
中期目標
地球環境変動研究
地球温暖化やそれに伴う世界各地での異常気象の発生など、人類にとっての喫緊の課題である地球規模の環境問題が深刻化している。
これらの問題の解決に貢献するため、海洋が大きな役割を果たす地球環境変動について、アジア・太平洋域を中心とした地域での海洋・陸面・大気の観測や地球環境に関する数値モデルの構築といった地球環境変動に係る現象と過程に関する研究を総合的に実施する。特に、地球規模と地域レベルの現象の一体的な把握と予測に関する研究を行う。
国内外の関係機関と連携した地球環境変動研究を実施することで、全球地球観測システム(GEOSS)等国際的な地球観測計画の策定・実施や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書の策定を含めたIPCCにおける地球環境問題の検討に主要な貢献を行う。
中期計画
地球環境変動研究
地球温暖化を含む気候変動の要因を明らかにするための観測や解析、古気候の再現を含む総合的な予測モデルの構築と数値実験を行うことにより、大気、熱・水循環および生態系に与える影響の評価、沿岸海域およびアジア地域における地球環境変動に関する予測精度の向上、一般社会における気候変動への対策等、地球規模での問題の解決や防災・減災に向けた対策に貢献する。また、全球地球観測システム(GEOSS)等国内外の関係機関と連携した地球環境変動研究を行うことにより、国際的な地球観測計画の策定・実施や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)における地球環境問題の検討に貢献する。
このため、本中期目標期間中に以下の研究を実施する。
(イ)海洋環境変動研究
海洋環境の根幹である海洋大循環、海洋生態系、および海洋における物質の輸送過程等との相互関係を中心に、気候変動が海洋環境に与える影響とそれらによる複雑な応答過程を理解することにより、気候変動に対する海洋の役割を明らかにする。これにより、将来の気候変動の予測や対応策の策定に資する。また、全球地球観測システム(GEOSS)等の国際的な観測計画の策定に寄与する情報を提供する。具体的には、
- 研究船の他、各種係留ブイ、自動昇降型漂流ブイ(アルゴフロート)等による海洋観測を太平洋やインド洋を中心に実施することにより、海洋中の溶存二酸化炭素分布や貯熱量、水や物質の輸送過程の変化等を把握する。また、次世代自動昇降型観測ブイの製作に向けて、必要なシステムの検討を行う。これにより、地球規模での海洋大循環と物質循環について、数年から数十年規模の変動を明らかにする。
- 水温、塩分、流向・流速などの物理データ、溶存化学物質、植物プランクトン色素などの生物データ等、異なる時空間スケールを持つ様々なデータを数値モデルを活用して時空間的に矛盾なく統合したデータセット(4次元海洋同化データセット)を作成する。また、4次元海洋データ同化手法の改良と同化データセットの公開を行う。
(ロ)熱帯気候変動研究
様々な時空間スケールを持つ擾乱が現れる太平洋からインド洋にかけての熱帯域で発生する、地球環境変動システムへの影響が大きい大気・海洋の変動である、エルニーニョ現象、インド洋での類似現象であるダイポールモード現象、モンスーン、および大気の主要な変動であるマッデン・ジュリアン振動について、各現象とそれらの相互関係に関する研究を行うことで、全球規模の地球環境変動に関する予測精度の向上等に貢献する。具体的には、
- 観測手法やデータ品質を向上させつつ係留ブイ観測網を整備し、衛星データや数値モデルを活用し、エルニーニョ現象やダイポールモード現象など短期的な気候変動過程を把握する。
- インドネシア・インドシナ半島域を含む西太平洋からインド洋にかけての熱帯域で高精度の海洋・大気・陸域の観測を実施し、海陸の熱容量の違い等に起因する日周期から年変動までのモンスーン水循環をとらえ、その変動メカニズムを明らかにする。また、マッデン・ジュリアン振動について、雲の階層構造、発生・発達メカニズム、およびその影響を解明する。
(ハ)北半球寒冷圏研究
海氷変動や永久凍土の融解など地球温暖化等、気候変動の兆候が現れるとされる北半球の寒冷圏を対象に、海洋−雪氷−大気−陸域の相互作用からなる気候システムの変動と過程を理解し、地球温暖化の寒冷圏への影響を評価する。具体的には、
- 北極海において、海洋地球研究船「みらい」、砕氷船、漂流ブイによる観測など、総合観測研究を行い、北極海域での海洋循環、海洋−海氷−大気相互作用、生物地球化学的応答などの把握および過程の解明を行うとともに、海氷の減少等、気候変動に関わる要因を特定する。
- 定点および測線観測、衛星データの利用やデータの品質管理等を行い、アジア・北極域における雪氷の変動の実態を把握するとともに、その変動メカニズムを解明し、地球温暖化による影響評価の精度を向上させる。
- 多目的複合観測、多地点での現地観測、既存データ解析を実施することを通じて、高緯度水循環の理解に資する陸域での水の貯留・流出過程等を解明する。これらの過程に関するモデルを構築し、過去の環境変動の解析と予測を行うことにより、水循環変動とその過程を解明する。
- 大気循環場や水・熱収支に関し数値的・解析的研究を行うとともに、寒冷圏における海氷・凍土・積雪などの変動に伴う世界各地の異常気象の実態および全球気候システムへの影響を解明する。
(ニ)物質循環研究
古海洋学的なアプローチによる古環境の把握や、炭素循環を中心とした大気・海洋・陸域の物質循環の変動の解明を行う。また、これらの物質循環に影響を与える大気組成変動や、陸域と海洋における生態系の構造と機能の変動を把握する。これにより、地球環境変動に対する適応策・緩和策の策定に貢献する。具体的には、
- 時系列観測の実施や衛星観測との連携などによって、主に西太平洋および東アジア大陸における生態系と物質循環の変動を監視するとともに、その広域分布を明らかにする。
- 陸域・海洋・大気の複合現象、短期・長期的な時空間変動、水・土地・資源利用などの社会経済活動の影響を考慮し、生態学的・生物地球化学的物質循環のメカニズムを解明することにより、全球炭素循環モデルを高度化するとともに、その検証を行う。
- 気候変動に与える影響を予測するため、二酸化炭素・メタン等の排出・吸収量推定の高精度化および全球炭素循環モデルと観測データを用いたデータ同化を行うことにより、炭素収支の年々変動や10 年規模〜100 年規模の変動等の炭素循環の要因を把握する。
- 大気組成変動に関する観測、衛星データ解析、モデル研究などの手法を総合的に用いて、大気組成変動と気候・気象との相互作用を含む大気微量成分の予測システムを構築し、アジアにおける広域的な大気環境変動とその気候に与える影響を解明する。
(ホ)地球温暖化予測研究
これまでに機構が構築してきた全球気候変動予測モデルである「地球システム統合モデル」をもとに、10 年から100 年を超える長期までの全球的気候変動を精度よく予測できるモデルを構築し検証を行う。これにより、長期的な地球温暖化の適応策・緩和策に資する情報提供を行う。具体的には、
- 観測データやシミュレーションによる解析、気候の再現実験などを行い、気候変動過程を明らかにする。
- 「地球システム統合モデル」の全体性能を検証し、基盤モデルである大気海洋結合モデル等の高度化を実施する。また、予測結果の信頼性を向上させるため、アンサンブル予測手法を構築し、予測結果の評価などの長期気候変動予測に関する研究を実施する。1,000 年程度先までの長期気候環境変動予測実験を行うための要素技術(高解像度氷床モデル等)を開発する。
(へ)短期気候変動応用予測研究
人類の社会生活や産業・経済活動に大きな影響を及ぼす極端な現象や異常気象等の自然現象を生み出す要因となる気候変動について、精度の高い数か月から数年規模の予測研究を行うことにより、社会からの要請に応える。また、インド洋・太平洋を中心とするアジア・アフリカ地域などで実証研究を推進し、研究成果の国際展開を行う。具体的には、
- 熱帯気候変動研究等で得られた成果を活用し、数か月から数年規模の気候変動に係る時空間スケールの異なる自然現象を対象とする高解像度予測モデルと地球変動観測データを統合的に活用して、高緯度地域から低緯度地域に亘る極端な現象や異常気象の要因となるエルニーニョ現象、ラニーニャ現象、ダイポールモード現象、黒潮の変動、北極振動等の気候変動や海洋変動のメカニズムおよび相互関係を実証的に再現・解明する。
- 上記の成果を基に、予測精度の向上のためにモデルの高度化を行い、地球規模の高精度な短期気候変動予測を行うとともに、関係諸国や機関と協力し、気候変動予測データの展開および実証研究を行う。
- 沿岸−外洋相互作用、海流変動と大気変動の結合過程などを含む沿岸海洋変動予測に関する研究を行う。
(ト)次世代モデル研究
高精度な気候変動予測を実現するために、超高解像度大気循環モデルや高解像度海洋大循環モデルをもとに、より高精度な先端的モデルを構築し、数値実験を行う。具体的には、
- 従来のモデルの力学・物理過程を高度化した上で、これらのモデルを結合した超高解像度大気海洋大循環結合モデルを構築する。
- モンスーン地域・熱帯・寒冷圏などの多様な地域をカバーできる高精度な陸面の物理過程モデルの導入や、プロセスモデルであるエアロゾル(気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子)・雲粒・雨滴の物理過程、放射過程、サブグリッド対流(格子間隔より小規模な対流)過程、海洋深層水形成過程等の各モデルを高度化する。また、領域気候モデルによるダウンスケール(地域を限定した高解像度計算)技術の改良を行う。
- 超高解像度大気循環モデルによる全球雲降水システムに関する予測可能性についての数値実験を行う。また高解像度海洋大循環モデルによる気候再現性を検証するための数値実験、さらに超高解像度化した大気モデルおよび海洋モデルによる最新の大規模計算機システム上での気候再現実験等を行う。