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「しんかい6500」調査潜航 YK19-10航海 レポート

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YK19-10調査潜航

2019/08/19 - 08/27

『YK19-10航海レポート』
着水後に潜水船覗窓から撮影
写真1:着水後に潜水船覗窓から撮影
No.1549潜航の研究者チェンさんが、潜水船の覗窓から撮影した母船「よこすか」の船尾。小笠原諸島海域まで南下すると海の透明度が格段に良くなる。15mほど離れた「よこすか」のプロペラも鮮明に見える視界の良さである。

2019年8月19日から8月27日にかけ水曜海山で「しんかい6500」による調査潜航を実施しました。水曜海山は、小笠原諸島の父島から北西約220kmに位置する海底火山です。

水深約1,400mに熱水活動を伴うカルデラ底があり、その周囲を高さ400~500mの外輪山が囲んでいる如何にも火山といった地形をしています。

今回の水曜海山の調査は、「人為的に生物生息域を移転させるための基盤研究」および「海洋科学技術に関わる次世代の人材育成」と2つの目的を持って実施しました。

海底資源開発や生息域環境変化などから特異的に生息する生物群集の絶滅を防ぐ方法のひとつとして人為的生息地移転が考えられます。

今回は、小笠原諸島海域で生息が確認されている化学合成生物の中でも、水曜海山だけに生息が確認されているアルビンガイをターゲットとして実海域で生息域移転の実験を試みました。この研究は、海底資源開発に向けた人為的生息域移転の基盤研究に止まらず、深海化学合成生物が、如何にして生息域を移動・分散しているのかを解明するうえでも重要な研究となります。

水曜海山で4回実施した調査潜航では、アルビンガイの生息域周辺の環境調査・アルビンガイの試料採取・アルビンガイをスチール製の網カゴ2個に採取のうえ、水曜海山の外輪山へ人為的に移設し、一晩放置後、カゴ1個は持ち帰り、もう1個は元の生息地点に戻すなど、様々な実験を実施しました。

これら実験に使用された条件の異なるアルビンガイを個体別に比較することで移設時に受けた水温変化や深度変化に対する影響を分析します。

最終的には、移設の影響を受けた後、また元の生息地点に戻したアルビンガイを1年後に採取して今回の分析結果と比較する計画とのことです。

初潜航者への洗礼
写真2:初潜航者への洗礼
初潜航者には「冷水かけ」の洗礼が待っている。米国の潜水調査船アルビン号のチームが始めた行事だが、「しんかい6500」チームでも恒例の行事となっている。

本調査航海、もう一つの目的は「次世代を担う若手人材の育成」です。

JAMSTECでは、本調査航海に先立ち、海洋研究分野への進路選択の興味喚起や動機付けを図る目的で大学生(学部生)を対象に『深海研究のガチンコファイトを体験せよ!』と題した人材育成プロジェクトへの参加者をJAMSTECホームページで公募しました。

短い公募期間にも関わらず224名もの応募があり、厳正な審査を経て選ばれた7名の学生が、本調査航海に参加しました。

選ばれた学生は、調査航海の3日前から乗船前研修を経て、乗船後は研究支援の業務を行うなど調査船に乗船しなければ体験できない様々な研究や船上作業を実践で学びました。

また学生の内3名は、高井首席研究員の人選により「しんかい6500」の調査潜航にも同乗し、水曜海山のアクティブな熱水噴出活動や化学合成生物群集を肉眼で観察することができました。調査潜航を終えた学生は、初めて経験した深海調査に、しばらく興奮冷めやらぬ様子でした。限られた潜航数なので7名全員に調査潜航の機会を与えられなかったのは、残念です。

今回の『深海研究のガチンコファイト』航海に参加した7名は、皆モチベーションが高く、優秀な学生ばかりで潜水船で潜る3名の人選には、高井首席研究員もさぞかし苦労しただろうと察します。本航海を通して海洋研究分野への興味を抱き、この世界へ進んでくれる人がいれば嬉しい限りですが、他の分野に進んだとしても今回の経験を基に海洋研究の重要性や意義を多方面に発信して頂ければ幸いです。

本YK19-10航海は、良好な天候に恵まれ、計画した調査を余すことなく全て順調に終えることができました。研究者および学生達は、8月27日父島二見港で無事に下船し、帰路につきました。

【潜航情報】
    8月21日 No.1549DIVE
  • 潜航海域:伊豆小笠原 水曜海山 深度1,390m
  • 観察者:Chong Chen(JAMSTEC)
  • 船長:千葉 和宏
  • 船長補佐:鈴木 啓吾
    8月22日 No.1550DIVE(2オブザーバー)
  • 潜航海域:伊豆小笠原 水曜海山 深度1,390m
  • 観察者:高井 研(JAMSTEC)
  • 観察者:大学生(女子)
  • 船長:大西 琢磨
    8月23日 No.1551DIVE(2オブザーバー)
  • 潜航海域:伊豆小笠原 水曜海山 深度1,390m
  • 観察者:渡部 裕美(JAMSTEC)
  • 観察者:大学生(男子)
  • 船長:松本 恵太
    8月25日 No.1552DIVE(2オブザーバー)
  • 潜航海域:伊豆小笠原 水曜海山 深度1,390m
  • 観察者:宮崎 淳一(JAMSTEC)
  • 観察者:大学生(女子)
  • 船長:大西 琢磨
【航海情報】
8月19日
研究者15名乗船、東京港有明出港、調査海域向け発航
8月20日
調査海域向け回航、研究者との打合せ、8の字航走実施
潜航者ブリーフィング、潜航準備作業
8月21日
調査海域到着、XBT計測、MBES事前調査
調査潜航(第1549回)
8月22日
調査潜航(第1550回)
8月23日
調査潜航(第1551回)、広域地形調査海域向け発航
8月24日
整備日、XBT計測、MBES広域地形調査、潜航海域向け発航
8月25日
調査潜航(第1552回)、父島向け発航、8の字航走実施
8月26日
父島向け回航
8月27日
父島二見港内着、研究者14名下船

櫻井 利明(運航チーム司令)