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世界気候研究計画(WCRP)公開科学会議の報告とコミュニティーへのお願い

中島映至 WCRP合同科学者会議委員


WCRP公開科学会議(WCRP-OSC: WCRP Open Science Conference, )が10月24日から28日まで、米国・デンバーにて開かれた (第1図)。この会議の目的は、中島(2011)にも書いたように、2013年以降のWCRPの枠組みをどのように作るかを検討するために、気候研究の重要な方向性や課題を世界の研究者に問うことである。詳細についてはOSCのウェブページに行ってもらいたい。そこでは、キーノートスピーチ講演資料、各発表要旨、各セッションのとりまとめ論文(Position paper)などが公開されているので、各コミュニティーでの議論と意見形成に役立ててもらいたい。特に、この機会を通して、アジアからの意見発信をおおいにしてもらいたい。WCRPの将来枠組みに関しては現在、WCRP合同科学者委員会(JSC)やWCRP傘下のプロジェクトのサイエンス・ステアリンググループ(SSG)にて検討中であるが、第2図に示すように4つのコアプロジェクトとそれを貫くグランドチャレンジを設置する案などが出ている。

会議には、組織者の予想を大きく上回る1,881人の研究者、関係者が86カ国から集まった。ポスター発表は約2,100件にものぼった。私は大気放射や衛星関連に仲間が多いが、そのコミュニティーの重鎮のほとんどが集まっていた。これらのことからわかるように、将来の気候研究枠組みの議論に対する研究者の関心がきわめて高いことを物語っている。もっと直截的に言えば、気候研究における政治の舞台として本会議が非常に重要な位置づけにあったと言える。実際、SSG会議が同時に開かれ、各プロジェクトの改組に伴う名称変更、任務、グランドチャレンジをどうすべきかについて議論が行われた。また、参加者のうち523人が学生と若手研究者であり、何人かと話したが、このように多くのキーとなる研究者のいる会場からは刺激を受けたようである。

会議から感じたのは、気候研究の大きなうねりである。世界の経済問題を受けて予算的にはゼロサムゲームになりつつあるが、過去 10年くらいの間に増えてきた関係者、特に地球温暖化問題に関わる研究者や気候サービス関係者に支えられて研究は活況にあり、みながその発展に関してあらゆる可能性を追求している熱気みたいなものを感じた。もうひとつ強く感じたのが、気候変動適応や軽減策に役立つ情報発信を、予算機関、他のコミュニティー、政治家から強く求められている点である。持続的発展やActionable Sciences(実践可能な科学とでも言うべきか)を望むと言うメッセージが発表者の口から多く聞かれた。そのためには、社会に不確実性をどのように伝えるかが問題になり、どのように不確実性を発信するかの問題点も指摘された。この点は、気候ゲート問題に対する対応や、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)システムの改善案の議論の中でもひとつの焦点となった。

このような気候研究の裾野の拡大は、国際科学会議(ICSU)の全球環境変化プログラム(Global Environmental Change (GEC) programmes)のメンバーであるWCRP、地球圏−生物圏国際協同研究計画(IGBP)、生物多様性科学国際共同計画(DIVERSITAS)、地球環境変化の人間的側面に関する国際研究計画(IHDP)の間の相互作用が必然的に起こっていることを意味する。これもまた、OSCの活況のひとつの要因だろう。このことは、ポスター発表が扱うテーマ分布の大きな広がりを見ても明かであった。これを反映してか、会議後に、国際学術連合会議(ICSU)のJohan Rockström氏の要請によって、JSC全員と同氏の会合が企画された。ICSUでも2013年以降の枠組みの改組議論がおこっており、改組に向けた地球システム構想プロセス(Earth System Visioning process)がまず6月に終わったばかりである。構想タスクチームの議長である同氏からは、これらの改組プロセスへの理解と協力が求められた。現在、移行チームが形成され、今後、枠組み作りが急速に動き出す模様である。訴えられたことは、GECメカニズムとWCRPの間の相互作用の増進である。最終目標は、GECメカニズムをひとつに融合して、WCRPの一部も取り込んだ枠組みを作りと全球持続可能性科学(Global Sustainability Science)を確立することだそうだ(ICSU, 2011)。JSC側からは、気候研究の世界の現状を見れば、多分野連携科学を推進するには世界的レベルでの予算編成システムの変更や次世代の育成が必要であることが指摘された。文理融合(社会科学との融合)もより努力が必要であることも指摘された。筆者は同時に、対策で大きな力を必要としている工学系との広範な連合も重要だと発言した。

以上のように気候研究の将来議論は華やかであるが、残念ながら、アジアからのメッセージ発信は必ずしも強いものでは無かった。全体会合のキーノートスピーチではいわゆる地理的バランスへの配慮はなく、がちんこで、これから何をやるべきかをみなが演説した感じがする。それだけプレナリーセッションは迫力があったが、IPCC WG1の報告をした中国気象局のQin Dahe氏以外はアジアのスピーカーは居なかった。さらに、12個のパラレルセッションで実質的な研究発表が行われたが、その分野をひっぱる次世代のアジア人の発表もあまり多くなかった。これが現状と言えば現状であるが、一方で、重要な研究地域にはいつもアジアがあがっており、その辺のギャップが感じられた。筆者が日本の状況から思い当たることは、国際プロジェクトオフィスなどを省庁と国際的に評価された研究者が連携して取りに行ったり、国際的なリーダーシップを作り出す支援システムが無い点である。そのために、国際組織に支援金は出すが存在感はない状況になっていると思う。また若手に関しては、研究費はそこそこ回っていて、ひとりひとりの若手研究者が非常にまじめにプロジェクトに取り組んでいるし、国際会議でどんどん発表する時代にはなっている。しかし、会場で質問したり、研究グループの小さな会合でも良いから自分の意見を主張する若手は少ない。今後、アジアのコミュニティーの底上げを図ることが重要である。

参考文献:
ICSU, 2011: 21st Meeting Report of the ICSU Committee on Scientific Planning and Review (CSPR), 30-31 March, 2011, Chantilly, France.
中島映至, 2011: 世界気候研究計画(WCRP)の現状と気候研究の方向性. 天気、 58, 810-812。


第1図.会議の様子。


第2図.将来のWCRP枠組み案の一例。
4つのコアプロジェクトとそれを貫くグランドチャレンジ(大課題)の設置。