平成30年度公開シンポジウム「変わりゆく気候と自然災害」

講演

講演1 気候変動適応推進のための気候予測シナリオへの期待

肱岡 靖明
(ひじおか やすあき)

国立環境研究所気候変動適応
センター副センター長

要旨

文部科学省の気候変動適応技術社会実装プログラム(SI-CAT: Social Implementation Program on Climate Change Adaptation Technology)は、2015年から5カ年度で実施されており、日本全国の地方自治体等が行う気候変動対応策の検討・策定に汎用的に生かされるような信頼性の高い近未来の気候変動予測技術や気候変動影響に対する適応策の効果の評価を可能とする技術開発を目指してきた。そのうち、技術開発機関課題③「気候変動の影響評価等技術の開発」では、気候変動の影響評価技術及び気候変動適応策効果評価技術の開発を担当し、自治体レベルにおける気候変動の影響評価や適応策の検討を科学的に支援する技術開発(1㎞程度の解像度で適応策の効果を考慮可能な気候変動影響評価情報の創出)を目指してきた。SI-CATの一課題として技術開発を行うことで得られた気候シナリオを活用する際の知見や課題を報告するとともに、TOUGOUに対する期待を述べる。

プロフィール

2001年3月  東京大学大学院工学系研究科博士課程(都市工学専攻)を修了。博士(工学)
2001年4月  (独)国立環境研究所 社会環境システム研究領域 環境計画研究室研究員
2016年4月より東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境システム学専攻 客員教授併任
現在、(国)国立環境研究所気候変動適応センター 副センター長
IPCC第二作業部会第五次評価報告書第24章(アジア)の統括執筆責任者
IPCC 1.5℃特別報告書第3章代表執筆者

アジア太平洋統合評価モデル(AIM)開発グループに所属し、気候変動影響と適応策評価のためのモデル開発に関する研究に従事

 

講演2 気候変動予測データから描き出す将来の災害リスク~気候変動に適応するために~

竹見 哲也
(たけみ てつや)

京都大学防災研究所 准教授 統合的気候モデル高度化研究プログラム 領域テーマD

要旨

地球温暖化の進行によって、台風や豪雨といった極端な気象現象の激化、そうした極端現象による災害の甚大化が懸念されています。将来の気候変動に伴う自然災害の変化にどう対応していくのかは、社会の大きな課題となっています。気候変動に適応した社会を築く上で、その基礎となる気候変動の予測情報および気候変動により想定されるハザードや災害リスクの精緻な情報が欠かせません。ここでは、高分解能の全球規模や領域規模の気候モデルによって今世紀末の日本の気候がどのように予測されているのか、平成30年7月豪雨など最近の極端現象に地球温暖化がどのように影響を及ぼしたのか、伊勢湾台風などこれまで大災害を引き起こした極端台風が仮に温暖化気候で発生したらどのように変化するのか、そして、地域規模の災害リスクを精緻に把握するための数理モデルの開発の最先端、災害リスクの評価の考え方と実際、さらに大規模アンサンブル気候予測データを活用したリスク評価について、統合プログラムの成果からお話します。

プロフィール

1970年神奈川県生まれ。京都大学大学院理学研究科博士課程修了、博士(理学)。大阪大学大学院工学研究科助手、東京工業大学講師を経て、2007年3月より現職。2001年5月から1年間、米国大気研究センターで客員研究員。研究テーマは、豪雨・台風など暴風雨現象の発現メカニズムとその災害影響、気候変動による気象災害への影響の分析、微細規模の気象現象と大気環境への影響など。最近は、火山噴火時の火山灰の大気拡散の問題もテーマとしている。

 

講演3 気候変動を予測/再現するための地球システムモデルの開発
〜地球システムモデルでは何がわかるのか〜

芳村 圭
(よしむら けい)
東京大学生産技術研究所 教授 統合的気候モデル高度化研究プログラム 領域テーマA

要旨

大気・海洋・陸域でのエネルギー・水循環過程及び生物地球化学過程をシミュレートするものを地球システムモデルと呼ぶ。将来の気候変動をより正しく予測し、ひいてはその影響を緻密に評価するために、日本をはじめ、世界各国で開発が進められてきている。そんな中、統合プログラムにおいて私たちが取り組んでいるのが陸域のモデリングである。従来地球システムモデルにおける陸域は、数ある物理過程パラメタリゼーションの一つとして表現され、大気モデルに従属する形でその開発が進められてきた。しかしながら、地球システムモデルが高度化高解像度化してその精度にますますの信頼性が期待されているなか、本質的に大気よりも格段に不均一な存在である陸を大気と同一の水平解像度で表現することには様々な問題があり、抜本的な改善が必要であった。そのため、陸面過程パラメタリゼーションを陸域モデルとして独立させ、これまでの地球システムモデルでは適切に扱えてこなかった様々な陸での重要な要素、例えば河川、湖沼、積雪、植生、土壌、地下水、人間活動等について、別途個別に研究されている最新の科学的知見をより安易に導入させることのできるフレームワークを構築した。そのような取り組みにより、洪水などの自然ハザードの再現等によるモデルの妥当性検証がより進み、より具体的な気候変動適応策の立案及び実施に資するモデル精度が確保できるようになることが期待される。

プロフィール

2006年に東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻にて博士号を取得後、約4年間カリフォルニア大学スクリプス海洋学研究所で研究員として勤務。 2010年に東京大学大気海洋研究所准教授として赴任、2016年に同大学生産技術研究所に配置換え、2019年より現職。文科省若手研究者賞や気象学会堀内賞等数々の賞を得ている。専門は同位体水文気象学。

 

 

 

パネルディスカッション

気候モデルで得られるデータとその社会での活用等について、パネルディスカッションでは、講演者の3名に加え、東京都市大学の馬場先生をお招きして議論を行います。

パネリスト

    
馬場 健司 (ばば けんし)
東京都市大学環境学部 教授
  • 民間シンクタンクを経て現職。法政大学客員教授、総合地球環境学研究所客員教授も併任。
  • 環境政策論、政策過程論、合意形成論を専門とし、土木学会(環境システム委員会,地球環境委員会),環境科学会,AGUをはじめ各種学会で活動中。
  • 近著にBaba, K. et al eds.: Resilient Policies in Asian Cities; Adaptation to Climate Change and Natural Disaster, 2019, Springer, 馬場他編:水・エネルギー・食料ネクサス, 2018, 近代科学社ほか、国内外で著作・論文多数。
  • 近年の主な研究プロジェクトに、環境省環境研究総合推進費2010年度採択課題(S-8)「温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究」(2010~2014年度)、総合地球環境学研究所基幹研究プロジェクト「アジア環太平洋地域の人間環境安全保障 水・エネルギー・食料ネクサス」(2013~2018年度)、文科省「気候変動適応技術社会実装プログラム(SI-CAT)」(2015~2019年度)等。
    国内外の気候変動適応策について調査を進めるほか、各地で科学と社会の共創を目指した統合型将来シナリオ構築手法を実践中。

 

コーディネーター

木本 昌秀 (きもと まさひで)
統合的気候モデル高度化研究プログラム プログラム・オフィサー
文部科学省技術参与
東京大学 大気海洋研究所 教授