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超先鋭研究プログラム

成果

[2006年]

世界初の大陸縁部海底下堆積物中の機能未知の微生物群集構造の解明

統合深海掘削計画(IODP)では海底下微生物圏の全貌解明を科学計画の柱としている。しかしながら、海底下に存在する微生物のバイオマスに関してすらほとんど知らていない状況であった。シュガープログラムではODP史上初めて行われた「海底下微生物圏掘削航海」に稲垣史生(当時独身)が乗り込み、激しい試料争奪戦を勝ち抜き、海底下微生物群集構造の解析を行った。その結果、海底下に存在する微生物は、表層世界に生息する微生物と遺伝的に全く異なる微生物群から構成されること、またそれらの微生物が機能未知の微生物であることを明らかにした。

Inagaki, F., Nunoura, T., Nakagawa, S., Teske, A., Lever, M., Lauer, A., Suzuki, M., Takai, K., Delwiche, D., Colwell, F. S., Nealson, K. H., Horikoshi, K., D'Hondt, S., & Jørgensen, B.B. (2006) Biogeographical distribution and diversity of microbes in methane hydrate-bearing deep marine sediments on the Pacific Ocean Margin. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:2815-2820.

右図 ODP史上初めて行われた「海底下微生物圏掘削航海」が行われたペルーマージン及びカスカディアマージンの位置とそれぞれ海底下数百メートルの深部から得られたアーキア及びバクテリアの種組成の変化を鉛直的に示したもの。数百メートルに渡ってアーキア及びバクテリア相があまり大きな変動を示さないことがわかる。またそれぞれのアーキア及びバクテリアがどのような系統的特徴を有するか示した系統樹が右図である。海底下で優占する微生物の多くが、これまで表層環境から見つかった微生物と遺伝的に大きく異なることが明らかとなった。すなわち、これは海底下の微生物世界が表層環境とかなりの時間スケールで隔離され得ることを示している。さらにこのような機能未知な海底下微生物が地球規模での物質循環にどのような役割を果たしているかを理解する上で、大きな第1歩となる研究であった。