はじめての深海ダイブ

2013/10/18

岡本 敦(東北大学大学院 環境科学研究科)

(今航海には初乗船、初「しんかい6500」潜航の方がいます。「初」というのは人生で1度しかありません。せっかくの貴重な体験ですので、今回はそのことを書いていただきました。サイエンスの記述としてではなく、体験記として楽しんでいただければと思います。)

10月17日、わたしは初めて「しんかい6500」にのって深海底調査を体験しました。思えば、半年ほど前に、今回の航海の我々岩石チームのリーダーである道林さんから「そうだ、トンガへ行こう」というよくわからないメールが来て、2つ返事でOKしたのが始まりでした。私はかんらん岩が変質した蛇紋岩を作る実験をしているので、深海底でそういうものが見られたら楽しいだろうなという思いと、なによりも深海に潜ったらどんな気分だろうというわくわくでいっぱいでした。反面、狭い潜水調査船のなかで気分が悪くならないかとか、トイレに行きたくなったらどうしようという不安はありました。なにしろ、航海自体が初めてなので、船の上での生活自体が想像できませんでした。
そうこうしているうちに、乗船する日になって、「よこすか」での生活が始まりました。「よこすか」での生活には思いのほかすぐになじんだのですが、私の「しんかい6500」オペレーションまで2週間あってどうなるんだろうと思いながら日々過ごしていました。岩石チームの「しんかい6500」のダイブは4回計画されていましたが、10月16日の前日の段階で1回しか行われておらず、残り5日で3回のダイブが予定されていました。しかし、海況もだんだん悪くなるという予報で、後甲板で岩石チーム4人で日本酒を手に海の神様にお祈りの儀式をしました(我々だけ酒を飲んで海に捧げないのは良くないんじゃないかとブリッジで見ていた方々から言われましたが)。私自身は、その日は揺れていたこともあって食欲もなく、夜もビールをコップ一杯にして早めに床に就いたのですが、やはりなんとなく落ち着かず、数時間寝ただけですぐに目覚めました。


写真1:「よこすか」後甲板で海の神様にお祈りする道林チーム

朝起きると、潜航できそうだという話になっていました。ただし、海況は悪くなるので、場合によっては、潜ってもすぐに上がってこなければならないかもしれないということでした。「しんかい6500」にのるのはチームの操縦士・千葉さんと副操縦士・石川さんと一緒でした。服を着替えて、梯子を伝って「しんかい6500」にはいると大の男3人ですが、寝転ぶことも出来て、意外に広く感じました。乗るときはけっこう緊張していましたが、2人のいつも通りというやり取りを聞いているうちにだんだん落ち着いてきました。音楽を聴きながら、雑談をしていると着底までの3時間はそれほど長くは感じませんでした。


写真2:海底へ潜航する岡本さんを乗せた「しんかい6500」

海底まで10mくらいになると、泥の上にゴロゴロした黒い岩石が転がっているのが見えました。着底して、マニピュレーターで岩石をサンプリングしてもらうと、つかんでも崩れないほど堅いので、「これはいけるっ」と確信しました。

始まってみると、サンプルを取る場所を決める、採取する岩石を決める、窓からデジカメで写真を撮る、記録用紙に情報を記載するなど大忙しでした。海水温は1.3℃と非常に寒いのですが、潜水服の上着はいらないほどでした。(「しんかい6500」は暖房など付いておらず、水温が耐圧殻内の気温を左右します)およそ50メートル間隔で動いてサンプリングしていったのでしたが、露頭やそれに近いような大きな岩石がゴロゴロしているような産状が続いていて、取る岩石には悩みません。とにかく、いつ浮上命令が来ても後悔しないようにどんどんサンプリングをして、最終的に3時間の海底滞在で28個の岩石を取ることが出来ました。サンプリングしている最中は、これは絶対かんらん岩だとか斑レイ岩だとか言いながら取っていたのですが、後で実際に切ってみると、ほとんど間違っていてやっぱり海の底でちゃんと判別するのは難しいものだと実感しました。ただし、マントルかんらん岩、玄武岩、蛇紋岩などを取ることが出来て目的としていた岩石を採取することができてたいへん満足です。最後に、少し余裕ができて、きれいなイソギンチャクのついた小さな岩石を生物チームへのお土産として採取しました。実は、この岩石は風化していない新鮮なかんらん岩で非常に重要なものだったと後でわかりました。岩石の種類はよくわかっていませんでしたが収穫は絶対あるはずと確信していたので、離底のときは満ち足りた気分でサンドイッチを食べました(ブルーベリージャムが一番おいしかった)。(「しんかい6500」の潜航は約8時間行なうので、お弁当が用意されています。サンドイッチかおにぎりか選べるのです)

再び海面に浮上した時、波が荒くて、船に吊り上げられるまでだいぶ気持ち悪くなりましたが、潜水調査船から最後に出た時は、皆さんが笑顔で待っていてくれて、貢献できてよかったとしみじみ思いました。そして、初潜航の恒例ということで、よくわからないまま、バケツで水を頭からかけられました。ただ、なんか興奮していたせいか、少しも冷たく感じられなくて、すばらしい経験でした。


写真3:「しんかい6500」初潜航の儀式(?)。豪快に水をかけられる岡本さん