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 現在、世界中の多くの研究機関が気候モデルを開発・所有し、地球温暖化予測のプロジェクトに携わっています。 しかしながら、気候の数値シミュレーションを支える技術には、多くの未解決の問題があり、温室効果ガスの増加に 伴う気候の変化の予測には、モデルによって大きなばらつきがあるのが現状です。地球温暖化予測の不確実性を低減 し、より信頼できるものにするために、気候モデルを様々な角度から検証し、改良していくことが必要です。
 本研究チームは、他の研究チームとの連携による、観測データとの比較、モデル実験結果の解析を通じ、気候モデ ルの性能の検証を行っています。また、気候モデルの改良にとってとりわけ重要な、積雲 対流や大気境界層乱流など の「パラメタリゼーション*」の開発と検証、それを進める上で有用な、高解像度モデルを用いたプロセスシミュレー ションを行っています。また、10 年程度先までの気候予測の精度向上のために、「アンサンブル予測*」の「初期値化*」 技術の開発を行っています。これらを有機的に組み合わせることにより、気候モデルの性能の向上と、予測の不確実 性の低減を目指しています。

 

 *これらの用語の意味は、下の説明を参照してください。

 

 

 ◆以下をクリックすると各項目の詳細説明にジャンプします。

パラメタリゼーションの開発

 

高解像度モデルによるプロセスシミュレーション

 

近未来の気候予測のためのアンサンブル予測手法の開発

 

 

 

 

 

 

 


 

パラメタリゼーションの開発

 気候モデルを支える基幹的な技術に「パラメタリゼーション」があります。パラメタリゼーションとは、「モデル が直接解像できない小さなサイズの現象の本質的な過程を抜きとり、数理モデル化することで、その影響をモデルに 取り込むこと」を言います。パラメタリゼーションは、モデルの性能を大きく左右する重要な部分であり、どのよう なパラメタリゼーションを用いるかによって、モデルの振る舞いは大きく変わってきます。
 現在、温暖化予測に用いられている大気モデルの水平格子間隔は100 〜 250km であり、それよりも小さなスケー ルの現象を解像することができません。そのようなスケールの現象の代表的なものに、積雲対流と 大気境界層乱流が あります。これらは、大気中の熱と水の輸送に寄与するほか、雲を形成して日射をさえぎり、陸面・海面の温度に大 きな影響を与えます。このような、雲の表現に関わるパラメタリゼーションが、モデルによる温暖化予測の結果に大 きな不確実性をもたらしていることが知られています。

 

積雲対流パラメタリゼーションの開発

 積雲は、熱帯地域で大量の雨をもたらし、大気を加熱して地球規 模の大気の大循環を駆動します。大きなスケールの大気循環を駆動 する積雲のパラメタリゼーションは、気候モデルの性能にとって、 とりわけ重要であると考えられています。
 最近、本研究チームの千喜良は、積雲の、エントレインメントの表 現を改良した独自の積雲対流パラメタリゼーション* を開発し、全 球の天気に大きな影響を与える、マッデン・ジュリアン振動の再現を はじめ、世界中の気候モデルが長い間共通して抱えていた問題点の 多くを解決することに成功しました。このパラメタリゼーションを 導入した、MIROCの降水表現の性能は、世界のトップレベルに達して います。

 

 

 

*Chikira, M., and M. Sugiyama, 2010: A cumulus parameterization with state-dependent entrainment rate. Part I: Description and sensitivity to temperature and humidity profiles. J. Atmos. Sci., 67, 2171-2193,
doi:10.1175/2010JAS3316.1.

世界中の様々な気候モデルにおける、9〜 11 月の降水量 の表現のスコア。青色はMIROC の旧バージョン(左が高 解像度版、右が低解像度版)。赤色は新しい積雲パラメタ リゼーションを導入した新バージョン。 (1)、(2) は再解析データで3以降がモデルの結果。*印はフラックス調節を 行っているモデル。新バージョンのMIROC はフラックス 調節を行っていないモデルの中では最高の性能を示す。

 

 

 
大気境界層乱流パラメタリゼーションの開発
 大気境界層の上端には、しばしば厚い層状の雲(境界層雲)が形成され、 太陽光を反射して地球を冷却する方向に働きます。温暖化の進行に対する 境界層雲の応答がモデルによって異なることが、現在のところ、将来気候 予測におけるモデル間の温度上昇のばらつきを大きくする主要な原因であ ることがわかっています。温暖化予測の精度を向上させるうえで、大気境 界層乱流パラメタリゼーションの改良は重要です。
 本研究チームは、大気境界層乱流のパラメタリゼーションの開発に取り 組んでいます。大気境界層乱流のパラメタリゼーションの代表的なもの の一つに、Mellor-Yamada スキームがあります。本研究チームの中西は、 境界層を直接解像する高解像モデルの結果に基づいて、様々な点で改良 されたMellor-Yamada スキーム(MYNN スキーム*)を開発し、Mellor- Yamada スキームが抱えていた問題の多くを解決しました。MYNN スキー ムは、国内の気候モデルや気象予報モデルに実装されて実績を上げている ほか、海外のいくつかのモデルでも利用され始めています。
*Nakanishi, M., and H. Niino, 2001: Improvement of the Mellor-Yamada turbulence closure model based on large-eddy simulation data. Bound. Layer Meteor., 99, 349-378. MYNN スキーム導入前(上)と導入後(下)の東 西平均された水蒸気量のバイアス(再解析データか らのずれ)。横軸は緯度で縦軸は高度(圧力で表現。 単位はhPa)。赤は乾燥バイアス、青は湿潤バイアス。 MYNN スキームの導入により大気下層の大きな乾燥 バイアスがなくなる。

 

 

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高解像度モデルによるプロセスシミュレーション
 パラメタリゼーションを構築するには、様々な条件下における現象の挙動や、乱流の微細構造、雲水・雨水の分布 などに関する詳細な情報を知ることが必要です。また、構築されたパラメタリゼーションの計算結果を、様々なケー スについて、現実の現象と比較し、検証することが重要です。しかし、積雲や境界層の大規模な観測は多大な予算と 労力を必要とするほか、入手できる観測データはしばしば断片的であり、パラメタリゼーションの構築に必要な詳細 な情報を得ることは多くの場合非常に困難です。
 そこで、パラメタリゼーションの対象となる現象を直接解像できる高解像度のモデルを用いてシミュレーションを 行うことが有用です。その結果を観測データの代わりに利用することで、様々な条件下を想定した実験を手軽に行う ことができるほか、パラメタリゼーションの構築に必要な、詳細な情報を得ることができます。
本研究チームは、200m 程度の格子間隔を持つ雲解像モデルを用いた積雲対流の実験や、数10m の格子間隔を持 つ渦解像モデルを用いた境界層乱流の実験を行い、パラメタリゼーションの構築と検証に役立てています。

 

水平格子間隔200m の雲解像モデルによる積乱雲のシミュレーション。:雲(雪と降水を含む、白色部分)と降水(緑色線)

 

上図の中央部分の 上昇流(暖色)と下降流(寒色)。一つの積乱雲の内部に、1km 程度のサイズの多数の上昇流領域と下降流領域がみられる。

 






水平格子間隔40m の渦解像モデルによる境界層乱流のシミュレーション。 柿色は上昇流が3 m/s 以上の領域。下面の二次元マップは、高度300 m で の鉛直流で、暖色が上昇流、寒色が下降流。灰色は雲の分布。多角形のセル 状の対流パターンが現れ、その頂点付近から出る強い上昇流が境界層上端ま で達している。その先端には雲が発生している。

 

 

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近未来の気候予測のためのアンサンブル予測手法の開発
 気候モデルによる20 世紀の気候(大気・海洋の長時間平均した状態)変動の再現実験の検証を通じて、気候モデ ルを用いて10 年程度先までの気候変化の予測を行うことが、ある程度まで可能であると考えられるようになってき ました。このような近未来の気候予測を行う場合、温室効果ガスの蓄積と、 大気・海洋系の10 年規模の自然変動の 両方の影響を精確に見積もる必要があります。
 近未来の気候を精度よく予測するためには、単に気候モデルの性能さえ良ければよいというものではありません。 天気予報の場合と同じように、計算開始時刻の大気・海洋の状態(初期値)に含まれるわずかな誤差が、予測結果に 思わぬ大きな誤差をもたらすことがあるからです。そこで、近未来の気候予測においては、わずかな差をもつ初期値 をいくつも用意して、同じような予測計算を複数おこないます(アンサンブル予測)。アンサンブル予測をおこなうと、 確率的にもっともおこりやすい気候変化を知ることができるとともに、誤差による不確実性の大きさを知ることがで きます。
 気候モデルの性能を最大限引き出し、精度よくアンサンブル予測をおこなうためには、わずかな差をもつ複数の初 期値を観測データからどのように決めるか(初期値化)がポイントです。本研究チームでは、特に近未来の気候予測 計算に適した初期値を得るために、現在よりも高度化された初期値化システムを開発研究しています。導入を目指し ているアンサンブルカルマンフィルタという手法は、誤差の時間発展のしかたを考慮することが可能であり、また一 旦システムを作成すれば、いろいろな気候モデルへの適用が比較的容易であるという特長をもっています。構築した 初期値化システムを改良した気候モデルに適用することで将来の気候予測研究の発展が期待されます。

 

2005 年後半の大気・海洋の状態をわずかに変えた6 個の初期値を用 いた2015 年までの気候変化予測実験の結果。2005 年に小さかった アンサンブルメンバー間の違い(不確実性の大きさ)が予測時間経過 とともに大きくなってゆくことがわかる。アンサンブル平均値をみる と、初期値化なし予測(従来の地球温暖化予測)に比べて、予測期間 全般に渡って温度が低めにみえるが期間後半は不確実性が大きいこと がわかる。(但し初期値化なしの実験結果にはスムージングをかけて 描画した。)  

 

 

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