文部科学省が今年度から開始した「気候変動リスク情報創生プログラム(以下、創生プログラム)」の公開シンポジウムにつきましてお知らせします。

「創生プログラム」は「21世紀気候変動予測革新プログラム(平成19年度~平成23年度)」の成果を発展的に継承し、気候変動予測の信頼性を高めるとともに、気候変動リスクの特定や生起確率を評価する技術、気候変動リスクの影響を多角的に評価する技術に関する研究等を推進し、気候変動によって生じる多様なリスクのマネジメントに資する基盤的情報の創出等を目的としています。

今回は創生プログラムの1年目として、その研究概要を紹介するとともに、気候変動リスクに関するいくつかの話題を取り上げます。具体的には、今後避けられない地球温暖化が及ぼす悪影響の回避手段として注目されている気候工学(ジオエンジニアリング)に関する数値実験技術開発の取組、気候の安定化目標と二酸化炭素排出シナリオの検討、地球温暖化・海洋酸性化の海洋生態系への影響などについて紹介します。

本シンポジウムが気候変動のリスクを知る機会となるようプログラムを構成しました。皆様のお越しをお待ちしております。

日時
平成25年2月27日(水)13:30~16:50(開場13:00)
会場
国連大学 ウ・タント国際会議場(会場アクセス
東京都渋谷区神宮前5–53–70
入場料
無料
申込
こちらの登録ページよりお申し込みください。
http://public-sympo2012-sousei.jp/regist.html/
開催支援事務局
海洋研究開発機構 研究支援部 支援第2課 河合
Tel:045-778-5700
E-mail
プログラム
下記参照
講演要旨
下記参照

会場アクセス


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国連大学本部 ウ・タント国際会議場
東京都渋谷区神宮前5–53–70
[Googleマップ]
JR「渋谷駅」より徒歩15分、
地下鉄「表参道駅」B2出口より徒歩8分

プログラム

時間 タイトル スピーカー/所属、役職
13:30-13:35 開会挨拶 文部科学省
13:35-13:50 気候変動リスク情報創生プログラムについて 住 明正
文部科学省技術参与
国立環境研究所 理事
13:50-14:30 地球を冷やすシミュレーション
-「気候人工制御」の現実性検討-
河宮 未知生
海洋研究開発機構 地球環境変動領域
気候変動リスク情報創生プロジェクトチーム
プロジェクトマネージャー
14:30-14:40 質疑応答(10分)
14:40-15:20 将来の気候シナリオと地球温暖化対策の考え方 筒井 純一
電力中央研究所 環境科学研究所
上席研究員
15:20-15:30 質疑応答(10分)
15:30-15:45 休憩(15分)
15:45-16:35 地球温暖化・海洋酸性化が日本沿岸の海洋生態系に及ぼす影響 山中 康裕
北海道大学大学院
地球環境科学研究院 教授
山野 博哉
国立環境研究所 生物・生態系 
環境研究センター 主任研究員
16:35-16:45 質疑応答(10分)
16:45-16:50 閉会挨拶 住 明正
文部科学省技術参与
国立環境研究所 理事

講演要旨

『地球を冷やすシミュレーション -「気候人工制御」の現実性検討-』
河宮 未知生(独立行政法人海洋研究開発機構 地球環境変動領域 気候変動リスク情報創生プロジェクトチーム プロジェクトマネージャー)

地球温暖化が及ぼす悪影響を回避する手段として、「気候工学」(ジオエンジニアリング)という手法が検討されています。上空に微粒子をまいて太陽光を反射させて地球を冷やす、海のプランクトンの光合成を促進してCO2吸収量を増やしてやる、などといった提案がこれまでに出され、真剣に検討されています。「これで温暖化問題はすべて解決」ということになれば嬉しいのですが、自然を大規模に改変するこうした手法は、望ましくない副作用を引き起こしかねません。検討を慎重に進めるために、数値シミュレーション実験による評価が必要です。これまでの実験では、上空への微粒子散布は地球の平均気温は下げるものの、地域によって気温や降水量の変化はまちまちで、温暖化以前の地球の状態に戻るわけではないことなどが示されています。当日の講演ではこうした過去の研究結果に触れながら、創生プログラムで今後計画されている実験の内容などを紹介します。

『将来の気候シナリオと地球温暖化対策の考え方』
筒井 純一(一般財団法人電力中央研究所 環境科学研究所 大気・海洋環境領域 上席研究員)

気候変化の影響を最小限に抑えるための国連の取り組みでは、産業革命前からの温度上昇を、世界平均で2℃以下に安定化する目標が、事実上の国際合意となっています。ただし、この2℃目標を達成するには、CO2などの排出量を大幅に削減する必要があり、社会経済の観点では大変厳しいシナリオであることがわかってきています。この講演では、CO2排出量と温度上昇の関係に基づいて、2℃目標を柔軟に考える手掛かりを説明し、実現可能な削減シナリオの例を提示します。このシナリオは現実的な選択肢ですが、その前提となる気候科学の知見には、依然として多くの不確実性が含まれます。また、近い将来に見込まれる温度上昇に対して、リスク管理も含めた適応策の役割が重要となります。これらの課題については、気候変動リスク情報創生プログラムにおいて、今後有用な成果が得られると期待されます。

『地球温暖化・海洋酸性化が日本沿岸の海洋生態系に及ぼす影響』
山中 康裕(北海道大学大学院 地球環境科学研究院 教授)
山野 博哉(国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 主任研究員)

日本のサンゴ群集が年間最大14kmの速度で北上していることが、Yamano et al. (2011)によって報告されています。この見積もりは、地球温暖化による水温上昇に伴なう生物の生息域の北上速度としては、これまでに報告された中で最も速いものです。また、地球温暖化と並ぶ地球規模的な環境変化である海洋酸性化は、地球温暖化よりもさらに速い速度で生物に大きな影響を与える可能性が示唆されています (Yara et al., 2012)。
現在の日本の海域公園の多くは、景観の良い場所を重視して設置されてきましたが、将来的には、生物多様性や生態系サービスの観点と、気候変動に伴なう変化予測も考慮して設置されることが望ましいものです。また、地球温暖化や海洋酸性化は養殖対象種の養殖適域も変えることになるので、将来的には養殖業やそれに連関する地域産業にも適応策が求められます。本研究は沿岸域における生態系保全と持続可能な社会に向けた取り組みに際して、科学的根拠に基づく客観的かつ定量的な示唆を社会的に提供します。