《トピック紹介》
当サブ課題では、南海トラフにおけるプレート間固着・すべり状態を検出し、迅速に情報発信するためのシステムの開発を目指しています。具体的には、現実的な地下の構造や、プレート境界面の形状、さらには海域の分岐断層等を含めて地下の構造を可能な限り正確に反映させるための基盤整備や、それらにもちいた地震による多様なすべり現象をそれらの推定の曖昧さを含めて推定する手法の開発を行っています。また、南海トラフにおいて海底地震計を用いた観測を実施することで、陸域の観測網だけではその把握が難しい海域における地震活動の詳細な把握を目指しています。
令和3年度までの成果のうち、主要な結果を以下に示します。
巨大地震の発生直後に、想定される津波の高さや、内陸に浸水する津波の領域を迅速に把握することはきわめて重要です。日本では気象庁が地震計データを用いて推定された地震規模(マグニチュード)にもとづいて津波警報や注意報が発表されています。また、リアルタイムでGNSSデータを解析し、地震を引き起こした断層モデルを即時的に推定するシステムが国土地理院において開発・運用されています。しかし、地震直後の短い時間で得られるデータから推定される断層モデルは、その推定結果に大きな曖昧さを含んでいます。そのため当サブ課題では、それら断層モデルの推定の曖昧さを定量化する手法の開発を進めています。こうした手法を用いると、観測データを説明できる複数の断層モデルを得ることが可能になります。また、あり得る複数シナリオを迅速に得られると、巨大地震発生後に津波浸水するリスクがどの程度あるかを迅速に定量化・可視化できる可能性があります(図1)。

南海トラフでは、スロー地震を含む多様なすべり現象が確認されています。こうした領域における地震活動を正確に把握することは、将来発生が危惧される南海トラフ巨大地震の発生様式を考える上で重要です。このような背景のもと、本サブ課題では、特に南海トラフ中西部に位置する日向灘のプレート境界浅部におけるスロー地震活動と、非プレート境界域における地震活動の詳細な把握を目的として、同領域における海底地震観測を実施しています(図2)。観測においては、スロー地震の活動をより正確に把握するために、周期の長い地震波を計測できる小型の広帯域地震計も用いました。その結果、低周波微動と呼ばれる活動の時空間発展および、遠地で発生した大地震によって低周波微動が励起される様子 (図3) などが観測できました。