研究内容
4. 好熱性Geobacillus kaustophilus HTA426の全ゲノム解析
世界最深部のマリアナ海溝11,000mから採取した深海底泥より分離したGeobacillus kaustophilus HTA426株は、生育温度限界が42-74°Cの好熱性Bacillus属関連細菌の一種です。実際のマリアナ海溝は、水圧1100気圧で水温が4°Cなので好熱菌にとっては非常に住みにくい環境ですが、Bacillus属関連細菌は胞子を形成して過酷な環境から生命を維持する能力を有しているので、おそらくG. kaustophilus HTA426株も深海底では胞子として棲息していたものと考えられます。

G. kaustophilus HTA426の電子顕微鏡写真
好熱性細菌の持つタンパク質は、そのすべてが少なくとも生育温度限界までは安定な耐熱性タンパク質であると思われるので、好熱性Bacillus属関連細菌の全ゲノム配列がわかればこれをお手本に常温性Bacillusのタンパク質を耐熱性にすることが出来るのではないかと期待されます。そこで、我々のグループではこれまで全塩基配が知られていない好熱性Bacillus属関連細菌の代表種としてG. kaustophilus HTA426株の全ゲノム配列決定を行いました。
ゲノム解析の結果、G. kaustophilus HTA426株のゲノムはDNAのGC含量が52.1%で、3.54 Mbからなる染色体とGC含量が44.2%で47.9 kbからなるプラスミドからなっていることがわかりました。染色体とプラスミドを合計した全ゲノムサイズは約3.6Mbで、O. iheyensisとほぼ同じでした。

G. kaustophilus HTA426のゲノムマップ
ゲノム中に見いだされた遺伝子数はO. iheyensisよりやや多い3540でした (染色体: 3498、プラスミド: 42)。染色体中に見いだされた3498遺伝子中の約86%にあたる3010遺伝子は広く他の生物種に渡って保存され、残りの14%にあたる488遺伝子はG. kaustophilusに固有なものでした。また、G. kaustophilusゲノムには、B. haloduransと同様100を超えるトランスポゾンが存在し、その種類は非常に多様であることがわかりました。一方、G. kaustophilusと全ゲノム配列が知られている他のBacillus属関連細菌5種との比較ゲノム解析を行ったところ、好熱性G. kaustophilusに固有な遺伝子は757であることがわかりました。757遺伝子の内訳を詳しく調べてみると、RNAの熱安定化に関与すると思われるRNA methyltransferaseやDNAと強く結合してDNAの熱安定性を高めていると考えられるプロタミンなどの遺伝子が含まれていました。プロタミンは塩基性の高いヒストン様のタンパク質ですが、これまで原核生物で発見された例はなく、初めての発見となりました。
また、好熱菌に特徴的なポリアミンの合成遺伝子も見つかり、これらの遺伝子がG. kaustophilusの好熱性に大きく貢献しているものと考えられます。さらに、G. kaustophilusとこれまで全ゲノム配列が決定された150種のゲノム中に見いだされた全遺伝子の産物であるタンパク質のアミノ酸配列を用いて主成分分析を行うと、好熱菌と常温菌を明確に区別することが出来、G. kaustophilusは他の好熱菌同様の特徴を示すことが示されました。
このように、G. kaustophilusは、他の常温性Bacillus属関連細菌とは異なる好熱性菌としての特徴を有していることがゲノム解析の結果からわかりました。

