼"背上眼"。その起源と機能を明らかとするためには、まさにその背上眼が形成されている発生段階のサンプルがほしいのです。それさえ手に入れば、その形態形成と、そこで発現している遺伝子を解析して、ムフフフフ・・・。

ところが、最後に航海首席1031高井研から
「えーと,大人の事情でフォンダム熱水域に潜るの明日がラストになったから。」

「ファッ!?」

というわけで、急に緊張感が増した「しんかい6500」第1356回潜航はスタートしたわけです。


いってくるでー!と気合十分で「しんかい6500」に乗り込んだ宮本さん。

「しんかい6500」での潜航が2回目というと経験不足の私と一緒に潜航したパイロットは、200回以上の経験を誇る植木さんと、私の初潜航でも一緒に潜った石川さん。

海底に着くまでに、各サイトに費やす時間などの最終確認をして、いよいよ調査開始。これまで3回のフォンダム熱水域での潜航情報をもとに、ドンピシャの位置に「しんかい」を誘導するオペレーションチーム。普段と形状の異なる採水口に苦戦しながらもテキパキと作業をこなしていく植木さんと石川さん。初めての熱水潜航で、チムニーからの迸る熱水に圧倒される私。そんなこんなで作業は順調に進み、なんと浮上まで20分を残して任務完了。その結果、これまでサンプルを採っていなかった熱水周辺の砂泥底からも生物採集が出来るというおまけ付きで潜航が終了しました。


今回一躍ときのエビとなったリミカリスたん (Rimicaris hybisae)。白いのが背上眼。私のターゲットであったこのエビも採集出来たので、後は陸で実験するだけです。

浮上後にサンプル処理をしている各ラボに回ってみると、無事に目的のものが採れていたようで、ホッと胸を撫で下ろしたと同時に、ドッと疲れが出てきました。

このようにして、航海中に30歳の誕生日を迎え、ラオウと同い年になった男の潜航は幕を閉じたのでした。

(他の研究者からのサンプルとってこいやー!というプレッシャーにも負けずに任務完了した宮本さん。今回採取されたサンプルからどんな研究結果がでるのか今から楽しみです。お疲れ様でした。ちなみに、好きな玉子料理はオムレツ(ケチャップで絵を描く派)だそうです。さて、この真夏のカリブ海決戦の潜航も終わりが近づいてきました。研究者のみなさんも、試料の分析や研究レポートの執筆で忙しくなってきたようです。ということで次回のレポートは、う〜ん、誰になるのでしょうか。原稿を追い立ててきます。ではまた。)