近年のENSO予測可能性の変化

概要

太平洋赤道域の暖水蓄積量(WWV: Warm Water Volume)の変動と、太平洋赤道域の西部~中央部における大気の季節内変動の活発度(ISV: Intra-Seasonal Variation)は、エルニーニョ/南方振動(ENSO)を予測できる良い指標であることが知られています。WWVとISVを用いたエルニーニョ現象の統計的な予測可能性を調査したところ、2000年以降はENSOの予測が難しくなっていることが分かりました。

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WWVとISVを用いたENSOの統計予測

WWVの変動はENSOの理論的な研究(Jin 1997)で予想された通り、ENSOを2~3季節先行します(図1a)。また、海上風から季節内変動の成分を抽出して作成したISVの変動も同様に、ENSOを2~3季節先行します(図1b)。例えば、過去100年で最大のエルニーニョと言われている1997/1998年冬季のエルニーニョ現象のピーク前を観察すると、WWVとISVの両方が大きな値となっています。ENSOは北半球の冬頃にピークをとるため、その2~3季節前、つまり春頃のWWVやISVの変動を把握することによって、その後のENSOが予測できることが示されています(McPhaden et al. 2006)。

ENSOの予測可能性の変化

Fig04e_1_02このようにENSOの予測に有効なWWVとISVですが、近年のWWVとISVの変動を詳しく観察したところ、その予測可能性が変化していることが分かりました。1980年代と1990年代は春ごろのWWVやISVとその後のENSOとの良い相関関係がありました(図2a)。ところが2000年以降は、この関係が崩れていることが分かりました(図2b)。これは、2000年以降のENSOの統計的な予測が難しくなったことを表しています(Horii et al. 2012)。

なぜENSOの予測可能性が変化したのでしょうか?私たちが推察しているこの原因のひとつは2000年以降のエルニーニョ現象の性質が以前のものと変わっている点です。この2000年代に頻発した「変わったエルニーニョ現象」は、従来のように太平洋熱帯域の東部ではなく中央部で暖かい海面水温が発生するもので、「エルニーニョモドキ」と呼ばれています。このエルニーニョモドキの発達するタイミングやメカニズムが従来のエルニーニョと異なるために、WWVとISVを用いた統計的な予測がうまくいかなくなった可能性があります。

ENSOの性質の変化やその予測可能性の変化は世界中の研究者たちの興味の対象であり、現在数多くの議論がされています。しかし未だ研究者たちの統一した見解は得られていません。何がいま熱帯太平洋で起きているのか見極めるために、21世紀の継続した海洋観測が必要です。

参考文献

Horii, T., I. Ueki, and K. Hanawa (2012), Breakdown of ENSO predictors in the 2000s: Decadal changes of recharge/discharge-SST phase relation and atmospheric intraseasonal forcing, Geophys. Res. Lett., 39, L10707, doi:10.1029/2012GL051740.

Jin, F.-F. (1997), An equatorial ocean recharge paradigm for ENSO. Part I: Conceptual model, J. Atmos. Sci., 54, 811–829.

McPhaden, M. J., X. Zhang, H. H. Hendon, and M. C. Wheeler (2006), Large-scale dynamics and MJO forcing of ENSO variability, Geophys. Res. Lett., 33, L16702, doi:10.1029/2006GL026786.