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「しんかい6500」調査潜航 YK18-E02航海 レポート

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YK18-E02調査潜航

2018/10/15 - 10/28

『別府港での一般公開』
別府港一般公開
写真1:別府港一般公開
一般公開中の支援母船「よこすか」船内の様子。潜水船格納庫は、一般公開2日間とも見学者が途切れることなく大盛況。説明に立つパイロット達に質問が絶えない状況が続きました。

10月12日から14日にかけて大分県別府市の国際観光埠頭において支援母船「よこすか」と有人潜水調査船「しんかい6500」の特別公開および一般公開が実施されました。

10月12日の別府港入港日には、大分市主催関係者の方々や地元小学校の5・6年生による入港式典が開催され、とても温かい歓迎を受けました。この日は、式典参加者やメディア関係者、そして地元の小学生や高校生など計182名への特別公開を実施しました。

10月13日(土)と14日(日)は、両日とも10時から11時までは、事前申込みの方への特別公開と11時から16時までの一般公開を開催しました。両日とも天候に恵まれ、13日は2,780名、14日は3,542名の見学者が、支援母船「よこすか」を訪れ、3日間の合計が、6,504名と大盛況の別府一般公開となりました。

別府港での「しんかい6500」の一般公開は、初めてですが、26年前の平成4年に支援母船「なつしま」と「しんかい2000」が寄港し、今回と同じ別府国際観光埠頭で一般公開を実施しています。今回の見学者の中には、24年前の「しんかい2000」の一般公開にも来られた方がおり、その時から「深海」ファンになったと熱く語っていました。

今回の支援母船「よこすか」そして有人潜水調査船「しんかい6500」の見学に来られた方々にも「深海」ファン、そして海洋調査の意義やJAMSTECの役割を理解してくれる人達が増えることを期待しつつ、3日間開催された別府での公開は、事故や怪我人も無く、無事に終了しました。

『YK18-E02C調査航海』

別府港での一般公開を終えた10月15日から10月28日にかけて「北西太平洋におけるコバルトリッチクラストの生成・成長過程の解明」を目的とした調査を実施しました。

コバルトリッチクラストとは、深海底に存在する鉱物資源のひとつで海底の岩石を被服とするマンガン酸化物の一種です。特にコバルトを多く含むものをコバルトリッチクラストと呼びます。1,000m以深の海山などに存在することは知られていますが、その成因については、よく分かっていませんでした。しかし、ここ数年の調査によりコバルトリッチクラストの成因モデルが提案されました。今回の「しんかい6500」の調査潜航では、この成因モデルを基にこれまでほとんど調査されていない磐城海山の海底環境観察、サンプル採取、MBES(音響測深機)やSBP(地下構造探査機)による海底地形データーを取得し、成因モデルの検証を目的としています。

磐城海山は、福島県いわき沖の東方約380kmに位置する海山です。水深5,400mの裾野から始まり、頂上付近が水深1,700mと高低差は、富士山級の海山です。

ワンマンパイロット潜航スタート ワンマンパイロット潜航スタート
写真2:ワンマンパイロット潜航スタート
本調査航海でワンマンパイロットによる調査運用がスタートしました。耐圧殻内の改修工事や安全性を考慮した運航体制の整備を経ての実現です。YK18-E02航海では、2回のワンマンパイロット潜航を実施しました。何れの写真も向かって左と中央が研究者、向かって右側がパイロット。潜航した研究者からも高評価を頂きました。

別府港を出港し、磐城海山のある調査海域までは3日を要します。この3日間の回航中に研究者のペイロード装置を潜水船へ搭載する作業や、潜航する研究者へ潜航前のブリーフィングを実施します。今回の調査航海では、「しんかい6500」初となるワンマンパイロット(操縦者1名・研究者2名)での運用を計画しているため潜航前のブリーフィングも研究者に実際に潜水船の機器を操作する訓練や緊急時の対応訓練など内容がとても濃いものになっています。調査海域到着の前日には、船内時間を1時間前進させる時刻改正を実施しました。最近話題になっているサマータイムのようなものですが、10月中旬ともなると日本近海では16時半には日没を迎えてしまいます。17時の潜水船浮上時にまだ明るい状態とするための時刻改正です。海域を移動する船の仕事では、経度に合わせて時刻改正することは、当たり前のように実施されています。

10月17日午後に調査海域に到着し、潜航調査のためのMBESによる海底地形調査から開始です。翌日から調査潜航が始まりましたが、短い周期で低気圧や前線の影響を受け、1日ごとに海況が悪化する状況で大変に厳しいオペレーションが続きました。今回は、7回の調査潜航を計画していましたが、5回の調査潜航にとどまり、潜航が中止となった日は、終日「よこすか」による広域地形調査を実施しました。

揚収が完了した潜水船
写真3:揚収が完了した潜水船
10月中旬の潜水船オペレーションは、日没が早いため潜水船の揚収完了時には、周辺が夕日で赤く染まります。「しんかい6500」の白い外皮には、海に沈む夕日が美しく照らし出されています。

しかし、5回の調査潜航でしたが、磐城海山の裾野付近、海山中腹、海山頂上付近と海山の斜面は、一通り海底観察でき、大小様々なクラストを含む岩石試料を多数サンプリングすることができました。また、5回の調査潜航の内、2回のワンマンパイロット潜航を実施したため、7名の研究者が調査で潜ることができました。

今回の様に海況不良が続いて潜航が少なくなった航海では、ワンマンパイロット運用の効果が発揮できたのではないかと考えます。今回の調査結果が、コバルトリッチクラストの成因解明に貢献できることを願って、10月28日JAMSTEC入港を以てYK18-E02航海は終了しました。

JAMSTEC入港の翌日から潜水船整備場において「しんかい6500」の中間検査工事が始まります。

【潜航情報】
    10月18日 No.1525DIVE(ワンマン)
  • 潜航海域:磐城海山
  • 観察者:臼井 朗(高知大学)
  • 観察者:Chong Chen(JAMSTEC)
  • 船長:大西 琢磨
    10月20日 No.1526DIVE
  • 潜航海域:磐城海山
  • 観察者:渡慶次 聡(JAMSTEC)
  • 船長:鈴木 啓吾
  • 船長補佐:斎藤 文誉
    10月22日 No.1527DIVE(ワンマン)
  • 潜航海域:磐城海山
  • 観察者:金子 純二(JAMSTEC)
  • 観察者:北橋 倫(JAMSTEC)
  • 船長:松本 恵太
    10月23日 No.1528DIVE
  • 潜航海域:磐城海山
  • 観察者:臼井 朗(高知大学)
  • 船長:植木 博文
  • 船長補佐:石川 暁久
    10月26日 No.1529DIVE
  • 潜航海域:磐城海山
  • 観察者:眞壁 明子(JAMSTEC)
  • 船長:千葉 和宏
  • 船長補佐:飯島 さつき
【航海情報】
10月15日
研究者14名乗船、別府出港、調査海域向け発航
研究者向け船内安全レクチャ、研究者との調査打合せ
潜航研究者ブリーフィング、8の字航走実施
10月16日
調査海域向け回航、ワンマン用ブリーフィングおよび緊急時訓練
ペイロード機器搭載および作動確認、船内時刻改正(JST+1時間)
10月17日
調査海域到着(磐城海山)、XBT計測、MBES事前調査
MBES広域地形調査及び地球物理探査
10月18日
調査潜航(第1525回)、MBES広域地形調査及び地球物理探査
10月19日
海況不良により調査潜航取り止め、整備作業
終日、MBES広域地形調査及び地球物理探査
10月20日
調査潜航(第1526回)、MBES広域地形調査及び地球物理探査
10月21日
整備作業、MBES広域地形調査及び地球物理探査
10月22日
調査潜航(第1527回)、MBES広域地形調査及び地球物理探査
10月23日
調査潜航(第1528回)、MBES広域地形調査及び地球物理探査
8の字航走実施
10月24日
海況不良により調査潜航取り止め、XBT計測、整備作業
終日、MBES広域地形調査及び地球物理探査
10月25日
海況不良により調査潜航取り止め、整備作業
終日、MBES広域地形調査及び地球物理探査
10月26日
調査潜航(第1529回)、潜水船揚収後、横須賀港向け発航、船内時刻改正(JST±0)
10月27日
JAMSTEC向け回航、潜水船陸揚げ準備
10月28日
機構専用桟橋入港、潜水船陸揚げ
研究機材および採取試料陸揚げ、研究者14名下船

櫻井 利明(運航チーム司令)