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地球環境変動領域

トピックス

平成24年12月25日
独立行政法人海洋研究開発機構


大西洋赤道域の新たな気候変動メカニズム

1.概要

大西洋の赤道域には、太平洋のエルニーニョ現象とよく似た「大西洋ニーニョ」と呼ばれる現象があります。数年に一度の頻度で発生する大西洋ニーニョは、これまでエルニーニョと同様のメカニズムで発生していると考えられていました。地球環境変動領域短期気候変動応用予測研究プログラムのインゴ・リヒター(Ingo Richter)研究員らは、観測データや数値シミュレーション結果を詳しく調べ、今まで知られていたものとは異なるメカニズムで発生する経年的な変動現象があることを発見しました。この新たな変動現象は、赤道の北側で海洋表層の水温が通常よりも暖まり、これが赤道域に輸送されることで発生していることが分かりました。さらにこの海水温偏差は、赤道域から1000km以上も離れた熱帯と亜熱帯の境界域における海面水温偏差と関連しており、亜熱帯域を含む広い地域が関わった変動であることが示されました。この成果は、2012年12月16日発行の英国科学誌 Nature Geoscience に掲載されています。

2.研究の背景

大西洋赤道域の平均的な状況は、太平洋の状態とほぼ同じ特徴を持っています。一年を通じて貿易風が東から西へ向かって吹き、海面付近の水温は東よりも西側で高くなっています。数年に一度、貿易風が弱まり、西側の暖水が東へと張り出してくることがあります。これは太平洋ではエルニーニョ現象と呼ばれ、その影響は地球全域に及んでいることが知られています。大西洋で発生する同様の現象は、エルニーニョと同じメカニズムで起こっていると考えられており、「大西洋ニーニョ」と呼ばれています。この大西洋ニーニョに伴う水温偏差はエルニーニョ現象ほど大きくはありませんが、周辺地域への影響は大きく、南アメリカやアフリカの熱帯域で洪水や干ばつを発生させる要因ともなっています。また最近の研究によれば、エルニーニョの発展に対して熱帯大西洋が影響を与えていることも示唆されており、遠く離れた日本付近の気候にも関連している可能性があります。このような大西洋赤道域の変動メカニズムの詳細を知ることは、周辺域の気候のみならず、エルニーニョ予測の精度向上にとっても重要です。

3.研究手法

この研究では、大西洋熱帯域の海面水温と海上風の関係に注目し、観測船などにより得られた観測データおよび数値モデルと観測データを融合させて作成されている再解析データを詳しく解析しました。また、変動のメカニズムの詳細を調べるため、地球シミュレータを使った高解像度海洋大循環モデルの結果も合わせて用いました。

4.結果

赤道域の海面水温と海上風の関係を調べたところ、大西洋では太平洋に比べて両者の結びつきが弱く、大西洋の東部赤道域が暖まる時に貿易風が普段よりも強くなっている場合があることが分かりました。貿易風が強くなると東部赤道域の水温が下がるエルニーニョ現象のメカニズムとは矛盾した結果です。
この原因を探るために高解像度海洋モデルの結果を調べたところ、上記のような場合には赤道の北側、北緯5度付近の亜表層を中心として、普段よりも暖かい海水が存在していることが分かりました。この暖水が海洋内部の流れによって赤道に向かって輸送され、赤道付近で暖まる傾向をもたらしていることが分かりました(図1)。赤道の北側にある暖かい海域は直上の海面付近の風の偏差によって励起されており、この風はさらにその北側、北緯10度から北緯20度の熱帯と亜熱帯の境界域での海面水温と結びついていることが分かりました(図2)。亜熱帯域の海面水温偏差は赤道域の変動とは直接関連せずに、長期間継続する傾向があります。私たちの研究から、亜熱帯域の変動が大気と海洋の変動の連鎖を通じて、赤道域で発生する大西洋ニーニョに影響を与えていることを示しています。

5.今後の展望

季節予測のための多くの数値モデルでエルニーニョ現象の予測精度が向上している一方、大西洋ニーニョの予測精度はまだあまり良いとは言えません。しかし最近の研究では、大西洋熱帯域の変動がエルニーニョ現象の発展にも、さらには東アジアのような遠く離れた地域へも影響を与えていることが示唆されており、大西洋ニーニョの的確な予測も重要になっています。私たちの研究成果は、このような大西洋ニーニョに関連した変動メカニズムの理解を促進し、その予測精度の向上に貢献するものと考えています。
さらに今後、同様の赤道域と亜熱帯域のつながりが太平洋やインド洋でも存在するかを調べて行く予定です。

図1

図1: 大西洋ニーニョが発達する北半球の春季における海水温の通常の状況からの偏差の南北断面分布。左図は今回新たに発見された変動モードに伴うもの、右図はこれまで知られていた典型的な大西洋ニーニョの状況。新たな変動モード(左図)では、赤道のすぐ北側の深さ20〜40mの場所に通常よりも暖かい海水があり、そこでの南向きの流れ(左向きの矢印)によって輸送され、赤道域を暖めています。一方、典型的な大西洋ニーニョでは(右図)、貿易風が弱まることにより赤道上で下層の冷たい海水の取り込みも弱まり、赤道上で水温も上昇します(上向き矢印)。

図2

図2:新たな大西洋ニーニョの変動機構の概念図。北緯15度付近を中心とした海域にある暖かい海水温偏差は、その南側で南西風を励起して貿易風を弱めます。これと同時に赤道上では東風が強まり、赤道の北側で東西風の強い南北シアーを形成します(黒矢印)。これらの海上風偏差は海洋表層の流れを収束させるため(青矢印)、表層の暖かい海水が亜表層に押し込まれます。これが南向きの亜表層の流れに乗って赤道付近に運ばれているのです。