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「成層圏過程とその気候影響(SPARC)」計画の活動紹介

SPARC小委員会委員代表
林田佐智子(奈良女子大学理学部)

(日本気象学会機関誌「天気」掲載予定)

1.はじめに

林田佐智子(奈良女子大学 理学部)

SPARCとは

成層圏過程とその気候影響(Stratospheric Processes And their Role in Climate : SPARC)は世界気候研究計画(World Climate Research Programme:WCRP) の下のプログラムの一つで、1992年に開始された成層圏の気候影響に関する国際研究プロジェクトである。本プロジェクトでは、成層圏における物理的・化学的諸過程が地球の気候変動に与える影響の研究を推進する。

成層圏は中間圏あるいは対流圏とは力学的に双方向に影響を及ぼしあっており、また成層圏-対流圏間の物質交換は対流圏の物質分布に大きな影響を与える。研究の範囲は成層圏だけに限定されるものでなく、気候というキーワードを通して広く大気全般にわたるものである。また、化学過程と力学過程の結合に重点をおくことにも特徴がある。

スペシャルセッション「成層圏過程とその気候影響の新展開」

2007年5月22日、地球惑星科学連合2007年大会(幕張メッセ)にてスペシャルセッション「成層圏過程とその気候影響の新展開」を行った。3つのサブセクションに計17件の口頭発表とポスターセッションに8件の発表があり、常時会場に50人を超える聴衆を迎えて活発なセッションを行うことができた。今年からは大気化学研究会が地球惑星科学連合に参加したが、大気化学と連続のセッションとして実行できたこともあって、これまで以上に幅広い分野からの参加者があったと思う。

今回のセッションで数名に依頼して、SPARCと関連の深い国内の研究活動状況のレビューを行ってもらった。本稿ではこのレビュー講演のまとめを中心に、日本で進行中のSPARC関連の活動を紹介する。

SPARC小委員会および国際科学運営委員会(SSG)について

スペシャルセッション翌日の5月23日、SPARC小委員会の初会合がもたれた。この小委員会は日本学術会議の下に設置されたWCRP/IBGP (International Biosphere-Geosphere Programme:地球圏−生物圏国際協同研究計画)合同委員会の小委員会として2007年2月に正式に発足した。メンバーは第1表のとおりである。また、同じく2007年から国際科学運営委員会の議長がT. Peter とT.G. Shepherd になり、メンバーの一部交代があった。2007年のメンバーは第2表の通りである。

2.Solar Influence for SPARC (SOLARIS)

小寺邦彦(名古屋大学大学院 環境学研究科)

中層大気過程を通した太陽活動の気候への影響を調べるSPARCのワーキンググループ “Solar Influence for SPARC (SOLARIS)”が2005年末より発足した(詳しくはhttp://strat-www.met.fu-berlin.de/~matthes/sparc/solaris.html)。SOLARISは太陽地球系物理学国際科学委員会 (Scientific Committee on Solar-Terrestrial Physics:SCOSTEP)の Climate And Weatherof the Sun-Earth System (CAWSES)計画、特に第1課題である太陽活動の気候への影響との共同活動として位置づけられている。その主な課題は1)中層大気過程を通した太陽活動の気候に及ぼす影響の機構、2)太陽周期と成層圏赤道QBO(準2年周期振動)の相互作用、3)気温、オゾン濃度の太陽活動に対する応答の空間分布、4)高エネルギー粒子の下部熱圏、中層大気に対する影響、を大気大循環、化学気候、大気海洋結合等のモデルを用いた共同実験を通して調べることである。またこの他にメカニスティクモデルや観測データの解析を通しても太陽活動の気候への影響の機構を明らかにする。

SOLARISはSPARC傘下の正式な研究計画としてオーソライズされており、筆者が代表を務めている。

3.南極昭和基地大型大気レーダー計画(PANSY)の現状

佐藤薫(東京大学大学院 理学系研究科)、堤雅基(極地研究所)

1957年に始まった日本の南極観測は昨年50年目を迎えた。極域大気の研究も、今後は、発見科学から、定量的な議論を要する精密科学へと転換を迫られている。本計画は、このような背景から、南極昭和基地に対流圏から電離圏までの広い高度領域の3次元風速やプラズマパラメータを高分解能、高精度で観測できる大型大気レーダーを設置し、これを軸として、既存の観測を組み合わせ、極域大気を多元的に捉え、極域科学のブレークスルーを図ることを目的としている。第VI期(43〜47次:2002〜2006年)南極観測期間には、大型大気レーダーの設置および運用のためのフィージビリティスタディ(実現可能性の検討調査研究)を徹底的に行った。その結果、新型アンプ開発による大幅な電力削減、耐候性と軽量性を併せ持つアンテナ最適化に成功し、また、自然を壊さずアンテナを設置するための固定法を検討するなど、大型大気レーダーの設置および運用を実現するための技術的問題はほぼ解決された。引き続く、第VII期(48〜51次:2007〜2010年)には、新型アンプ を組み込んだ送受信モジュールとアンテナを組み合わせたパイロットシステムを作り、現地での総合試験を行う計画である。パイロットシステムは流星レーダーとして運用し、実際に観測も行い、国際極年(International Polar Year: IPY)にも寄与する予定である。周波数が高いので、昭和基地既存のレーダーでは難しかったオーロラ発生時の観測も期待できる。同時に、力学研究に不可欠な大気安定度を得るため、成層圏温度観測のできるライダーシステムの設置も検討している。高解像度気候モデルを用いた重力波を含む中層大気力学研究(KANTO project)や、非静力領域モデルを用いた重力波やカタバ風の研究など、将来、大型大気レーダーによる高精度観測と組み合わせて、さらに高度な研究へ発展させるための、モデル研究や理論研究も進めている。本計画は日本の南極観測における最大規模の計画であり、予算要求だけでなく、他分野との様々な調整も必要とされる。時勢をにらみながら、慎重に進めていきたい。なお、この計画はSPARCよりrecommendation(推薦/勧告)を得ているものである。ほかに、IUGG (International Union of Geodesy and Geophysics)、URSI (International Union of Radio Science)、SCAR(Scientific Committee on Antarctic Research)、SCOSTEPからも計画の重要性に関する決議を得ている。

4.SOWER (Soundings of Ozone and Water in the Equatorial Region)プロジェクトの現状

長谷部文雄(北海道大学 地球環境科学研究院)

オゾン層破壊・地球温暖化とも関連する成層圏水蒸気変動の問題に対する理解は、準水平的移流に伴う脱水過程の重要性が認識されて以来、飛躍的に深化したが、まだ、十分な理解が得られたとは言い難い。SOWER (Soundings of Ozone and Water in the Equatorial Region)プロジェクトでは、鏡面冷却型ゾンデによる水蒸気観測を1998年3月から集中観測の形で実施してきた。最近の中部・西部熱帯太平洋域における現場観測によれば、下部TTL (Tropical Tropopause Layer)で観測される大気塊はその温度履歴により見積もられる最小飽和水蒸気混合比の2倍程度の水蒸気を保持している。SOWERでは、成層圏高度まで精度よく観測可能なゾンデの導入、ライダーとゾンデとの同時観測、同一大気塊を複数回観測する水蒸気マッチの試みにより、脱水効率の定量的評価に向けた観測事実を蓄積しつつある。

5.超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(SMILES)

塩谷雅人(京都大学 生存圏研究所)

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2010年に完成予定の国際宇宙ステーション(International Space Station: ISS)計画への参加の一環として、日本実験モジュール“きぼう”(Japanese Experiment Module: JEM)の開発を行っている。このISS上でのJEM曝露部利用ミッションの一つに「超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(Superconducting Sub- millimeter-Wave Limb-Emission Sounder: SMILES)」があり,JAXAと情報通信研究機構(NICT)の共同提案として測器が開発されてきた。SMILESは超伝導技術(4K冷却機)を利用した超高感度サブミリ波リム放射観測機であり、オゾン層破壊とその回復を定量的に見積もる際に基礎となる大気微量成分(ClO, HOx, NOx, BrO等)をターゲットとした3次元グローバル観測をおこなう。これによって、オゾン破壊にかかわる化学反応過程をより定量的に論議することが可能となり、地球大気質変動の将来予測に対する大きな貢献が期待できる。ISS計画は、建設開始以来さまざまな要因から組立てスケジュールが延伸してきたが、今般、2009年に日本の宇宙ステーション補給機(H-II transfer vehicle: HTV)を利用して打ち上げられることが決定され、現在、SMILESにより得られる観測データの高次処理系の開発とこれを活用した大気科学研究の推進に向けた体制の強化が進められている。

6.CHAMP (CHAllenging Minisatellite Payload)衛星

津田敏隆(京都大学 生存圏研究所)

衛星測位情報(GPS)を活用した新発想の地球観測法の代表であるGPS掩蔽は気球観測(ラジオゾンデ)と同等の精度・高度分解能で対流圏および成層圏(高度約40kmまで)の気温プロファイルを測定できる特長がある。1995年にUCAR(University Corporation for Atmospheric Research)が実施したGPS/MET(Global Positioning System/Meteorology)実験は、GPS掩蔽データの科学利用の有効性ならびに数値予報モデルの予報誤差向上へのインパクトを実証した。その後、ドイツのCHAMP衛星は2001-2006年に継続的に良質の気温データを供給し、成層圏の気候学的特性を含め、数多くの成果をもたらした。

関係者が心待ちにしていたCOSMIC(Constellation Observing System for Meteorology, Ionosphere & Climate) が2006年4月に開始された。この計画は台湾のNSPO (National SPace Organization)とUCARが共同で遂行しており、6台の小型衛星を同時に打ち上げ、大量のGPS掩蔽データを得ることを目指している。既に、一日に2000以上のデータが定常的に得られており、数値モデルへのリアルタイムデータ同化、大気波動の科学的解明などに活用されている。

7.終わりに

林田佐智子(奈良女子大学 理学部)

本稿では、SPARC関連の国内研究プログラムの中でも特に重要な研究計画について概要を紹介したが、そのほかにも多くの関連研究活動があり、今後も随時報告を掲載したい。来年も地球惑星物理学連合学会にスペシャルセッションを提案する予定であるので、多くの気象学会会員の参加を期待する。一方で、地球惑星連合学会と気象学会春季大会の日程が近く、結果として気象学会のセッションからSPARC関連の研究が疎遠になってしまう懸念がSPARC小委員会の席上で指摘された。今後は気象学会と地球惑星合同学会とのありかたも含め、改善策を模索して行く必要を感じている。

第1表.国内SPARC小委員会名簿
環境学委員会・地球惑星科学委員会合同IGBP・WCRP合同分科会名簿(五十音順)

氏名 所属先
林田佐智子 奈良女子大学理学部情報科学科・教授
秋吉英治 国立環境研究所大気圏環境研究領域・主任研究員
今村隆史 国立環境研究所大気圏環境研究領域・領域長
岩崎俊樹 東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻・教授
笠井康子 情報通信機構第3研究部門電磁波計測研究センター
環境情報センシング・ネットワークグループ・主任研究員
北 和之 茨城大学理学部理学科(地球環境科学コース)・准教授
小池 真 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻・准教授
佐藤 薫 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻・教授
塩谷雅人 京都大学生存圏研究所・教授
柴田清孝 気象研究所 環境・応用気象研究部・室長
津田敏隆 京都大学生存圏研究所・教授
廣岡俊彦 九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門・教授
藤原正智 北海道大学地球環境科学研究院地球圏科学部門・准教授
村山泰啓 情報通信機構第3研究部門電磁波計測研究センター
環境情報センシング・ネットワークグループ・研究マネージャ
余田成男 京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻・教授

第2表.SPARC国際科学運営委員名簿

氏名 所 属
G. Bodeker New Zealand NIWA
J. Burrows Germany IUP/IFE;The University of Bremen
P. Canziani Argentina Pontificia Universidad Catolica Argentina
P.C.S. Devara India Indian Institute of Tropical Meteorology (IITM)
D. Fahey USA NOAA
D. Hartmann USA Departmentof Atmospheric Sciences; The University of Washington
S. Hayashida Japan Faculty of Science; Nara Women's University
P. Haynes UK DAMTP, Centre for Mathematical Sciences; The University of Cambridge
E. Manzini Italy National Institute for Geophysicsand Volcanology
A. O'Neill UK The Data Assimilation Research Centre, Department of Meteorology, The University of Reading
A. Ravishankara USA NOAA-AL
A.M. Thompson USA Penn State University
V. Yushkov Russia Central Aerological Observatory

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