地球生命工学研究グループ

海底下深部の天然ガス・石炭層環境や泥火山におけるメタンハイドレート環境を中心に、有機物の分解プロセスや地下圏微生物の生態系機能等の実態を解明し、持続的な炭素循環システム(ジオバイオリアクター)の構築・利活用に向けた基盤的・応用工学的研究を行います。

また、JAMSTECが有する地球深部探査船「ちきゅう」や海洋調査機器等を活用し、生態系機能や無機・有機化学反応を利用したエネルギー再生・循環型の二酸化炭素地中隔離法(バイオCCS:Carbon dioxide Capture and Storage)の開発や、海底下微生物が有する有用遺伝子機能の開発、さらに地下生命圏における新しいエネルギー獲得系や微生物代謝系の探索等に関する、地球科学-生命科学を融合した最先端研究を展開します。

バイオCCS構想

地層中への二酸化炭素の回収・貯留技術(CCS)は、二酸化炭素排出量の削減に有効な手段の一つとして国内外で検討が進められています。しかし、海底下深部における二酸化炭素の拡散挙動や、鉱物との反応による地層の物性・間隙水化学組成の変化、生物学的な炭素循環機能への影響等について、科学的な知見は極めて乏しいのが現状です。

地球生命工学グループでは、日本近海をはじめとする西太平洋沿岸の海底堆積物に埋没した古第三紀から上部白亜系の夾炭層(石炭・砂岩互層)に着目し、特に亜炭・褐炭・瀝青炭などの未成熟の石炭層を根源とする生物学的な炭素循環システムの解明や、人工的に地層中に隔離した二酸化炭素を微生物生態系によって天然バイオガス(メタン)に変換する持続的炭素循環系(バイオCCS)に関する研究を展開します。

地球深部探査船「ちきゅう」による大深度ライザー掘削や保圧掘削等により、古第三紀(約3000万年前~5000万年前)の褐炭層や砂岩等のコア試料、メタンハイドレートを含むコア試料などを採取します。また、最新のロギングツールを用いて詳細な孔内検層データを採取し、夾炭層や不整合面を流れる地殻内流体を現場で分析・採取し、大陸沿岸の埋没有機物の熟成プロセスに起因する炭化水素資源循環システムと地下深部生命圏の全体像を明らかにします。

さらに、掘削により得られたコア試料等を用いて、現場の物理化学的模擬環境下における「二酸化炭素-鉱物-生命」相互作用に関する様々な実験室内反応実験を行います。海底下のメタン菌をはじめとする地下微生物群の代謝機能を活用した有機物分解促進条件やメタン生成条件、液体・超臨界二酸化炭素を含む流体の連続コア注入による物性化学特性の変化や地球化学的な反応産物等を検討し、地球システムによる生態系維持機能と人間活動との共存のあり方について、基礎地球科学・地球生命工学の立場から考えていきます。

【右図】地球深部探査船「ちきゅう」によるライザー掘削を活用した科学海洋掘削の実践により、海底下深部の炭素循環や生命活動の実態が解明されるのみならず、持続的な炭素循環システム構築のための基盤的・応用工学的知見の獲得が期待されます。

ライザー掘削

泥火山の実体解明と利活用

世界各地のプレート沈み込み帯や油ガス地帯では、地下深部に由来する粘性・密度の低い泥質流体がガスとともに噴出し、高さ数十メートルから数百メートル規模のマウンドを形成することが知られています。それらは一般に「泥火山」と呼ばれ、日本近海では南海トラフ熊野灘や種子島沖に複数の泥火山の存在が確認されています。泥火山は、地下深部の物質や炭化水素を海底表層に運ぶ「ナチュラルパイプライン」として機能し、地下深部における脱水プロセスや流体移動、断層活動などの動的地質環境場との関連性、炭化水素濃縮メカニズムや地下深部生命の可能性など、多くの科学的に重要な問題を解明する糸口として世界的に注目されています。

地球生命工学研究グループでは、地球深部探査船「ちきゅう」や自律型無人探査機・遠隔無人探査機等を用いた泥火山の分布や内部構造の調査を行い、

1)泥火山の生成メカニズムとレオロジーの解明、
2)泥火山に含まれる天然ガスや深部流体の生成場・発生プロセスの解明、
3)泥火山内部の海底下微生物生態系と炭素循環システムの実態解明、
4)泥火山内部のメタンハイドレートを利用した天然ラボ研究、

等を行います。これらの研究は、地球科学に関する基礎的かつ重要な知見の獲得に繋がるばかりでなく、日本近海の泥火山に含まれる天然ガスをエネルギー資源として利活用するための基礎的な情報を得ることに繋がります。

コア試料

【写真】地球深部探査船「ちきゅう」により南海トラフ熊野灘第五泥火山から掘削されたコア試料。(A) 赤外線温度感知カメラにより、メタンハイドレートの溶解による温度低下が、掘削直後のコア試料に全体的に認められました。(B) コア試料中に含まれるメタンハイドレート塊(白色部分)。泥質のマトリックスに含まれています。