氷床の融解に伴う海水準変動予測の精度向上 |
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| 気候変動に伴う海水面の上昇について、IPCC第四次報告書(AR4)ではその要因を第一に海水の熱膨張、次に山岳氷河や氷帽の融解としているが、同時に、南極およびグリーンランド氷床の融解は、氷の流動を考慮すると現在の予測よりも速くなる可能性があるとしている。氷床の流動プロセスは現在の気候モデルでは考慮されていないが、最近の観測では氷床から流出する氷河の大幅な加速が報告されており、その効果は定量的に見積もる必要がある。このニーズに応えて、氷床モデルを用いた海水準変動予測を改善するための国際研究プロジェクトが開始された(SeaRISE、ならびにice2sea)。本研究では、これらのプロジェクトの枠組みに沿って、現在のグリーンランド氷床の再現実験、ならびに将来予測実験を行った。 氷床力学モデルによる予測精度を向上させるためには以下の2点が重要である。第一に、氷の流れの再現性を上げるために、氷床の基盤地形が現実に近い形で表現されていること、第二に、現在の氷床の形状と温度分布をよく再現した初期条件が得られることである。一点目をクリアするために本研究では氷床モデルの高解像度化を行い、10kmグリッドでの実験を可能にした。二点目の初期条件については、最終間氷期〜現在という過去12万5千年の氷期間氷期サイクル一つ分の時間積分を行い、現在のグリーンランド氷床の「初期状態」を求めた(図1)。 この初期条件を用いて、SRES A1Bシナリオに基づいて、予備的な将来予測実験を行った。500年分までの計算結果から、氷床の融解により12cm〜38cmの海水面上昇をもたらすという結果が得られた。また、現在の解像度は、氷床から流出する氷河やice stream(氷床の中で特に高速な流れが生じている氷流)を表現する上ではまだ不足であり、さらなる高解像度化もあわせて進めている。 |
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| 図1:高解像度氷床モデルによる現在のグリーンランド氷床の再現実験 |
| 最終退氷期における北太平洋循環と生物地球化学の応答 |
最終氷期から現在気候への移行期において、北半球で急激な温暖化に伴う氷床融解が起きた(ハインリッヒイベント1)。このとき、融解した大量の淡水が北大西洋に流入し、気候に大きな影響を与えた。 本研究では、 大気海洋結合モデルMIROCと地球システムモデルLOVECLIMを用いてハインリッヒイベント1を 再現する淡水流入実験を行い、北太平洋の海洋循環と酸素の応答を評価した。 北大西洋の淡水流入に伴い、二つのモデルでは、太平洋循環の応答に顕著な違いが見られた(図2)。MIROCでは、北半球の寒冷化によって局所的に深層水形成が起こるが 、 流線関数の変化は見られない。 一方、LOVECLIMでは北太平洋循環が19Svまで強まり、 極域まで輸送される暖かく高塩分の低緯度水が海洋循環をさらに強める正のフィードバックが働いた。 両者のモデルでは、太平洋循環の応答が大きく異なるが、いずれも北太平洋中深層の酸素濃度を増加させ、この結果は地質学的証拠を支持する。 LOVECLIMでは太平洋循環が高酸素の表層水を中深層へ供給するのに対し、MIROCでは太平洋循環だけでなく表層水混合の活発化、深層からの湧昇の弱化、沈降粒子の再無機化の減少が酸素供給に寄与した。 本研究は、JAMSTEC-IPRC Initiative プロジェクトにて実行され、本研究の議論はScienceの論文発表に貢献し、主な研究内容は、Deep Sea Research誌に投稿した。 |
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| 図2 (a) MIROC と(b) LOVECLIMにおける太平洋で東西平均した溶存酸素濃度変化(mmol m-3)。コンターは流線関数(Sv)を示す。 |


