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超先鋭研究プログラム

成果

[1999年-2009年]

全地球規模での深海熱水系微生物生態系の解明

20世紀の地球科学最大の発見と言われる1977年の深海熱水活動の発見以来、生命の起源の場とも考えられてきた深海熱水活動は、多くの研究者の興味を惹きつけてきた。しかしながら、何故深海熱水活動において世界規模で異なる微生物や生物の群集組成が熱水域毎に異なり、或いは熱水の周辺の各ゾーンで棲み分けているのかについては、発見から30年以上不明のままであった。JAMSTECシュガープログラムでは、太平洋、大西洋からインド洋に至るまで、世界各地の熱水活動域を探索・制覇し、その微生物生態系の違いを圧倒的な研究力の差を見せつけながら明らかにしてきた。その結果、「熱水が生まれいづる場が異なる命を育む」という地質ー生命相互作用を見出し、その相互作用の源泉となっているのが「熱水に含まれる水素濃度」であるという仮説「水素ワールド」仮説を提唱した。硫化水素やメタンではなく、水素による微生物や生物の群集組成の規制はまさに世界初の概念であり、圧倒的な研究創造力の差の賜である。

Inagaki, F., Kuypers, M. M. M., Tsunogai, U., Ishibashi, J., Nakamura, K., Treude, T., Ohkubo, S., Nakaseama, M., Gena, K., Chiba, H., Hirayama, H., Nunoura, T., Takai, K., Jørgensen, B. B., Horikoshi, K., & Boetius, A. (2006) Microbial community in a sediment-hosted CO2 lake of the southern Okinawa Trough hydrothermal system. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:14164-14169.


JAMSTECシュガープログラムで探索・調査を行ってきた世界の熱水活動域の分布

沖縄トラフ第四与那国海丘熱水活動域の写真。フランジと呼ばれる奇妙な構造の下に二酸化炭素が大量に含まれる熱水が噴出し、まるで沸騰しているように見える。また、熱水中の二酸化炭素濃度が高すぎるため、熱水から分離した二酸化炭素の液滴がブドウ状にかたまったような構造が多数観察された。さらに、熱水から分離した二酸化炭素が、周辺の堆積物中に蓄積され、液体二酸化炭素プールを形成することを明らかにした。

南西太平洋でJAMSTECシュガープログラムが発見したマリナー熱水活動域の写真。アメリカ人研究グループと同時期に調査を行い、先駆けてこの熱水活動を発見した。

JAMSTECシュガープログラムにおいて世界で初めて発見した「青い熱水」ブルースモーカーの写真。沖縄トラフ鳩間海丘の熱水活動域で観察された。当初、マグマ活動との関連性が議論されたが、その後の研究により、超臨界二酸化炭素のレイリー散乱による光のマジックであることがわかりつつある。

全地球規模での熱水微生物生態系の比較から、それぞれの熱水の微生物生態系が地域性ではなく地質学的セッティングの違いで異なることが明らかになり、その結果として詳細な統計学的解析によって、各熱水活動の微生物生態系の生産力が熱水の水素濃度に支配されること、「水素ワールド」仮説が導かれることとなった。