ハルマヘラ渦とミンダナオ渦の観測

概要

太平洋の海洋循環の一部はインドネシア多島海を通るインドネシア通過流としてインド洋へとつながっています。本研究ではインドネシア通過流の入り口付近である西部熱帯太平洋での船舶観測や係留観測からインドネシア通過流へと供給される水塊の形成に重要であるハルマヘラ渦とミンダナオ渦の変動特性を明らかにしました。

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西部熱帯太平洋の海洋循環

Fig04c_1_01熱帯域、特にトライトンブイが展開されている西部熱帯太平洋は複雑な海洋循環になっています(図1)。両半球からそれぞれ性質が異なる海水がこの海域に運ばれてきており、それらの海水はフィリピンのミンダナオ島とニューギニア島の間で出会って、一部は北赤道反流として東太平洋に、残りはインドネシア通過流としてインドネシア多島海の中に運ばれています。このような構造のため、西部熱帯太平洋は「水塊の交差点(Water Mass Crossroad)」と呼ばれています。図1に示された流れの分布については、1990年代の海洋観測により得られた平均的な海面におけるもので、その変動はどうなっているのか、また海面下がどうなっているのかは2000年代に入ってもよくわかっておりませんでした。

また、この海域は世界で最も海面水温が高い暖水域(Warm Water Pool)が存在しています。その暖水域の変動や、暖水域への海水の供給に図1に示されているそれぞれの海流が貢献しているものと考えられます。以上の背景から、海洋研究開発機構では、熱帯赤道域における観測研究(Tropical Ocean Climate Study)というプロジェクトのもと、これらの海流の構造や変動の観測を1993年より行っています。同時に暖水域の変動を調べるために、図1に示された星印の位置にトライトンブイを展開しています。

たとえば、1999年~2002年にかけて、フィリピン共和国ミンダナオ島の南東に(図1の黄色丸印)流速計を係留しました。その観測結果を図2に示します。この図から、ミンダナオ海流は平均流速が水深100mにおいて1.4m/sにも達する非常に強い海流であること、その強い流れは水深400mになるとほとんど無くなること、平均流速に比べ標準偏差が小さいことから安定した海流であることがわかりました。

ハルマヘラ渦とミンダナオ渦

Fig04c_1_02また、この海域には古くからミンダナオ渦とハルマヘラ渦と呼ばれるそれぞれ反時計回り・時計回りの渦がフィリピンのミンダナオ島とニューギニアの間に存在すると言われてきました。それらの渦は漂流ブイによる観測等により海面上においては示されていますが、それ以外のことはほとんどわかっていませんでした。そこで、2011年夏(航海番号MR11-06)と2013年冬(同、MR13-01)に、海洋地球研究船「みらい」を用いてミンダナオ島とニューギニアの間の海洋観測を行いました。それらの航海中における船底に取り付けられている音響式流速計の結果を図3に示します。

図3より時計回りのハルマヘラ渦は両航海において観測されていることがわかります。一方、ミンダナオ渦はMR11-06航海においては表面近く(50m深)に観測されていますが、それ以深およびMR13-01航海においては観測されていません。興味深いのは、両航海においてハルマヘラ渦の位置が大きく違っていることです。夏(MR11-06)においては冬(MR13-01)に比べ、この渦は北西にシフトしています。また、水深50mと水深300mにおいても渦の中心の位置が違っていて、深くなるにつれ北西方向に傾いていることがわかります。

この渦は北半球から温度・塩分の低い海水を、南半球から温度・塩分の高い海水を取り込んでかき混ぜて、そのかき混ぜられた水はインドネシア通過流としてインドネシア多島海内部に流入しています。すなわち、この渦がインドネシア通過流の起源水の決定に重要な役割を持っていることがこれらの観測結果から想定できます。