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AC&C:Atmospheric Chemistry and Climate (大気化学と気候)
−IGBP-IGACとWCRP-SPARCのジョイント・イニシアチブ−

柴田 清孝 (気象研究所)

背景

現在の人為起源による気候変動の強制力は大部分が化学的に活性な物質を通して起っている。気候変動はそれらの化学物質の排出を変化させること、および大気中における化学過程の変化を通すことの両方で、大気の化学組成を変化させる。気候と化学の相互作用の研究は、気候変動において最も重要かつ最も難しい重点分野である。さらに、化学的活性物質は操作による短期的な排出変化にたやすく影響され、それゆえ、主要な政策に関連している。排出の変化そのものは気候変化もしくは気候変動によって引き起こされる。これらの要因は、また、気候と空気質のカップリングの急を要する問題に、科学的および政治的な観点において、密接に関わっている。気候の現在の状態および将来の可能な状態に関して、高品質・政策関連の情報を提供することは、緩和/コントロール/変化/順応のオプションと同様に、この分野の研究の進展に深く関わっている。

さらに、少なくとも2つの主要なアセスメント−世界気象機関(World Meteorological Organization:WMO)のオゾンアセスメントと、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change:IPCC)の気候変動アセスメント−は化学と気候の相互作用の理解をより深めることによって有益なものになるであろう;これら理解の深化は、その結果から得られるより良い情報・政策を通して社会に役立つであろう。成層圏の化学-気候モデルに焦点を当て、最新(2006年)のWMOのオゾンアセスメントに直接に貢献し成層圏過程とその気候における役割研究(Stratospheric Processes And their Role in Climate:SPARC)の化学-気候モデル検証活動(Chemistry-Climate Model Validation Activity:CCMVal)によって重要な進展がなされた。さらなる進展は対流圏の化学-気候モデル研究との結合や対流圏の化学-気候モデルやエーロゾルモデルとの連携研究によって達成されるであろう。次期のIPCCアセスメントは、全球の気候変動だけでなく局地の気候変動にも言及するため、化学的活性物質の濃度や排出に関してより質の良い情報を必要とするであろう。化学-気候モデルにおけるこれら化学的物質の表現を改良すれば全球モデルの気候システムの表現も改善されるであろう。

化学-気候の相互作用の重要性のため、さまざまな研究が既に進行している。モデリングセンターは急速にその達成目標を広げつつある(たとえば、地表面での生物化学過程、対流圏や中層大気での化学過程、これらの過程の気候への影響をモデルに取り入れるようとしている)。地球大気化学国際協同研究計画(International Global Atmospheric Chemistry Programme:IGAC)においては現在まで、主に観測による大気化学の要素と諸過程に焦点を当ててきた。一方、SPARCでは中層大気のモデリングに焦点を当てており野外観測や対流圏には重点を置いてこなかった。SPARCとIGACの運営委員会、およびその上部組織の世界気候研究計画(World Climate Research Programme:WCRP)と地球圏−生物圏国際協同研究計画(International Geosphere-Biosphere Programme:IGBP)は、地球システムモデルの化学-気候相互作用の表現に特別に注目しているSPARCとIGACの両コミュニティが歩調を合わせる努力をすれば、その相乗効果(シナジー)が現れるであろうと確信している。そのような努力は観測コミュニティ(航空機観測やリモートセンシング)からのインプットによってさらに効果的になるであろうし、また将来の観測キャンペーンをどのように最適化するかという判定に役立つであろう。

AC&Cのゴール

大気化学と気候(AC&C)のイニシアチブはWCRPとIGBPの共同作業とし、その設置をSPARCとIGACが主導するプロジェクトとして2006年3月に認証された。最初のAC&Cイニシアチブの立ち上げ会議(2006年8月、米国、コロラド、ボルダー)で基本的な組織、目標の下地が決められた。これを出発点としてAC&Cの活動、より具体的な目標、タイムラインの最初のセットが第1回のAC&Cワークショップ(2007年1月、スイス、ジュネーブ)で設定された。

AC&Cは種々のフェイズで実行され、最初のフェイズは2009年に終了する予定である。その最初であるフェイズIでは主な目標は化学-気候モデルにおける素過程の表現を改善することであるが、その努力は地球システムや領域/全球の空気質(air quality)モデルにおいても有用である。AC&C の役割は、それ自身が独立に存在するというものでなく、調整や協同を行うことである。AC&Cの使命は科学コミュニティが共通の科学的テーマをセットするのを手助けし、その実行を促進することにある。このような調整は新しい活動を作りだすことも含んでいる。他方面への発展としては、既存の諸活動を結びつけたり、それらの目標の方向性に影響したりするものである。例えば、SPARCの化学-気候モデル検証活動(CCMVal)、全球エーロゾルモデル比較(global Aerosol model inter-Comparison, AeroCom)、ヨーロッパACCENT(Atmospheric Composition Change the European Network of Excellence)プロジェクトモデル比較 (European ACCENT project Model Inter-comParison, ACCENT-MIP)、大気汚染物質の半球規模輸送調査委員会(Task Force on Hemispheric Transport of Atmospheric Pollutants, TF HTAP)。CCMValはモデル間の比較と成層圏化学-気候モデルの検証活動、AeroComは全球対流圏エーロゾルモデル間の比較とモデル結果と観測(衛星・ライダー・サンフォトメータ)との比較である。ACCENT-MIPは、対流圏化学-気候モデルの2030年と2000年の気候を対比させて、気候変動がどのように空気質(ただし、気体のみ)に影響を及ぼすかの解明を狙いつつ、IPCCのシナリオとの連携・比較に主眼を置いていた。この活動はさらに発展し、現在では、TF HTAPを凌駕するものになっている。TF HTAPは発生域(source region)から受容域 (receptor region) にいたるまでの気体および粒子状汚染物質とその前駆物質の北半球における輸送の解明と定量化に焦点を当てている。

これらすべての活動やAC&Cの目的には、排出の特性把握(経年変化、不確実性等)が最重要課題である。それ故、IGBP-AIMES GLOBAL Emission Inventory (GEIA) や排出に関わる他の活動もまたAC&Cと関連を持つようになるであろう。

AC&Cの活動

  • 大気化学と気候に関わり複数のプロジェクトの統合/統一が必要な科学的質問を同定
  • 主要な科学的な質問に答えるのに重要であるが未だよく判っていない大気過程の同定
  • 不確実性を評価するのに使うことが出来る共通の診断法の同定
  • 観測がより効果的にモデルに役立つと同時にモデルが観測の計画に役立つようにモデリング コミュニティと観測のコミュニティの協調
  • 共通のモデル出力とデータ形式・ファイル形式の定義への協力、モデル出力や観測のデータ ・ポータルサイトもしくはデータセンターの構築への援助

ジュネーブで開催されたAC&Cの最初のワークショップでCCMVal、AeroCom、ACCENT-MIP、TF HTAP、GEIAの代表者達が挙げたAC&Cイニシアチブの恩恵について以下のような項目がある:

  • 物理システムの相互依存性
    それぞれのプロジェクトの科学は、システム内における異なる要素の相互依存の元で異分野との交流を通じて恩恵を受けるであろう:例えば、対流圏と成層圏の物理的な関係や大気化学におけるエーロゾルと気相の関係。これまで成層圏化学、対流圏化学、対流圏エーロゾルはほとんど別々に研究されてきた。最近、科学やモデルはこれらの分野を一つのシステムとして扱えるほど充分に進歩してきている。
  • 排出インベントリー
    AC&Cのような横断的な活動は排出インベントリーの拡張と詳細な評価を促進するのに使われるであろう。現在の排出インベントリーは、事実上、メタデータ(データに関連する情報)をほとんど有しておらず、また、実際への応用に関してインベントリーの評価を試みようとしていない。GEIAは大気化学と気候に関連する排出インベントリーを精力的に収集している活動である。その他、空気質に関連する排出に絞っての活動(たとえば、TF HTAP内)、将来の排出シナリオを作るための社会経済シナリオのコニュニティからの活動もある。排出データベースの不確実性や調和、メタデータ(インベントリーがどのように得られたか等)の付加、どんな適用が有用かなどの系統的な評価(アセスメント)はこのコミュニティのみならず他のモデルグループやプロセス関連の野外観測コミュニティにとっても非常に有用なものであろう。さらに、モデルグループがこれらのインベントリーを判断する基準を定義するのを手助けすることで、次世代のインベントリーを作る際の方法論に影響を与えうる。
  • モデル出力に対する共通データベースと解析ソフト
    現存するプロジェクト(CCMVal、AeroCom、ACCENT-MIP、TF-HTAP)の中で共通データフォーマットが作られている。しかし、これらのデータフォーマットはプロジェクト間で異なっている場合がある。それゆえ、共通データセンター(たとえ仮想リンクでも)、単一の標準フォーマット、全コミュニティにわたって使える可視化ソフトセット、モデル自信の情報を含む単一のメタデータセットを持つことは非常に有益である。
  • 観測/実験のデータセット
    初期のステップは既存のプロジェクト内でモデル間相互比較を超えて−例えばモデル結果と観測結果/実験結果との比較など−行われてきた。しかし、多くの場合、その比較はどのモデルにエラーが大きいかを明らかにしたけれども、どの過程がそのエラーを作ったかの情報を導き出すことはなかった。さらに、観測そのものが系統誤差を持っており、そのため、比較の結果はときとしてはっきりとした結論を出せずにいた。それゆえ、種々のタイプの観測/実験との包括的な比較は必要であり、モデル中の諸過程の精度に関する情報を明らかできる場合はいつでもこういった比較は行われるべきである。これらを保管する際の障壁には以下が含まれる:それぞれのコミュニティにおいて他のコミュニティが必要とするもの、提供できるもの、どこで情報を得るのかの理解の欠如;データの品質/不確実性や他のメタデータに関する情報を含む一元化・標準化されたデータベースの欠如;モデル出力と観測の空間的時間的なスケールのミスマッチ;モデル入出力パラメータと観測される物理パラメータの違い。AC&Cでは、これらの障壁のいくつかは関連するコミュニティの協力によって克服することが可能である。
  • 先進的な計画立案の必要性およびアセスメントの要求に応えるものの調査の必要性
    活動の先進的な立案、準備、初期化は良いアセスメントを作るのに役立ち、サイエンスのコミュニティには本質的なものである。あるアセスメントから次のアセスメントまでの時間的な間隔は短く、アセスメントの元になる活動は時間的に続く性質なので、計画立案と準備は大変有用である。ある場合には、化学モデルランは気候モデルランの前に完了している必要がある。AC&Cはこの初期の仕事を行う国際的な科学コミュニティに対して道筋を提供するものである。

AC&Cの活動は図1のような組織の枠組みで行われる予定である。この枠組みや活動は上部組織であるIGBPとWCRPに承認されているものである。既存の2つの活動−CCMValとAeroCom−はAC&Cが関連する2つの領域をカバーしている。AC&C の3番目の領域であるTropChem(対流圏気相反応化学相互比較)は部分的に他の活動(ACCENT-MIP/TF HTAP)を含んでいるに過ぎない。それ故、新しいTropChemグループが対流圏気相反応化学/気候モデリングコミュニティの橋渡し役として活動し、また、既存のACCENT-MIPやTF HTAPの増強としても活動していくものである。この3つのグループはAC&Cの活動の研究実働体として働いていく。ここで、強調しなければならないことがある:AC&Cの活動はCCMValとAeroComで実行されているそれぞれの科学チームから構成されるであろうから、これらのプロジェクトコミュニティからの協力が必要である。

ボルダー(立ち上げ会議)において次の3つテーマ領域が決定された:(1)気候の大気化学に与える影響、(2)大気化学が気候に与える影響、(3)気候の空気質に与える影響。AC&Cは財政的な基盤を持たない活動なので、これらのテーマにおける進展はそれぞれ独立のファンドをもつ研究グループを通してのみ成し遂げられるものである。限られた時間や財政資源の元では、これらのテーマ領域のすべての側面が同時に成し遂げられることはないであろう。逆に、AC&C傘下の活動(定義から共同活動である)は3つかそれ以上のモデリンググループや2つかそれ以上の研究実施母体の参加を必要とするであろう。そのため、ボルダーや第1回AC&Cワークショップで議論は科学的な質問に基づいた活動を選び出すことに焦点を当てていた:

  • 科学的な優先度が高い
  • 実行可能である
  • 多数の研究グループが関心を覚え/取り組みできる
  • 全体として、化学/気候の相互作用に重要な対流圏や成層圏の広がりをもつ
さらに、AC&Cの政治的な側面が認識された。特に、次期のWMOオゾンアセスメントやIPCCのアセスメントを考慮して、AC&Cの活動がこれらアセスメントに役立つようにと願望しつつ、AC&Cの活動が選択された。

上記の基準に照らして、ジュネーブのワークショップでフェイズ1のプロジェクト(2009年に終了予定)として4つのプロジェクトが採択された。

活動1:対流圏オゾンとエーロゾルの20-25年の過去再現実験
活動2:何が大気のエーロゾル/気体の分布をコントロールするか、最初は高度5kmから対流圏界面までの分布に焦点
活動3:雲、エーロゾル、化学種の相互作用の表現の改善
活動4:気候モデルの将来シナリオにおける感度と不確実性の解析

加えて、AC&Cの元でデータを一元管理するセンター/ソフトを持つことを調査するデータセンター委員会が結成され、またGEIAやHTAPと共同してモデル用の排出データベースの有用性の改善を行う排出調整委員会も結成された。

AC&Cの一般的な役務として、観測データの統合整理を集中的に行うことはしないと決定された。なぜなら、それはAC&Cイニシアチブの目的、能力、財政を越えているからである。代わりに、観測や実験データはAC&Cの4つの活動のそれぞれで、モデル過程や出力の理解と検証に適切なものとして、およびモデルの諸過程の表現能力の向上のひとつの方法として利用される。観測と室内実験コミュニティはこの目的においてAC&Cのいずれかの活動に参加することになる。

  • 活動1:20年の過去事例予報(ハインドキャスト)実験
      5つもしくはそれ以上のモデルが過去20-25年のハインドキャストを次の質問に答えるために行う。過去20年の大気化学組成の変化の観測値を再現できるか? どのような過程が対流圏化学、特に、オゾンとエーロゾルの変化をもたらしたかを理解できるか? モデル結果は、どこに不確実性が存在するのかを評価するため、相互に比較されると同時に観測値と比べられる。過去20年のランは特別な焦点もしくはスナップショット期間、例えばエルニーニョとラニーニャ、グラウンドトルースとして観測キャンペーンデータが利用できる期間、を取り込む形で設定されるであろう。できうる限り、全参加者が同じ人工的な排出データを使ってランをするであろう。診断はモデルの各過程の情報を明らかにするように設定される。このような実験はヨーロッパRETROプロジェクト−3つの全球モデルが1960-2000年間をシミュレートし、対流圏オゾンとその前駆物質を調べた−から得られた経験に基づいて行うことができるのである。
  • 活動2:何が対流圏のエーロゾル/気体の分布を決定しているのか?ステップ1:高度5kmから対流圏界面までの研究
    > この活動は次期のWMOオゾンアセスメントに貢献する予定。
    上部対流圏が選ばれた理由は次の通である。(a)この高度領域の微量物質をコントロールする諸過程はモデルによって異なり、その結果としてモデル間のこれらの分布の差違は非常に大きい;(b)この高度領域の化学種(例えば、オゾン、ダスト、黒煙粒子)は放射的に大きな効果を有し、それ故、気候システムの他の成分(巻雲など)に影響を及ぼしうる;(c) この高度領域の化学種の分布をコントロールする諸過程(例えば、上昇流;湿性沈着;雲過程)はこれら化学種の長距離輸送もコントロールしている、(d) この高度領域の化学種の分布は上部対流圏/下部成層圏の諸過程に依存していると同時に影響を及ぼしている。
  • 活動3:雲、エーロゾル、化学種の相互作用
    この活動は次の質問に答えるためのものである:全球モデルの暖かい雲過程において雲/エーロゾル相互作用は、特に光化学の均一気相反応との相互作用は、どれくらいうまく表現されているか?これはエーロゾルが雲の変調を通して大気化学へ及ぼす影響を調べることになる。方法としては、逐次的にパラメータ(雲粒子数など)が変化している一連のセットを用意し、これらをモデルに組み込み、徐々にエーロゾルへの結合が強くなるようにパラメータセットを選んでモデルを走らせ、雲内部の化学過程への影響を調べることになるであろう。
  • 活動4:将来のシナリオ:感度と不確実性
    > この活動は次期のIPCCアセスメントに貢献するであろう。
    目標は次期の第5次IPCCアセスメント報告書(AR5)におけるエーロゾルと化学をより良く表現するということに特化している。このグループは、他のAR5のランと可能な限り一貫性のある排出シナリオに基づいて、産業革命以前から現在さらに将来へのシナリオを定義しうるものである。同一の排出シナリオを使って多数のモデルを走らせることによって、“最良の推定値(best guess)”と不確実性を定義することが出来るであろう。これらのモデルランはモデルの各過程に対する感度を調べるのにも使われるであろう。

リンク

  ACCENT
  AeroCom
  CCMVal
  GEIA
  HTAP
  IGAC
  IGBP
  IPCC
  SPARC
  WCRP

参考文献

Rasch, P., A. R. Ravishankara, and S. Doherty, Atmospheric Chemistry and Climate, A New IGBP-IGAC/WCRP-SPARC Initiative, IGAC Newsletter, 36, 18-22, 2007.






図1. AC&CのフェイズIの活動と組織

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