今回はチリのバルパライソからブラジルのサントスまで乗船することになりました海洋科学技術センターのむつ研究所の原田尚美さんおよび横須賀本部の向後 毅さん、金井知明さんの3名からの乗船報告を数回に分けて掲載します。
10月15日(水)に日本を出発してから、30時間掛けて地球の反対側のチリのサンジェイゴに朝6時すぎに到着。かなり遠い。こちらはすでにサマータイム。ちょうど12時間の時差、日本より12時間遅い。到着後、バスでビナデマール(Vina
del Mar)まで移動。約2時間の旅。ホテルにチェックインした後、バルパライソ(Valparaiso)の港に停泊中の「みらい」へ向かう。早速、赤嶺船長と関係者でレグ3の航路について打ち合わせる。
時差ぼけがひどく、夜中に1時間毎に目がさめる。朝9時頃、バスにて「みらい」に到着。バルパライソの港の正面に停泊している船から、急に切り立った斜面に建てられた町並みをみるとまるで絵葉書のように美しい。SARSの検査を受けた後、乗船。午前中はパイロットとコンセプシオン大学の研究者を交えて、昨日下打ち合わせをした航路について打ち合わせ。フィヨルドの内側を通るか、外側を通るかは天候をみながらになるが、南緯45度以南はフィヨルドの内側を通ることになりそうだ。午後は一般公開と特別公開、そしてカクテルパーティ。在チリ大使、チリ海軍の関係者、コンセプシオン大学の学長ら数十名が参加。
午前、午後とも実験室、デッキにて採泥用機器の準備。デッキ作業はマリンワークジャパン(MWJ、センターが観測業務を委託している会社)の観測技術員を中心にセッティングを行う。実験室のセッティングは研究者中心の作業。ただ、まだ慣れていないため日本人グループと外国人グループに分かれがち。航海が始まれば、コミュニケーションも取れてくるだろう。また、生物および基礎生産観測用機器は、アルゼンチンからの研究者1名とPOGOからの研修生2人の3名で準備。夕食後、最初の採泥点のサイトサーベイ観測に関して、赤嶺船長や観測技術員と打ち合わせ。夜はレグ3初めての研究者全体ミーティング。日本から21名、チリから6名、アルゼンチンから2名、ナミビアから2名、ウルグアイから1名、ブラジルから1名と国際色豊かな総勢33名の顔合わせ。また、全体の3分の1が女性。10年以上前、乗組員、観測者総勢200名の中で、女性が私1人だけという観測があった。時代の移り変わりを感じる。女性パワー炸裂の航海になりそう。
午前中はピストンコアラー(注1)とグラビティコアラー(注2)の組み立て。実験室にて分配した堆積物サンプルを入れるパックにひたすらクルーズ番号やステーション番号などを書いたラベルを貼る。これは地味な作業だが、堆積物が船上に上がってきたら、怒濤のように忙しくなるため、予めやっておかなければならない(このグラビティコアラーの組み立て作業とラベル貼りは夕食後も続く)。午後はISOM(世界観測船運行者会議)の参加者による「みらい」の特別公開。研究実験室の案内を行う。
午後3時に出航。穏やかな天候の中バルパライソ港を出航。バルパライソは坂の町で海から見ると家がおもちゃ箱のように並んでいる。港にはチリ海軍の帆船エスメラルダ号が停泊していた。すべて木からできている美しい船で、帆船の世界ではとても有名な船とのこと。港を出ると、すでに海況は悪く、腹の底がムカムカしている。一等航海士(チョッサー)から乗船者に船内生活についての説明がある。説明の内容は非常時の避難方法(単音7回、長音1回の警報が鳴る)、立ち入り禁止区域、ゴミの取扱い、薬、シャワー等船内の生活すべてについて丁寧に説明がある。その後、船長から風速20m、波の高さは3m、結構揺れているけど、減揺装置も作動しているとの説明があった。しかしすでにこっちの体は大丈夫ではない模様だ。船内生活の説明の後は繰練(避難訓練)である。船のとも(後部)の甲板にヘルメット、ライフジャケット、毛布を持って集合。消化器、防煙マスクの説明の後、救命艇まで移動。海をみると大くうねっており、タイタニックが頭をよぎる。総連のあとは金比羅参り(注3)。ブリッジ(操舵室)にて2礼2拍1礼。今回の航海の安全と目的の観測が無事終了することを祈る。現在の船酔いも何とかしてくれとついでに祈る。その後日本酒をみんなで飲む。いつもの数倍五臓六腑にしみ渡る。
午後5時半に夕食。鰆(?)の焼き物とポークピカタのようなものにマグロの納豆和えともやしのおひたしがでるが、ご飯とスープだけを30分かけて戻さないように押し込む。隣の船員さんはバクバク食べている。見ているだけでも吐きそうだ。その後、部屋に戻り、波が船底をドーン、ドーンと打つ音を横になって聞いているうちに眠ってしまった。
長期の乗船経験は無いのでこれからが非常に楽しみと思っていたらいきなりの大揺れ。多少のゆれは覚悟していたが、ここまで酷いとは。本棚のファイルは倒れ、波の船体にぶつかる音が毎回大きく響く。ジェットコースターで落ちる感覚に近く、たまったものではない。はやくも大酔い。しかも船員さん曰く「まだまだこんなもんは序の口だ」とのこと。私が絶望的な顔色でいると、「今ならまだ間に合う。ライフジャケット着けて、飛び込んで下船しろ」、と暖かい言葉までいただく。先行き、かなり不安。ともあれ、航海はまだはじまったばかり。なんとか頑張ってみたい。
(注1)ピストンコアラー:海底の堆積物を採取する装置。約1トンの錘の下に内径8cmのチューブが20mついている。チューブの中には注射器のようにピストンがついていて、その吸引力で採取した堆積物の落下を防いでいる。
(注2) グラビティコアラー:海底の堆積物を採取する装置。約0.5トンの錘の下に内径12cmのチューブが7mついている。チューブの中にはピストンはついていないが、落下しないように、チューブの最下部にストッパーが2段付いていて、そこで採取した堆積物を支えている。
(注3) 金比羅参り:出港日に行うお宮参り。船のブリッジには神棚が供えてあり、そこで航海の安全と成功を祈る。 |
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