気候変動リスク情報創生プログラム

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気候変動リスク情報
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PD(プログラム・ディレクター)からのメッセージ

住 明正

文部科学省技術参与
気候変動リスク情報創生プログラム
プログラム・ディレクター
国立環境研究所
理事長
住 明正

  地球温暖化に伴う気候変動が社会に及ぼすリスクに関する情報を作り出すことを目的として、本研究プログラムは平成24年度に始まり、今年で4年目となります。研究は順調に進展しており、リスク情報の提供に関するさまざまな研究成果が着々と生み出されています。このようなリスク情報は、具体的な適応策の設定や実施の中に生かされてこその意味があります。しかし、リスク情報は確率的・統計的な情報ですので、その利用に関しては、その特徴をよく理解して使ってゆく必要があります。そこで、皆さんの理解を促進するために、研究成果の中から皆さんに興味深い話題を選んで提供したいと思っています。

  今年の夏もエルニーニョによる冷夏の可能性が示唆されながらも、猛暑日が何日も続き、豪雨や突風など極端な気象が相次ぎました。毎年、毎年、極端な気象現象が起きています。一般的に、地球温暖化は、このような極端な事象の起こり方を変化させる、と考えられています。それでは、どのように変わるのでしょうか?この点に関しては、コンピュータの能力の向上もあって大きな進展がありました。その最新の結果をお話ししたいと思います。
しかしながら、地球温暖化予測の弱点は、その予測精度にあります。世の中には、多くの気候モデルが存在しますし、いろいろな予測がIPCCに提供されています。しかし、その予測にはバラつきがあります。なぜ、このようなバラつきが出てくるのか、どこに原因があるのかがわかれば、将来の気温の上昇に関して、もっと信頼できる情報の提供を行うことができます。この点についての最近の研究の成果が報告されます。

  さて、気候変動の予測が与えられ、具体的な対応策を取ろうと考えた場合には、まずその影響を評価する必要があります。我々の生活に直結するような影響を評価するためには、十分に細かい空間スケール、時間スケールの情報が必要になります。残念ながら地球全体の気候を計算するモデルでは、それほど細かい情報は得られません。そこで、より細かい情報を導き出すダウンスケーリングという手法が必要になってきます。この手法の特徴など、最近の研究成果をお話ししたいと思います。

  最後に、具体的な影響評価の例をお話ししたいと思います。特に、大陸上での水環境の変化について考えてみたいと思います。豪雨はよく取り上げられますが、時間的にはそれほどながく続きません。一方、渇水や干ばつの場合には、それらは長期簡継続しますし、その影響は人間社会にとっても大きいものがあります。この渇水について最近の成果を紹介したいと思います。

  これらの研究成果は、現実の課題に生かされてこそ価値のあるものです。本講演会の機会を生かして、皆さんの理解を得て、社会の中に生かされていくことを願っています。

講演要旨

地球温暖化は異常気象のリスクを変えているのか?~温暖化の寄与を推定する~

森 正人

東京大学大気海洋研究所
気候システム研究系
特任助教
森 正人

  熱波や大雨などの異常気象は本来、人間活動とは無関係に発生するものですが、その強さや頻度に対する地球温暖化の影響を明らかにすることは、気候変動に伴うリスクの評価や、ひいては異常気象そのものを理解する上で重要な研究課題になっています。例えば今年の夏は東京都心で観測史上もっとも長く猛暑日が続くなど記録的に暑い夏になりました。では、上昇した気温のうち何割が地球温暖化の影響として説明されるのでしょうか?また、温暖化によって猛暑になるリスクがどれくらい上がっていたのでしょうか?実際に観測された気温は様々な因子が複雑に影響しあった結果として現れるため、観測データの解析のみからそのような疑問に答えるのは困難です。そこで、気候モデルというスーパーコンピューター上の仮想地球による大量のシミュレーション結果からそれらの答えに迫る取り組みが行われており、広くアトリビューション研究と呼ばれています。本講演ではアトリビューション研究について、最新の研究成果を交えながら紹介します。

このままだと全世界平均気温は何度上がるのか?:気候感度の話

塩竈秀夫

国立環境研究所
主任研究員
塩竈秀夫

  国際社会は、将来の全世界平均気温の上昇量を2度以下に抑えること(2℃目標)に同意し、そのために各国がどれだけ温室効果ガスの排出量を削減するかに関して協議しています。この温室効果ガス削減策(緩和策)を議論する際に、もっとも基本となる気候変動予測情報が、CO2濃度が産業革命前の2倍になった場合の全世界平均気温上昇量を示す「気候感度」です。気候感度が何℃であるかによって、2℃目標を達成するために必要な緩和策のコストに差が出ます。逆にいうと、同じ緩和策を行ったとき、どれだけ気温が上昇し、どのような気候変動影響が生じるかは、気候感度によって異なります。ところが気候感度の推定値には2倍以上の大きな幅があり、その推定幅を狭めることが強く求められています。本講演では、気候感度に関して、何が分かっていて、何が分かっていないのか、最新の研究情報をご紹介します。

ダウンスケーリング情報をユーザーへどう伝えるか?

高薮 出

気象庁気象研究所
環境・応用気象研究部
部長
高薮 出

  モデルによる温暖化予測情報をどのようにして適応・対策を考えるユーザーに届けて行けばよいのか。ダウンスケーリングとは、このために温暖化予測に通常用いる全球モデルによって得られる粗い情報から、対象地域ごとに詳細な情報を取り出す技術です。 ただし、ユーザーに使える情報を届けるためには、単にこの手法によって地上気温や降水量といった気象要素を地域に落とし込んでいくだけではなく、ユーザーと協力したさらなる翻訳が必要です。本プログラムも後半に入り我々もいよいよこの難問に取り掛かっています。本講演では、健康・農業・水災害といったいろいろな分野へ向けての翻訳の試みの紹介を通じて、本プログラムで我々が行っているダウンスケーリング研究の意義についてお伝えできればと思います。

広域陸面モデリングの最前線~気候変動下の渇水リスクの求め方~

芳村 圭

東京大学大気海洋研究所
気候システム研究系
准教授
芳村 圭

  将来の気候予測に使われている気候モデルにとって、陸面のモデル化はとても重要な要素の一つです。近年、土壌や雪、植生や河川における水や熱の動きをより詳細にモデル化するだけでなく、我々人間自身の活動をも適切にモデル化する必要があるという認識が世界的に広まっています。そういった状況のもと、私たちのグループでは、雪解けや河川氾濫による湿地形成過程や、人間活動、特に農業における灌漑での水の輸送過程などを既存の陸面モデルに組み込んで、温暖化によって陸面ひいては人間社会がどのような影響を受けるのか、その影響によって陸面の自然や人間はどう反応するのか、そしてそれらの反応は大気・海洋にどのような影響を及ぼすか、といったことについて、テーマ間連携を通じて研究しています。本講演では、そういった陸面のモデル開発の最新情報をはじめ、温暖化に伴って大規模な渇水リスクがどのように変化するのか、その際に人間による農業活動があるのとないのとでどうなっていくのか、などについてお話しできればと思います。