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アプリケーションラボ(APL)

APLコラム

JCOPEチーム

黒潮大蛇行が12年ぶりに発生
—最新の理論で確かめてみると—

アプリケーションラボ(APL)が運用しているJCOPE2M海洋変動予測システムは、7月以降に日本南岸において、黒潮の大きな蛇行(離岸)を予測していました。
(APLコラム「黒潮大蛇行は発生するか」(5月31日)参照)

その後も予測実験を続けてきましたが、いよいよ黒潮大蛇行が12年ぶり(注1)に発生することになりそうです。

図1は、8月30日から10月までの黒潮の蛇行の成長を示しています。以前、見ていた蛇行(蛇行1)はいったん大きな蛇行に成長しましたが、その後勢力を弱め流下していく傾向にあります。今回はこれに続く蛇行2が大蛇行に成長すると予測しています。8月30日から10月26日までの予測のアニメーションは図2で見ることができます。

今回の蛇行の成長は、「黒潮親潮ウォッチ ― 海山が黒潮大蛇行の引き金になる?」で解説したとおり、紀伊半島の東沖で黒潮流路が「膠州(こうしゅう)海山」付近に達するほどに十分に南下し、この海山の働きによって蛇行が成長するメカニズムが働きだしたためと考えられます。



図1: JCOPE2Mの予測による8月30日、9月27日、10月26日の黒潮の変化。矢印は海面近くの流れ(メートル毎秒)、色は海面高度(メートル)。赤丸()が八丈島の位置。海面高度が低いところは海面水温が低いというおおまかな関係があります。

図2:8月25日から10月26日までの予測アニメーション。

最新の理論(Usui et al. 2013)では、黒潮大蛇行は、太平洋全体の風の変動によって、1) 上流部(台湾沖)の渦の活動が活発となって引き金となる蛇行の種を生み出し、2) 下流に流下せず引き金蛇行がゆっくり成長できるように日本南岸での黒潮流速が弱まり、3) 伊豆諸島の西側で生じた蛇行がその東端で安定して存在する、という三つの条件を満たしたときに生じやすいとされています。(注2)。この理論で三つの条件の効果をまとめて示すように提案されている「黒潮大蛇行インデックス」を、2種類の海洋再解析データ(注3)と人工衛星観測データをもとに今回の現象について計算してみました(図3)。

図3. 「黒潮大蛇行」インデックス(Usui et al. 2013)。1983年から2017年8月までの月毎の推移を示しています。値がプラスの方向に大きいほど、黒潮大蛇行が起きやすいことを表わしています。青線は、FORA-WNP30再解析データ(注4)、黒線は、JCOPE2再解析データ(注5)、赤線は、人工衛星海面高度計データから算出した結果を表します。黒い横線は、過去に大蛇行が生じた期間を示しています。細い線は月平均の値、太い線は12か月移動平均した値を示します。

これを見ると、インデックス計算開始に既に生じていた大蛇行を除いて、過去の大蛇行の期間と起こりやすい状態はおおむね一致していることがわかります。さらに興味深いことに、今回の現象でも比較的起こりやすい状態になっていることがわかります。ただし、2010-2012年にも比較的起こりやすい状態があったにもかかわらず黒潮大蛇行は発生していないので、あくまで確率的な傾向を示すインデックスと考えたほうがよいのでしょう。

次に、今回の現象の原因を探るために、3つのサブインデックスをそれぞれ見ていきます。図4から、黒潮の上流部にあたる台湾東方海域での渦活動は近年きわめて活発であり、この影響によって、引き金となりうる小蛇行が頻繁に生じていたことが推察されます。実際、今年2017年には今回を含め2回の小蛇行が発生しました。

一方、図5や図6を見ると、残る2つの条件については強く満たされているとはいえないようです。結果として、「黒潮大蛇行インデックス」(図3)の値の伸びがおさえられているようです。その意味で、今回の大蛇行については今後の推移をよく見ていく必要がありそうです。

図4. 「台湾東方海域の渦活動」インデックス(Usui et al. 2013)。値がプラスの方向に大きいほど、台湾東方海域での渦活動が活発であることを表わしています。渦活動の影響が下流の日本南方に達する時間を考えて、1年前の状態を現在にずらして表示しています。

図5. 「西向き擾乱」インデックス(Usui et al. 2013)。値がプラスの方向に大きいほど、日本の南方海域での西向きの擾乱が活発であることを表わしています。

図6. 「黒潮続流」インデックス(Usui et al. 2013)。値がプラスの方向に大きいほど、黒潮が日本の沿岸から離岸した後に東向きに流れる黒潮続流の状態が安定であることを表わしています。

黒潮流路変動の予測は,天気予報と同じように,観測データを修正しながら少しずつ更新していく必要があります。JCOPE海洋変動予測システムの最新の予測結果は週二回更新されており、今後の黒潮蛇行の様子はJCOPEウェブサイトの図をご参照ください(注6)。引き続き、毎週更新の黒潮親潮ウォッチでも注目していきます。

(注1)最近発生した黒潮大蛇行は2004年7月〜2005年8月です。
(注2)Usui, N., H. Tsujino, H. Nakano, and S. Matsumoto, 2013: Long-term variability of the Kuroshio path south of Japan, J. Oceanogr., 69, 647-670.
詳しい内容については、研究グループによる解説記事の「黒潮大蛇行の謎に迫る」をお読みください。
(注3)数値モデルと観測データを融合して、過去の海流の様子を再現したデータ
(注4)北西太平洋海洋長期再解析データセット FORA-WNP30
(注5)FRA-JCOPE2再解析データ
(注6)図の見方は黒潮親潮ウォッチ2017/3/27号で解説しています。