コラム

日本国内の林野火災の生起状況


峠 嘉哉
京都大学防災研究所(領域課題4)

掲載日:2023年11月09日
最終更新:2023年11月20日

図1 要因別林野火災件数の年変化
図1 要因別林野火災件数の年変化

 2023年は米国ハワイ州やカナダ等で深刻な林野火災被害が生じました.このような大規模林野火災が世界各地で深刻化しており,気候変動の影響が問題視されています.林野火災は日本国内でも毎年1,000件以上が生じており,2017年岩手県釜石市や2021年栃木県足利市での大規模事例,避難指示が出された事例や居住地に延焼した事例もあります.そこで,先端プログラム領域課題4の水文火災学の研究グループでは,過去に日本で発生した計5万件の林野火災事例について時空間的な特徴を調べました(1995-2020年).

 林野火災には人為的影響が大きく,焼損面積に消火活動の効果が大きい上に,国内の林野火災の98.8%が人間による着火を原因としています(1.2%は雷).国内の林野火災の発生件数は減少傾向にあり,要因別にみると人為起源が減少傾向,雷起因の火災は増減していません(図1).最も減少傾向が大きい要因は煙草です.また,週末では火災件数が平日より約30%増加することも人為的影響が大きいことを示しています.


図2 都道府県別の火災期開始日
図2 都道府県別の火災期開始日
(年間通算日:1月1日からの日数)
図3 都道府県別の年間林野火災件数
図3 都道府県別の年間林野火災件数
 

 一方で自然条件の影響も大きいです.例えば季節変化は明瞭で,乾燥する冬季・春季の火災件数・焼損面積は夏季の5~10倍ほどです.「火災期」を「年間で最も林野火災件数が多い連続した3ヶ月」と定めると,その開始日は南部から桜前線のように北上します(図2).林野火災件数の空間分布は太平洋側で多い傾向が見られ(図3),冬季・春季に乾燥しやすい気象条件が影響していると考えられます.その中でも瀬戸内地方で更に多いことは,総降水量が比較的少ないことが原因と考えられます.

 先端プログラム領域課題4の水文火災学の研究グループでは,特に自然条件に着目して気候変動を踏まえた検討を国内外で進めています.水は火災の拡大を防ぐ働きをするので,森林が乾燥している場合に林野火災は増加・大規模化しやすくなります.森林内の水分は降水・蒸発などの水循環の過程で毎日・毎時間に変化するので,水循環を研究する水文学(すいもんがく)の知見を基に,森林が乾燥する過程や条件を調べています.気候変動により気温の上昇と降水量の変化が予測されています.地表の水分は高温化により蒸発しやすくなり,降水量が減少する地域では更に乾燥化すると予想されます.将来予測のため,数値解析による予測技術の開発を進めています.


ざっくり言うと...

  • 先端プログラム領域課題4の水文火災学の研究グループで過去5万件の日本の林野火災事例を分析
  • 林野火災のほとんど(98.8%)が人の火種から始まる一方、火災への発展や燃え広がりには自然中の水分量が影響
  • 気温が上がって地表からの水分蒸発が増えたり降水量の減少で乾燥が進むことで、気候変動は林野火災の起きやすさに影響する

 課題4では水文学の立場から森林の乾燥を調べ、将来を予測する数値解析の技術を開発しています。

もっと詳しく

本研究成果は,2023年10月にFire Safety Journalに掲載されました.