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「しんかい6500」研究航海 YK13-12 レポート

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全ての調査を終了、横須賀港へ

2013/11/17 - 11/30

二人のスイマーから「主索、取り外し」の合図です。「しんかい6500」と「よこすか」を繋ぐロープが外されました。この後、潜航を開始します。
「しんかい6500」の揚収。甲板上にはいつも緊張感があります。
櫻井司令に潜航中の状況や機器の不具合等を報告する植木パイロットと池田コパイロット。
10,000m級フリーフォールカメラシステムの投入作業。船尾の海面にはロープに繋がれた浮力体が一列に並んでいます。
次の調査に備えて回航中にディープトウの点検や整備作業も行います。 機関室内では調査中に止めることの出来ない機械がたくさんあります。3台ある主発電機もその一つで回航中、順番に整備を行っています。 機材の陸揚げを効率よく行うため、回航中に調査で使用した機材をカゴに入れて潜水船格納庫に準備しておきます。 横須賀港に到着しました。
【航海情報】
11月17日
グアム島東方海域向け回航(ポンペイ南南東沖)
11月18日
グアム島東方海域向け回航(ポンペイ西方沖)
11月19日
グアム島東方海域向け回航(グアム東方沖)
調査海域到着後、事前調査
11月20日
「しんかい6500」潜航調査(第1376回)
揚収後、マリアナ海溝チャレンジャー海淵向け回航開始
11月21日
マリアナ海溝チャレンジャー海淵向け回航(グアム南東沖)
船内時刻1時間後進(日本時間+1時間)
11月22日
マリアナ海溝チャレンジャー海淵向け回航(グアム南方沖)
11月23日
マリアナ海溝チャレンジャー海淵到着
事前調査、10,000m級フリーフォールカメラ設置
11月24日
10,000m級フリーフォールカメラ回収
横須賀港向け回航開始
11月25日
横須賀港向け回航(サイパン北西沖)
船長主催バーベキューパーティー、船内時刻1時間後進(日本時間)
11月26日
横須賀港向け回航(硫黄島南方沖)
11月27日
横須賀港向け回航(小笠原西方沖)
11月28日
横須賀港向け回航(サイパン北西沖)
11月29日
横須賀港向け回航(洲崎沖)
横須賀港外、投錨
11月30日
横須賀港入港

『調査の順番と天候』
赤道付近海域での調査を終えて次の海域に向かうのですが、グアム東方海域までは北方向に3日間、マリアナ海溝チャレンジャー海淵までは西方向に5日間の回航日数が必要です。選択する調査海域の海況によっては調査の進捗状況に影響が出るので慎重な判断が必要です。ちょっと前までは、天気図や気象衛星の画像から調査海域の海況を判断していました。現在はそれに加えて船上でもインターネットを使用して気象予報会社などから調査海域内をピンポイントで指定して気象・海象情報を入手することが出来ます。しかし、調査が可能か予報から判断出来るのは2日前くらいです。到着までには近い方の海域でも3日間必要なので、予報が途中で変わる可能性もあります。船長、司令、首席研究員で今後の天候の変化も含めて検討の結果、調査をグアム東方海域、マリアナ海溝チャレンジャー海淵の順に行う事として回航を開始しました。調査海域の到着までの天候は概ね予報通りで特に計画を変更することなくグアム東方海域での「しんかい6500」潜航調査、マリアナ海溝チャレンジャー海淵での10,000m級カメラシステムによる調査を行うことが出来ました。

『今年最後の調査』
11月20日、今年度最後の「しんかい6500」潜航調査をグアム東方海域で行いました。
この場所は9月に行われたYK13-09航海では海況不良のため、潜航調査を断念した場所で、西太平洋深海平原における深海生物、堆積物の調査が主な目的です。当日はうねりが大きく、午後から風が強くなる予報でしたが予定通りに潜航開始しました。下降中はプランクトンの観察や中層の海水を採取しながら水深5,920mの海底に到着。海底は、高低差が殆ど無い文字通り、堆積物が降り積もった泥の平原です。海底の状況を確認した後、ゆっくり航走しながら深海生物や泥の中に生息する生物の痕跡を観察を行い、途中では樹脂製採泥器による堆積物の採取を行いました。
今回の海底のように、平坦な海底を一定の高度を保ちながら航走することは意外に難しく船体の重量と浮量が同じで浮きも沈みもしない状態(中性トリム)に調整しないと航走中に少しずつ高度が変化して、サンプルバスケットと海底が接触して泥を巻き上げたり、高度が高くなり海底が見えなくなったりします。
11月23日、マリアナ海溝チャレンジャー海淵の最深部に10,000m級フリーフォールカメラシステムを設置しました。目的は超深海性ヨコエビの一種「カイコウオオソコエビ」採取です。このヨコエビは体内に有用な新規酵素を持っているのですが、マリアナ海溝にしか生息していません。ヨコエビを採取するためにカメラシステムのフレームには餌をいれたトラップが取り付けてあります。トラップに必要な量のヨコエビが入るには6時間以上、海底に設置する必要があります。カメラシステムが海底に到着するのには片道約3時間かかるので、24日の朝9時に浮上するように設置時間を計算して23日の午後6時にカメラシステムを投入しました。
回収したカメラシステムのトラップには多くの「カイコウオオソコエビ」の採取されていました。

『横須賀港へ回航』
オークランドを出港してから回航中は、船内各部署で入港時に必要な書類の作成、調査中に出来ない機器類の整備、陸揚げする機材の準備を行っていました。
マリアナ海溝チャレンジャー海淵から横須賀港までの距離は約1,460海里、残りの回航も5日間です。日本到着までに事前に準備していた様々な物品をパレットと呼ばれる鉄製のカゴに入れて潜水船格納庫の空いているスペースに陸揚する順番ごとに並べて荷役に備えます。
11月30日、横須賀港に入港しました。「しんかい6500」も中間検査工事のため陸揚げされ潜水船整備場に運ばれます。次に「しんかい6500」が潜航を行うのは検査工事が終了する来年の3月下旬となります。

    11月20日 No.1376DIVE
  • 潜航海域:グアム東方沖海域
  • 観察者:野牧 秀隆(JAMSTEC)
  • 船長:植木 博文
  • 船長補佐:池田 瞳

オークランド出港、赤道付近での潜航調査

2013/11/07 - 11/16

救命艇操練。救命艇前に集合して航海士が点呼。この後、服装点検もあります。
木村一等航海士の消火器の使い方の説明
放水訓練。1本の消火ホースを3人以上で操作します。
空の塩ビ製パイプとサンプルバスケット後部の空間は実験装置回収用スペースです
回収した実験装置で満載のサンプルバスケット。揚収作業中に海面で流されないようにしっかりと左右のマニピュレータで実験装置を押さえています。
【航海情報】
11月7日
オークランド港(ニュージーランド)出港
赤道付近海域向け回航開始
11月8日
赤道付近海域向け回航(ニュージーランド北方沖)
11月9日
赤道付近海域向け回航(バヌアツ南南東沖)
船内時刻1時間後進(日本時間+3時間)
11月10日
赤道付近海域向け回航(バヌアツ南沖)
11月11日
赤道付近海域向け回航(バヌアツ西沖)
救命艇、防火操練。船内時刻1時間後進(日本時間+2時間)
11月12日
赤道付近海域向け回航(バヌアツ北北西沖)
11月13日
赤道付近海域向け回航(ソロモン諸島東沖)
11月14日
赤道付近海域向け回航(ソロモン諸島北東沖)
11月15日
赤道付近海域到着
事前調査
11月16日
「しんかい6500」潜航調査(第1375回)
グアム島東方海域向け回航開始

『オークランド港(ニュージーランド)を出港、赤道付近海域へ回航開始』
オークランド港での特別公開、燃料・清水・食糧の補給を終了し「よこすか」は11月7日に出港しました。この航海が今年の「よこすか」外航行動の最終航海です。オークランド港から赤道付近、グアム島東方、マリアナ海溝チャレンジャー海淵の三つの調査海域を経由して12月1日に「よこすか」の母港である横須賀港に戻ります。赤道付近海域で1回、グアム島東方海域で1回、合計2回の「しんかい6500」による潜航調査、マリアナ海溝チャレンジャー海淵では10,000m級フリーフォールカメラシステムによる調査を行います。最初の調査海域である赤道付近海域(北緯1度15分、東経163度15分)までの距離は約2,400海里、到着まではおよそ9日間かかります。この移動距離はオークランド港の緯度が南緯36度36分ですので距離的には東京(北緯35度30分)から赤道までの距離と同じくらいです。

『今回の潜航調査は設置物の回収』
赤道付近海域は、9月のYK13-09航海で潜航調査を行った場所です。ここには数種類の実験装置が水深4,300mの海底に生物の活性を調べるために設置されています(詳細はYK13-09航海レポートをご参照ください)。今回はこれらの実験装置の回収が主目的です。
前回の潜航で実験装置を設置する時に回収に備えて、マーカーブイや発信機の設置、実験装置のマッピングや音響航法装置の補正値の計測など行っています。
11月16日の第1375回潜航。海況は穏やかな潜航日和です。予定通り09時に潜航開始。
「しんかい6500」は順調に下降を続けて海底からの高度約90mで実験装置と一緒に設置した発信機からの信号が受信できました。発信機は正常に作動しているようです。信号を受信しながら「しんかい6500」は最初の目標地点の西側約100mの場所に着底しました。海底の視程は8mで前回と同じです。海底の状況を確認した後、最初の目標のナマコが入っているトラップがある東方向へ航走開始。トラップとマーカーブイを目視とTVカメラで探しながらゆっくり移動します。航走開始から19分後、トラップとマーカーブイが確認できました。研究者からはトラップの回収はナマコの生活の痕跡を乱さないようにと指示があるので慎重に作業を行います。初めにマニピュレータでトラップを回収してサンプルバスケットに収納、次に中にいたナマコをスラープガンで静かに吸引して採取します。最後にナマコが生活していた場所の泥を樹脂製採泥器で採取してここでの作業は完了です。次の作業は現場培養器の捜索と回収です。現場培養器が設置してある200mほど東の地点へ向けてゆっくり航走しながら目視とTVカメラでマーカーブイの捜索を行います。こちらも約13分後にはマーカーブイを確認出来ました。ここには2個の箱型現場培養器と、8本の樹脂製円筒型現場培養器が設置してあります。現場培養器の回収作業もタイプ別に研究者から指示があります。円筒型培養器は上部に水交換用の穴が開いているので片方のマニピュレータで現場培養器の上部を掴み動かないように固定しながらもう片方のマニピュレータで蓋を止めているピンを引抜き蓋を閉じてから専用の塩ビケースに収容しました。箱型現場培養器も蓋が開いた状態で設置されています。こちらは箱を設置した状態で内部の泥を樹脂製採泥器で採取してから箱を回収しサンプルバスケットに収容しました。
回収作業終了後は、生物の採取をしながら主蓄電池が予定の放電量となるまで海底観察を行なった後、離底しました。浮上した海面も穏やかで揚収作業中に回収した実験装置を流失する事も無く、研究者チームに大切な試料を無事にお渡しすることができました。

『操練』
航海中は「操練」と呼ばれる訓練が行われる事があります。操練には、いろいろな種類がありますが、今回は救命艇操練と防火操練が11月11日に行われました。
救命艇操練は、火災や浸水等が船上で発生した場合に船から逃げる訓練です。各船室には総端艇部署表と呼ばれる避難する時に自分が乗る救命艇の番号、任務、持ち物が書かれた表が配られています。船内に警報が鳴り、放送が流れると当直者を除く全員がこの表のとおりに集合場所(自分が乗る救命艇の前)に集まります。集合場所では各艇ごとに航海士が点呼をとり、人数を確認します。訓練ですから実際に救命艇で洋上に脱出はしませんが服装や持ち物、洋上避難時の注意点について説明が行われます。
防火操練は火災訓練です。陸上と違い海の上では、消防署に電話をかけても消防車は来てくれません。火事が起きたら自分達で火を消せなければ救命艇で洋上に避難です。操練では最初に一等航海士より「船内で火災を発見したら、まず大声で火事だ~と周囲に知らせます。次に近くにある消火器で初期消火を行いますが…」のように船内で火災を見つけた際の対応の方法の説明があります。その後、「よこすか」の消火設備を使用した放水訓練が行われます。

    11月16日 No.1375DIVE
  • 潜航海域:赤道付近海域
  • 観察者:宮本 教生(JAMSTEC)
  • 船長:飯嶋 一樹
  • 船長補佐:片桐 昌弥