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研究履歴



 私はこれまで、地球惑星内部の変動と歴史に関する研究課題に取り組んできた。 その研究アプローチは、(i)マントル・プレートダイナミクスを支配する物理・化学法則や マントル物質の構成則・変形則に基づくモデルを用いて、 マントル対流や地球表層運動の進化の解明を目指す研究、 及び(ii)地質学的・測地学的・地震学的観測結果や物性実験の結果を拘束条件として、 現在や過去のマントルの力学的状態を推定する研究−に大きく分かれる。
 以下は、これまで行ってきた研究の概要である ([]内の番号は査読付き論文の番号と一致)。

1.大陸リソスフェアとマントル対流との熱的・力学的相互作用の解明(1997〜2000年、2008年〜)

 過去の地球上に5〜7億周期で存在していたとされる超大陸、及びその移動サイクルを考慮したマントル対流の 数値シミュレーションを三次元球殻モデルで行った(Yoshida et al., 1999 [1], Honda et al., 2000[2])。 その結果、超大陸がマントルの「蓋」の役割をする熱遮蔽効果(毛布効果)によって、 超大陸下のマントルの温度が上昇し、やがて大陸下から海洋リソスフェア下に向かう流れとその反流によって CMBから大規模なマントル上昇流が数億年の時間スケールで 発生することが明らかになった。 この超大陸下の上昇流の発生により次数1のマントル対流パターンが生まれる(Yoshida et al., 1999 [1])。 上昇流による大陸内の応力場は大陸を分裂させるのに十分な伸張応力場であると考えられる(Yoshida, 2010a[16])。 また、独自に発展させた数値計算手法を用いることにより、 大陸リソスフェアの自発的な変形と移動を考慮した三次元球殻マントル対流モデルを世界に先駆けて構築し、 超大陸サイクルの鍵となる現象(熱遮蔽効果による大陸分裂や数億年後の大陸同士の衝突など)を実現する シミュレーション結果が得られた(Yoshida, 2010b[18])。 さらにこのモデルから、大陸縁辺での低粘性領域(実際の地球では太古代クラトン縁辺の原生代造山帯に相当)の存在が、 地質学的時間スケール(20億年以上)での大陸リソスフェアの安定性に寄与することが分かった(Yoshida, 2011[22])。 以上の計算結果と様々な地質学的証拠から、地球史を通じて大陸移動とマントル対流の間には、 重大な熱的・力学的フィードバックがあることが示唆される(Yoshida and Santosh, 2011 [20])。

2.新しい計算手法を用いた三次元球殻内のマントル対流数値シミュレーションプログラムの開発(2003〜2008年)

 球座標系に沿った緯度経度格子での極の問題(極での座標特異点と、緯度方向の格子間隔の著しい不均一性)を 克服した独自の計算格子(インヤン格子)を用いて、有限差分法による実用的な三次元球殻内マントル対流数値シ ミュレーションプログラムの開発に世界で初めて成功した(Yoshida and Kageyama, 2004; 2006[6,12])。 同時に、これまで世界で開発されている幾つかの有限要素法コードやスペクトル法コードの結果とベンチマークテストを行い、 開発したプログラムの有効性を確認することが出来た。 我々が行ったベンチマークテスト結果は、その後に世界で開発された三次元球殻コードの正確性を 確認するための指標となっている(Zhong et al., 2008)。 さらに、このプログラムによって得られた研究成果は、 海洋研究開発機構におけるコア対流計算の共同研究に対して与えられた「ゴードン・ベル賞」 (ハイパフォーマンス・コンピューティングにおいて世界で最も権威のある賞)の受賞に貢献した[9,10]。 その後に改良された有限体積法・スタッガード格子ベースのプログラム(ConvGS)により、 粘性率の温度・圧力依存性の影響に対して、より安定したマントル対流の数値計算が可能になった(Yoshida, 2008b[14])。 インヤン格子は、Paul Tackley氏によって90年代に開発された著名な マントル対流シミュレーションプログラム(stag3d)にも適用され(Tackley, 2008)、世界的に非常に高い評価を得ている。

3.レオロジーの不均質を考慮した地球及び地球型惑星の内部構造と表層運動の進化のシミュレーション(2005年〜)

 高解像度の数値計算モデルを用いて粘性率が温度に強く依存する場合のマントル対流の数値シミュレーションを行った (Yoshida and Kageyama, 2006 [12])。さらに、粘性率の温度依存性の程度について系統的なパラメータ・スタディを行った結果、 次数1や2が卓越するマントル対流パターンが地球型惑星のマントル対流(火星や金星、あるいはプレートテクトニクスがない場合の地球) の基本構造であることを明らかにした。この基本構造は加熱モード(コアからの加熱のみの場合と内部熱源も考慮した場合) が異なっても発生する。特にレイリー数が高く、中程度の粘性率の温度依存性の場合には、シート状の上昇流と円筒状の下降流で 支配される「逆次数2パターン」のマントル対流構造が得られることが分かった。さらに、粘塑性レオロジー(降伏応力)の導入により、 リソスフェアとマントルの粘性率比が十分にある場合には環太平洋沈み込み帯に似た全球スケールのプレート収束境界が発生し、 地震学的に観測される地球の次数2パターンが実現されることが分かった(Yoshida, 2008b[14])。

4.現在・過去のマントル・プレート内部の力学的状態の解明とCMB地形の推定(1998年〜)

 全球地震波トモグラフィーモデルや、過去1〜2億年の沈み込みスラブの歴史を 考慮したモデルを用いて、現在のマントル内部の定常速度場を計算し、 地球上の代表的なプレートの運動方向や絶対速度の再現を試みて、 プレート運動のトロイダルエネルギーの起源を調べた(Yoshida et al., 2001[3])。 また、新しい計算手法を用いて、マントルやリソスフェア内部の粘性率の水平変化(高粘性スラブや低粘性プレート境界)を考慮し、 観測ジオイドを再現するマントルの粘性率構造の推定 を試みた(Yoshida, 2004a[7]; Yoshida and Nakakuki, 2009[15])。 その結果、沈み込み帯における正の長波長ジオイドを説明するためには、下部マントルの温度依存性の程度(活性化パラメータ)が 上部マントルのそれよりも小さいこと、上部・下部マントルの実効的な粘性率比が1000倍程度であることを推測した。 さらに、全球地震波トモグラフィーモデルと物性実験の結果を考慮した系統的なケーススタディーにより、 CMBの地形の振幅とパターンを推定した。 その結果、近年、地震学的観測で解明されつつある±数km程度の地形の凸凹、 及びアフリカ大陸下の地形の凹み(Tanaka, 2010)を説明するためには、 粘性率の温度依存性とマントル深部の化学組成変化に伴う水平密度変化 (密度が周囲のマントルよりも大きなパイル状のスーパープルームの存在)を考慮する必要があることが 明らかになった(Yoshida, 2008a[13])。

5.南太平洋下のマントルダイナミクス、及びホットスポットプルームの実態解明(2007年〜)

 海洋研究開発機構が日仏共同で実施しているプロジェクト (仏領ポリネシア海底地震観測・上昇プルームの実態解明)(Suetsugu et al., 2009 他)において、 ホットスポットが集中する南太平洋下のマントルダイナミクスの解明を試みた。 高解像度地震波トモグラフィーモデルを用いてマントル内部の定常速度場と 地形(ダイナミックトポグラフィー)を有限体積法モデルで計算した結果、 南太平洋下のマントル上昇流の複雑な振る舞いや、特徴的なテクトニクス (大規模な海底地形の高まりなど)を説明することが出来た。 また、各ホットスポットに対応する上昇プルームが運ぶ熱流量を理論的に推定したところ、 従来の観測結果(ホットスポット・スウェルの体積から推定されるプルーム熱流量)と 非常に良い相関関係が得られた。 これらの結果は地球表層の観測量とその下のマントルの運動の 直接的な関係を示唆するものである(Adam, Yoshida, Isse, Suetsugu, Fukao, and Barruol, 2010[17])。 また、地表面で観測される小スケールの様々な地学現象はマントルの浅い部分(上部マントル)のダイナミクスで 説明可能であるというDon Andersonの議論(Anderson, 2011)に調和的である。

6.マントル遷移層における海洋プレートと海洋地殻の三次元的挙動の解明(2011年〜)

 海洋地殻の振る舞いを考慮した三次元部分球殻領域でのプレート沈み込みの数値シミュレーションを行った。 マントル遷移層がウェットな条件、及び従来のドライな条件を考慮し、二つの条件における地殻とプレートの 振る舞いを比較した。クラペイロン勾配は最近の高圧実験で決定された値(Ohtani and Litasov, 2006)を使い、 さらにウェットな場合、遷移層での含水による地殻(ガーネット)の粘性率の低下(Katayama and Karato, 2008)を考慮した。 その結果、ウェットな条件とドライな条件では、遷移層におけるプレートと地殻の振る舞いの違いが顕著で あることが分かった。 ウェットな条件では、地殻の粘性低下の効果により、プレートがスタグナントしやすく 遷移層での滞留時間も長い(<15Myr)。 また、ウェットな条件では、地殻が流れやすくなり、プレートから分離するが、 ドライな場合では地殻の分離は観察されなかった。 地殻の分離は、上部・下部マントルの粘性率比が大きいほど(例えば100倍)顕著に見られる。 さらに、ウェットな条件では、プレートのセグメンテーションが上部・下部マントルの粘性率比が30倍の場合でも 100倍の場合でも観察されるが、ドライな条件では観察されなかった(Yoshida et al. [23])。 本研究は、地震学、高圧実験、数値シミュレーションが三位一体をなって進められた一例であり、 地球内部ダイナミクスをより統合的に理解する足がかりになる研究として高い評価を得ている。

7.その他の主な個人研究・共同研究(査読付学術雑誌に掲載されたその他の研究)


学会発表・獲得外部資金
報告書等・国際学会アブストラクト

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