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「しんかい6500」完成25周年記念、深海ライブ中継 YK15-05 レポート

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「しんかい6500」完成25周年記念、深海ライブ中継

2015/4/17 - 19

JAMSTEC横浜研究所との衛星通信の最終確認。
潜水船格納庫での収録。
作業開始のミーティング。
那覇から乗船してきた運航チームの新人(左側2名)の研修。
スイマーと水中カメラマンが作業艇で発進。
「しんかい6500」乗船前の記念撮影。
スイマー作業の映像を撮影。 「よこすか」のマルチビーム音響測深器で熱水噴出孔の上を通ると噴出する熱水が海底から立ち上る煙のように見えます(画面中央やや左部分)。 横浜研究所へ潜航終了後のご挨拶をする観察者とパイロット。
【航海情報】
4月17日
那覇港、出港
中部沖縄トラフ向け回航
4月18日
「しんかい6500」調査潜航(第1422回)
潜航終了後、那覇港向け回航
4月19日
那覇港、入港

『完成25周年記念潜航』
この航海は有人潜水調査船「しんかい6500」完成25周年を記念して、大深度有人潜水調査船による研究活動を広く国民の皆様に知っていただくことを目的に潜航調査を行いました。また、この潜航調査ではJAMSTEC全面協力で制作される「深海」の科学研究を舞台にした海洋ロマンを描いたWOWOW連続ドラマ「海に降る」(2015年秋に放送予定)のドラマ本編で使用する予定の映像の撮影も同時に行なわれました。
潜航場所に選ばれたのは中部沖縄トラフで、昨年発見されたばかりの「Sakai Field」です。これから本格的に調査が行われる熱水噴出域で「しんかい6500」の潜航調査を行い、海底から母船に送られてくる、熱水噴出孔やその周辺で行う採泥、採水、生物採取などの海底調査の映像や「よこすか」船上の様子を、洋上から通信衛星を経由してインターネットでライブ中継しました。

『ライブ中継』
4月17日、12時に研究者とドラマ撮影班が乗船し、13時に「よこすか」は那覇新港を出港、船上ではドラマ撮影班が3台の4Kカメラを配置し甲板作業や出港風景、岸壁では、陸上班が遠ざかる「よこすか」などの撮影を行なっていました。那覇港から、潜航海域までの距離は約150kmです。那覇からの乗船者は出港後すぐに、一等航海士と電子長から安全教育と船内生活について説明を受けました。その後、ドラマ撮影班による船内各部や「しんかい6500」に乗船する研究者に行われるブリーフィングや潜航打ち合わせなどの撮影が行われました。
17時からはJAMSTEC横浜研究所(以後、横浜研究所)と「よこすか」船上に設置された中継局で最後の衛星通信状況の確認を行ないライブ中継の準備を完了しました。
ライブ中継本番の4月18日の天候は曇り。南風、風力5。若干、風が強かったのですが海況が悪化する兆候も無く、首席研究者、船長、司令の協議により第1422潜航の開始が決定されました。
今回の潜航は潜入シーンの水中撮影を行うため、普段より20分早い8時50分に「スイマースタンバイ」の号令がかかり、準備作業が開始されました。9時30分、潜航前の最終打ち合わせを終えた、パイロットと観察者が「しんかい6500」に乗船しました。10時過ぎに海面に着水した「しんかい6500」からは、「よこすか」と繋ぐ全てのロープが取外されました。海面で潜入シーンを撮影する水中カメラマンや船上のドラマ撮影班に見送られて10時22分に「しんかい6500」は母船からの号令により潜航を開始しました。
順調に下降し、海底に近づいた「しんかい6500」からは、音響画像伝送(*1)による映像が送信されてきました。11時からは横浜研究所と「よこすか」船上を衛星通信で繋いだ、中継が始まりました。11時10分に着底報告を行った「しんかい6500」は、海底の映像を「よこすか」に送信しながら、研究者と打ち合わせた計画に沿って調査を開始しました。
最初の目標は、着底地点付近にある変色域です。ここでは、変色域内側の温度計測と採泥による試料採取を行いました。13時からは、ドラマなどに使用する海底の映像を収録するための航走を開始し、移動の途中で確認される生物やチムニー(熱水噴出孔)などで撮影を行いながら14時ごろ、最終目標の熱水噴出域に到着しました。
最終目標の熱水噴出域にあるチムニーは五重塔のような形で、下から見上げると各層の庇の裏側に溜まった熱水が鏡のように輝いて見える、とても幻想的なチムニーです。このチムニーでは庇の裏側に溜まった熱水の採取や生物採取などの作業と映像の撮影を行い、全ての調査を終えた「しんかい6500」は、16時25分に離底、上昇を開始しました。
約9時間に及ぶライブ中継も、戻ってきた観察者とパイロットの挨拶を持って終了とし、「よこすか」は那覇港に向けて回航を開始しました。
    4月18日 No.1422DIVE
  • 潜航海域:中部沖縄トラフ Sakai Field
  • 観察者:山本 剛義(ドリマックス・テレビジョン)
  • 船長:松本 恵太
  • 船長補佐:田山 雄大

佐々木 義高(運航チーム副司令)

音響画像伝送装置とは
今回のライブ中継では「しんかい6500」が海底のTV映像を音響画像伝送装置により母船「よこすか」に送信し、その映像を静止画として中継しました。

音響画像伝送

この音響画像伝送装置はJAMSTECが世界に先駆けて開発・実用化したシステムでカラー画像を音波に変えて遠くへ送信する装置です。この装置の登場で、これまでは水中通話機による音声通信でしか確認できなかった潜航調査中の様子がカラー画像でも確認できるようになり、調査方法にも大きな影響を与えました。現在でもこのシステムを搭載しているのは「しんかい6500」だけです。
その仕組みを簡単に説明すると、潜水船がTVカメラで撮影した映像信号の1コマを静止画として圧縮、デジタル変換して位相偏移変調をかけた音響信号として送信します。母船側では受信した音響信号を逆の手順で変換して画像に戻します。
ただし、音波は電波と違って帯域が狭いため大容量のデータを伝送することにできないので1枚の画像を送信するのに約8秒かかります。また、受信する音響信号に他の音響信号や雑音で乱れがあると全部の信号が完全に変換できない場合があり、写真の右側のように画像にモザイクがかかって表示されます。